科学と超能力に関するタブー

2008/4/10-1

Google Tech Talksで「"Science and the taboo of psi" with Dean Radin」という映像が公開されています。 超能力は存在するのかを真面目に研究している人の講演です。 どこまで信じるかと言われると、答えようが無いような気分になる講演でした。

「超能力」という単語を見てしまうと、どうしても「ニセ科学」という単語も同時に浮かびます。 「あやしげ」とか「うさんくさい」という気分になります。 ただ、どうしても理解できない量子非局所性の話があることなどを考えると、同様な感じでこのような話もあるのかなぁと思ったり、 つい最近「イノベーターは理解されない」といった内容の講演を見たばかりなので、ちょっと複雑な気分です(参考 : イノベーションに関する勘違い)。

あと、プライベートでは信じていると言う人でも、公には信じていると言わないところなどはあり得そうな話だと思いました。

以下、要約です。 誤解などが含まれる可能性が多分にあるので、是非ビデオをご覧下さい。 (YouTubeでEmbedding disabled by requestでした。微妙なネタだからでしょうか?)

導入

遠隔地にいる息子がころされるときに原因不明の苦しみに襲われた母親の体験(1981年)を紹介した論文を紹介。 (恐らく「Using Neuroimaging to Resolve the Psi Debate, Journal of Cognitive Neuroscience. 2008;20, p182-192」と思われる。)

さて、このような不思議な現象に対して人々はどのような反応を示すか。

Psychic phenomena - psi

多くの人が下らない迷信だと言う

ただ、公に聞く場合と個人的に聞く場合で回答が異なる場合がある。 これがタブーである所以とも言える。

一部の人は「いや、似たような経験がある」と言う。 世の中全体で見ると、非常に奇妙な体験談を語る人が多い。

それに対して、幻覚、嘘、夢想、認知的バイアス、偶然、詐欺という意見も出る。

一方で、世の中はこのような話題で飽和している。 (講演では、X-men、グリーンマイル、マトリックス、ハリーポッター、HEROES、PHENOMENON(邦題:現象)、ファンタスティック4、スターウォーズ、その他映画ジャケットが表示されている) 本やテレビ、その他色々な媒体でこれらを目にする。 どこにでもある。

科学者としてこのテーマを扱っているとタブーに突き当たる。 科学分野におけるタブーは調査やアイディアを制限してしまう。 多数の意見によってタブーが発生し、科学的な判断が阻害される可能性もある。

さらに、報道がゆがめられる事もある。 記者は激しく非難されたくないので、この分野の科学がメディアに正しく取り上げられるのは非常に難しい。

このタブーは100年ぐらい継続している。

新聞記事の例

Brain scn tests fail to support validity of ESP

Research on parapsychology is largely taboo in academia. But two Harvard scientists recently set out to settle, one and for all the age-old question. Is extrasensory preception, or ESP, real ?

The study was the first to use cutting-edge brain scanning called functional MRI to address the question of whether ESP powers exist, said Moulton, who

まず、最初の間違い。 「first」と書いてあるが、実際には5回目だ。 その前の4つはGoogle scholarのおかげで簡単に発見できるようになっているが、4つとも成功している。 そのうち、3つはメインストリームの医学論文誌。 その話は誰か聴いたことがあるかというと、無い。 だが、今回のはあまり成功しなかった論文に関しては報道される。

If ESP were real, the brain should have responded differently to the ESP image -- recognizing it as familiar. But in all cases, when the researchers compared the scans, they saw precisely the same pattern of brain activation for the ESP and non-ESP images, meaning the brains responded the same.

「in all cases」とある。 でも、これは論文に書いてある事と違う。 論文では、16カップルで試していて、1カップルは関連がありそうな結果だとしている。 ただ、論文では、その後何故その結果が人為的であるかを説明するために多大な労力を裂いている。

この論文を書いたのは修士の学生だった。 学士の時に超心理学の研究をしていて賞を受賞したらしい。 しかし、記事ではこれを行った学生はこの分野での研究を続ける事を断念すると記述してある。

これは恐らくタブーによるもの。 修士ぐらいまでは、このような事をしても許される。 しかし、博士までこれをやってしまうと、非常に就職しにくくなってしまう。

検証可能な科学的なテストをやる方法はないのかという点に興味を持ってきた。

PSIに関する科学的な証拠は冷戦中に繰り返し評価されてきた。

  • 1981 - Congressional Research Service
  • 1985 - Army Research Institute
  • 1987 - National Research Council
  • 1989 - Office of Technology Assessment

4つとも、「何か興味深いこと」が発生していると結論付けている。 超能力というよりも、理解できない何かが発生していると書いている。

Review of "remote viewing" evidence for the CIA (1995)

Jessica Utts, Prof. of Statistics, UC Davis Using the standards applied to any other area of science, it is concluded that psychic functioning has been well established.

