ネット上で嘘をつく子供ほど社交性と自尊心が乏しく攻撃的?

2009/3/16-1

ネット上で嘘をつく子供は、社交性と自尊心が乏しく、強い社会不安をかかえ、攻撃的であるという論文がありました。 アメリカの大学で行われた心理学の研究結果です。 テレビが子供に与える影響に関しての研究は数多くありますが、最近はインターネットが子供に与える影響などに関する研究も色々あるようです。

"Liar, Liar: Internet Faking but Not Frequency of Use Affects Social Skills, Self-Esteem, Social Anxiety, and Aggression", JEFFREY P.HARMAN, CATHERINE E.HANSEN, MARGARET E.COCHRAN, CYNTHIA R.LINDSEY, CYBERPSYCHOLOGY & BEHAVIOR, Volume 8, Number 1, 2005

なお、ここで言われている「子供」とは11歳〜16歳です。 その他の年齢に関しての考察は全く述べられていませんし、サンプルもアメリカ南部の学生187人なので、世界共通の話かどうかはわからないのでご注意下さい。

以下、要約や、論文を読んだ感想等です。 誤読等が含まれている可能性が高いので、是非原文もご覧下さい。

調査方式

6年生43人、7年生84人、8年生60人に対して調査を行ったと論文に記述してありました。 年齢は11〜16歳、58%が女子生徒、85.5%がヨーロッパ系アメリカ人、8.5%がアフリカ系アメリカ人、1.6%がアジア系アメリカ人、ラテン系は1%未満でした。

調査は、米国心理学会の指針(*1)に従って行われたと書いてありました。 親の承諾書を得る事が出来た子供に対してのみ調査を行ったそうです。

「嘘」に関しては例えば「インターネット上で他の人と会話をするときに実際よりも年齢が高いふりをする頻度はどれぐらいですか?」などの質問をしたそうです。 ただし、「嘘」はタイトルでは「Liar」ですが、論文本文中では「faking」と書いてあるので、どちらかというと「芝居」に近いのかも知れません。

自尊心に関するテストとしては「Rosenberg Self-Esteem Scale(*2)」による10項目の質問、社会不安に関しては「Social Anxiety Scale for Children-Revised(*3)」による18項目の質問、社交性に関しては「Matson Evaluation of Social Skills with Youngsters (MESSY)(*4)」による62項目の質問が利用されました。

(*1) American Psychological Association. (1992). Ethical principles of psychologists and code of conduct. American Psychologist 47:1597-1611.

(*2) Rosenberg, M. (1965). Society and the adolescent selfimage. Princeton, NJ: Princeton University Press.

(*3) LaGreca, A.M., Dandes, S.K., Wick, P., et al. (1988). Development of the Social Anxiety Scale for Children: reliability and concurrent validity. Journal of Clinical Child Psychology 17:84-91.

(*4) Matson, J.L., Rotatori, A.F., & Helsel, W.J. (1983). Development of a rating scale to measure social skills in children: The Matson Evaluation of Social Skills With Youngsters (MESSY). Behavioral Research and Therapy 21:335-340.

調査結果

調査の結果、以下のような事がわかったと記述してありました。

  • 女子生徒の方が社交性に富む傾向があった
  • 男子生徒の方が攻撃性が高い傾向があった
  • 社交性と攻撃性は性差と関連性があった
  • 自尊心と性別には関連性がみられなかった
  • インターネット利用時間の長いグループと短いグループで違い比較したが、顕著な違いは見られなかった
  • fakingが多い生徒は自尊心が低い傾向が見られた
  • fakingが多い生徒は社交性が乏しい傾向が見られた
  • fakingが多い生徒は性別に関係無く、攻撃性が強い傾向が見られた

これらの結果から、多くの子供はインターネットによってソーシャルな被害を受けているわけではないが、インターネットの匿名性を活用している子供は社交性を失って行っているかも知れないと推測しています。

もしかしたら、face-to-faceで上手にインタラクションを確立出来ない生徒が、インターネット上に作り上げたペルソナの中に逃げてしまっているかも知れないとも述べていました。 インターネットで作り上げたペルソナは、制約が少なく、不安を和らげ、自分の世界を構築できるとも記述してあります。 これらの制約の少なさが、実世界での没個性化や攻撃性へと繋がるのではないかとも述べられています。 また、作り上げた理想像と現実との乖離に自尊心を失う可能性も指摘しています。

