IT系の編集者・雑誌・記者・ライターが激減している

2014/10/2-1

アスキー系の技術書が今後は出版されなくなる、もしくは、刊行点数が激減しそうです。以下のブログ記事で、9月末をもって株式会社KADOKAWAがアスキー系の書籍編集部をいくつか廃止・解散していたことが述べられています。

株式会社KADOKAWAは、9月末をもってアスキーブランドの書籍を作っていたいくつかの編集部を廃止・解散しました。これに伴い、私(鈴木嘉平)が編集長を務めていたハイエンド書籍編集部も解散しました。この件について、株式会社KADOKAWAからは特にアナウンスなどは行わないということです。
誤解しないでいただきたいのですが、これはアスキーの本がなくなるということではありません。週刊アスキーもASCII.jpも存続していますし、これからもアスキーの雑誌・書籍は発売されます。また、9月までに刊行された本は今後も継続して販売されます。
ただ、これまでよりも刊行点数は少なくなるでしょうし、私が作ってきたような技術書が出版されるかどうかはわかりません。少なくとも、ハイエンド書籍編集部から10月以降に刊行するはずだった企画はすべて中止になっています。

つい最近、私も同社から新書を出版しているのですが、私が関わっているのはアスキー系の部署ではないので、現時点では私に直接は関係がない話です。しかし、これまでアスキーの本を買ったり読んだりしてきた一読者として寂しい気持ちになりました。

IT系の技術書が売れない

最近、IT系の技術書が売れないという話を色々なところで聞きます。会社の経費で技術書を購入しづらくなったという話も聞きますし、個人としても昔と比べると本を買わなくなったという話も聞きます。初版1刷の部数も昔と比べると減っています。

部数が減るだけではなく、技術書の単価も下がっています。2000年頃と今を比べると、IT系技術書の1冊あたりの価格が凄く下がっています。

部数が減って単価も下がるわけで、著者に入るお金も減っています。その結果、技術書を書くことで生計を立てるハードルが昔よりも上がっているのではないかと思われます。全く不可能というわけではないのですが、昔よりも難易度は高そうです。

「電子書籍で出せばいいのでは?」という意見もあるとは思いますが、現時点における電子書籍は基本的に低価格路線なので、数年かけてじっくりと調査しながら数百ページの書籍を書き上げるような技術書との相性は良いとは言えなさそうです。読者にとって電子書籍による技術書は嬉しいことが多いとは思いますが、部数が出ないけど内容な深いといった方向性の本は企画されにくいのです。

情報通信関連の記者やライターが減っている

私が関わっているのは主に情報通信関連の記者やライターの方々なのですが、そういった記者やライターも激減しています。私がプログラマから文章執筆業に転じたのは約7年前ですが、そのときと比べて、明らかに情報通信関連の記者やライターが減っています。

媒体が減ったうえで、記事一本あたりの単価も下がったので、まずはライターが消えていきました。それに続いて記者も減って行きました。つい最近も、記者発表会やイベントなどで良くお会いしていた記者の方が退職の報告をされていました。

生き残っている媒体でも、記者の数が減らされているとか、部署全体の予算が減らされたので苦しいという話を色々聞きます。

情報通信関連の記者やライターが減ったことが理由であるかどうかはわかりませんが、最近、私のところに来る記事執筆依頼も増えてきました。残念ながら既に原稿を抱えているので断ると、「では、他に書ける人を紹介して下さい」と言われるのも恒例になりつつあります。

みなさま、情報通信技術の記事を書けるライターを探されているようですが、いまや絶滅危惧種かも知れません。

自社メディアが重要に

書いてくれる媒体が減っているので、企業自らがWebを利用した自社ブランド強化に乗り出しつつあります。

オウンドメディアという単語が各所で聞かれるようになってから既に数年経過していますが、かつてライターや記者だった人が、IT系企業の広報部に入ったりしています。

各種企業がIT系のメディアに広告を出稿しなくなったのも記者などが減っている要因のひとつですが、記者が減ることによって企業が自ら自社メディアを通じて宣伝する重要性が上昇しているという状況は非常に皮肉なものです。

この流れによって、さらにIT系の記者が減って行きそうです、IT企業が自社の宣伝を目的とした記事の割合が増えて行くかも知れません。

取材の経験はどこで?

いまは、若い記者やライターがIT系の記事を書くための取材経験をできる環境が減っているような気もします。

「ネットで○○が話題になっています」という記事が得意なライターは増えているかも知れませんが、特定の業界に情報網を持っていて必要に応じて取材ができる記者は、少なくとも私のまわりでは減っています。いま、取材を行いつつ情報通信系の記事を書いているのは、40代周辺、もしくはそれより上の世界の人々が多いのかも知れません。下の世代を育てるような環境が非常に少なく、若い記者やライターが誰かについていって経験を積むといったことがやりにくいのです。

その一方で、通常の記者が少ないので「ブロガーです」といって記者発表会等に行ける機会は昔よりは増えている可能性もあります。ただし、読む人がそこまで多くはない情報通信系の記事を書き続けるブロガーがどれだけいるのかという話はありますが。

どこに向かうのか?

技術書が減り、雑誌が減り、記者やライターが減っているわけですが、それによってポッカリと空いた穴を埋めるような存在が今後登場するのかどうかが非常に気になる今日この頃です。

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