IPv6基本仕様のRFC 2460が廃止
IPv6の基本仕様を規定したRFC 2460が廃止されました。RFC 2460が発行されたのは1998年なので、IPv6の基本仕様を規定したRFCが廃止されるのは約19年間ぶり、2回目の廃止です。今後は、RFC 2460を廃止するRFC 8200がIPv6の基本仕様を規定したRFCになります。
今後、IPv6の基本仕様に関して勉強、参照、紹介などをする場合には、今回廃止されたRFC 2460ではなく、RFC 8200を利用する必要があります。
RFC 8200が発行されるまでに行われてた議論や、6月時点におけるIETFでの議論に関しては、先月、NTTコミュニケーションズ株式会社の西塚要さんが書かれた記事が素晴らしいので、是非そちらをごらんください。
Internet Standard(STD)に
RFC 8200に関して、Internet Societyは、「IPv6が標準化された」というブログ記事を書いて、RFC 8200によるRFC 2460の廃止を解説しています。
これまで、IPv6の基本仕様を示したRFC 2460は、「Draft Standard」(標準化への草稿)という位置付けでした。 RFC 2460は、RFC的な位置付けとしては、「Internet Standard」(インターネット標準/単にStandardと表現されることもあります)ではなかったのです。
この「Draft Standard」が、RFC 8200が発行された背景にあります。
IPv6基本仕様を示したRFC 2460は、RFC 2026に記載された手続きにそった形で発行されています。 RFC 2026には、Proposed Standard(標準化に向けた提唱)、Draft Standard(標準化への草稿)、Internet Standard(インターネット標準)という3つのレベルが定められていますが、RFC 2460は、このうちのDraft Standardでした。
RFC 2026は、2011年にRFC 6410によって廃止されています。RFC 6410は、Draft Standardというレベルを廃止し、それまで3レベルだった標準化の過程を2レベルへと変更しました。
RFC 6410では、Draft Standardとされている仕様をInternet Standardへと昇格させる条件として、既存実装との不整合などを発生させるようなErrataが存在しないことなどの条件が示されています。 RFC 6410に示された条件などを満たしつつ、IPv6仕様を「草稿」であるDraft Standardから、「標準」であるInternet Standardへと昇格させるための議論が、IETFの6manワーキンググループで2015年に開始されました。
その議論を経て、今回、RFC 8200が発行されました。
RFC 2460からの変更点(仕様面)
RFC 8200の基本的な内容はRFC 2460と同様です。 Internet Societyのブログでも、以下のように書かれています。
So really nothing changes, as RFC 8200 is a combined version of RFC 2460 along with other relevant RFCs and Errata.
(日本語訳) なので、特に何も変わってない。RFC 8200は、RFC 2460と関連するRFCやErrata(訂正)をまとめたものです。
RFC 2460からの変更点がRFC 8200のAppendix Bに記載されていますが、主な違いとしては、RFC 2460に対して別のRFCが更新している内容の反映、曖昧であった部分を明確な表現に修正、IPv6拡張ヘッダに関連する仕様変更などです。細かいところでは、「IP Next Generation」という表現が削除されたというのもあります。もう「次世代」ではない、ということなのだろうと思います。
仕様としての変更点という視点で見ると、RFC 8200は、溜まった各種仕様変更を反映したといった側面が強いと言えます。 以下の図のように、今回廃止されたRFC 2460に対しては、別のRFCが更新を行っていました。
今回廃止されたRFC 2460も、別のRFCを廃止するRFCです。 1995年にRFC 1883が最初のIPv6基本仕様RFCとして発行され、1998年に RFC 2460が発行されることでリニューアルされています。
- RFC 1883: Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification(1995年)
- RFC 2460: Internet Protocol, Version 6 (IPv6) Specification(1998年) obsoletes RFC 1883
RFC 2460が発行された後もIPv6本体に関連する議論は続きました。その結果、RFC 2460を更新する形で9個のRFCが発行されました。最も多いのがIPv6拡張ヘッダに関連するものです。
- RFC 5095: Deprecation of Type 0 Routing Headers in IPv6 (2007年) updates RFC 2460
- RFC 5871: IANA Allocation Guidelines for the IPv6 Routing Header (2010年) updates RFC 2460
- RFC 6564: A Uniform Format for IPv6 Extension Headers (2012年) updates RFC 2460
- RFC 7045: Transmission and Processing of IPv6 Extension Headers (2013年) updates RFC 2460
- RFC 7112: Implications of Oversized IPv6 Header Chains (2014年) updates RFC 2460
IPv6フラグメントに関連する更新も2個あります。
- RFC 5722: Handling of Overlapping IPv6 Fragments (2009年) updates RFC 2460
- RFC 6946: Processing of IPv6 "Atomic" Fragments (2013年) updates RFC 2460, RFC 5722
残りの2個は、IPv6フローラベルとIPトンネル利用時のUDPチェックサムのRFCです。
- RFC 6437: IPv6 Flow Label Specification (2011年) updates RFC 2460
- RFC 6935: IPv6 and UDP Checksums for Tunneled Packets (2013年) updates RFC 2460
RFC 8200は、RFC 2460に対して行われていたこれらの変更を反映しています。 これまで、IPv6を学ぶ人は、RFC 2460を読みつつも、RFC 2460を更新するRFCを読む必要がありました。 「RFC 2460には、こう書いてあるけど、RFC ○○がRFC 2460を更新しているから、その部分に関してはRFC 2460に書いてあることをそのまま覚えてはダメだ」という状況が続いていたのです。 今回のRFC 8200によって、そのような状況は改善されることになります。
これまでも事実上は「標準」として扱われてきたわけですが、2017年になって、「インターネット標準」となるIPv6基本仕様RFCが発行されたというのは、ややこしくも面白い話ですね。
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