このように、fakingによって社交性に影響があることがわかった反面、インターネットそのものが悪いのではなく、インターネットを使ったface-to-faceに近いコミュニケーションを子供が行っている間は良いとも述べています。

Instant Messagingなどの発達によってコミュニケーションにプラスとなる要素がインターネットにはある反面、親がインターネット上での子供の行動を適切に管理することが大事であるとも書いてありました。 また、多くの子供がインターネットにアクセスできる学校なども、インターネットが生徒に与えるかも知れない悪影響を把握すべきだとありました。

研究結果における制約

なお、この論文では研究が不十分である点として以下のような事柄を挙げています。

  • サンプル数が少ないこと
  • 回答率が低いこと
  • アメリカ南部の学校でしか調べていないこと
  • 6,7,8年生しか調査していないこと
  • サンプルがヨーロッパ系アメリカ人に偏っていること
  • そのため、家庭の経済状態が偏っていると予想されること
  • 実際に計測するのではなく質問であったこと

そもそも「嘘」について調べている筈なのに、本人の回答を元に結果を作成している点が最後に述べられていました。 この論文では、「インターネット利用時間と社交性欠如には関連性が認められない」としていますが、そもそも回答者がインターネット利用時間を過小に報告していた可能性もあり得ることを臭わせる文章も書いてあります。

ただ、「インターネットが原因でそうなっているのか?もしくは、特定の特徴を示す人物が行いがちなインターネットの使い方なのか?」という点に対しても考察が必要だと思いました。 論文は全体とてして「子供のインターネットの使わせ方を考える必要がある」という論調が強かった印象があります。 確かに子供のインターネット利用は今後の社会的な課題になると思いますが、インターネットでの行動が結果なのか、それとも原因なのかでは大きな違いがありそうです。

年齢制限と年齢詐称

この論文は「年齢の詐称」を「嘘」と定義した調査を行っていました。 論文では、他人と話すとき等を想定しているようなニュアンスを受けましたが、実は「システム的に年齢を詐称することで子供にメリットがある」という事例もありそうな気がしてきました。

例えば、mixiは「コミュニティの全機能(参加、閲覧、投稿など)が利用できません」となっています。 他でも年齢制限があるWebサービスは色々ありそうです。

例えば、何らかの機能を使ったり、そもそも特定のWebサービスに参加するために年齢の詐称が不可欠で、かつ、詐称が非常に容易だったりすると、多くの子供が年齢の詐称を当たり前のように行うようになっていくという事例もありそうです。

もし、ネットでの「嘘」を繰り返す事が、子供の社交性を奪っていたり攻撃性を高めているのであれば、「年齢制限」が「年齢詐称」に何らかの影響を与えているという事もあるのでしょうか? まあ、ネットでの「嘘」が原因なのか、もともと「嘘」に抵抗がない人が示す傾向がたまたまアンケートで出たのか、もしくはこの論文が全くの勘違いなのかという可能性もあるので、何とも言えませんが。。。

良く見るWeb上での「年齢制限」が別の何かを引き起こしているという事があるのならば、それはそれで非常に皮肉な話だと思いました。

最後に

インターネットは非常に有用です。 例えば私はインターネットの恩恵を非常に多く受けています。

しかし、インターネットをコミュニケーションツールとして使い続ける事で人間の心理状況や精神の発達や社会性がどのように変化するのか、もしくは、何も変化が無いのかは誰にもわかりません。 それらは「インターネットで育った子供」の年代が世界を支配する時になって初めて色々出てくるのだろうと思います。 「成人してからインターネットに接した」のと、「小さい頃からインターネットがあった」のでは大きく違うのだろうと思います。

利用者の変化は、ネットのあり方そのものを変えて行きそうです。 日本国内でのネット利用が今と同じような状態で維持され続けるのか、もしくは何か世間を騒がせる事件が発生して、それに便乗して新たな規制や法律が出来上がるのかも今のところ誰にもわかりません。

何が問題になり得て、どうやったら多くの問題を防げるか、などを様々な人が考えるたり開発することがきっと重要なんだろうなぁと思いました。 今、目の前にあるネット環境がいつまでも同じ姿であり続けられるかどうかは、今使っている方々に強く依存しそうです。 「あの頃のネットは良かったなぁ」というような懐古野郎にならないで済む事を切に願う今日この頃です。

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