Ray Hyman, Prof. of Psychology, U Oregon ... free of methodological weaknesses ... effect sizes ... are too large and consistent to be dissmissed as statical flukes ...

「何か」が発生しているようだ

両名ともこれを何と呼ぶかに関しては拒否した。

Rayは「誰が何と言おうと超能力が存在するとは公言しない」というような感じだった。 ただ、何か興味深い事が発生しているということは認めている。

130年の間、何か興味深いことというのが観測され続けている。 MRIの結果を見ても何か興味深い事が出る。 何故これに関して大学で習わないのか? 何故これに関して科学メディアで見ないのか?

タブーだから。

科学にはタブーが無いと信じている人もいる

世界には高度な学術機関は17500ある。 PSIに興味があるのは50以下。全体の0.3%。

ただし、世界の90%以上の人は興味を持っている。

何故、皆が興味を持っていても研究がされないのか?

西側科学だとmind=brain、東側科学だと"エネルギー的なもの"。 そして、私はPSIを東側的な思想に分類した。

西側科学者として訓練されている。 西側科学者的思想は非常に力強い。

西側的科学にも東側的科学にも曼荼羅がある。 西側的曼荼羅はMRI、東側的曼荼羅は曼荼羅。

西側的思想だと、何故それがそうなっているのかを考える。 ラジオから音楽が出ているという事例を考える。 最初は中に人が入ってるかもしれないと思って中を調べるが、中に人はいない。 次に、中を調べて回路を発見する。 徐々に回路の意味を解析していく。 脳科学はそのような道を辿っている。

東側的思想では「いやいや、ラジオは音楽を発生させているのではなく受信しているだけだ」という。

重要なのは、両方とも正しい可能性があるということだ。

Rule #1 人間の能力は時期と共に変わる

有名な野球選手でも年毎に成績が変わった

Rule #2 実験結果にもバラエティがある

アスピリンの実験結果も被験者毎に結果が違う

アスピリンが2度目の心臓麻痺予防に有効であったという結果は0.6%だった。

Rule #3 Small effects are real

結果が小さくても結果は結果だ。

胸部へのインプラントが結合組織病を発生させる可能性があった。 影響は0.00いくつか%だった。 非常に少ない確率だった。

しかし、市場から撤去されるには十分な数値だった。

アスピリンの有効率も非常に低い。 FDAによる認可を得て、大量の人が飲むには十分な値。

テレパシーはアスピリンの有効率よりも5倍確率が高いが、認められない。

Rule #4 Many expericences are not psychic

多くの経験談はPSYCHICではない。 選択記憶、夢想、精神疾病、その他理由。 確かにそうであることが多い。 様々な事例を見ていくと、8割もしくはそれ以上がそのような理由だと思う。

テレパシーをどうやってテストするか

テレパシーの例

誰かが誰かを思い浮かべる、そうすると相手側も同時に思い浮かぶ。 テレフォンテレパシーと呼ばれている。 電話がなって、出る前から誰がかけてきたかわかる現象。

Ganzfeld

Ganzfeldという方法でテストが行われている。 Ganzfeldとはドイツ語で「whole field」の意味。 (参照 wikipedia : Ganzfeld experiment)

送信者と受信者がいる。 送信者は赤い光で照らされる。 ピンポンボールを半分に切断して、目の上にかぶせる。 被験者にはピンポンボールの下で目を開けていてもらう。 被験者の目に映るのは真っ赤だけ。

時間が経過すると脳が情報を欲してくる。 さらに、被験者にホワイトノイズが入ったオーディオを聞いてもらう。 15分ぐらいしてくると、夢の中のようにものが見えたり聞こえたりしてくる。 そのような状態にするのが目的。 夢を見ている状態に素早く近づけるのがこの環境の意図。

離れた場所に送信者がいる。 送信者は、受信者に対して何かを「送信」しようとしてもらう。 被験者には、大きな声で何かを言ってもらう。

送る「もの」はターゲットプールの中からランダムに選択する。 (プレゼン資料には、バラ、顕微鏡、象、イカリの絵が描いてあるカードが表示されている)

例えば、象が選択されたとする。 送信者は、象を見る。 象に関して考えて、受信者の意識にそれを挿入しようとする。 運が良ければ、受信者は「アフリカの大きな動物」などと言うかも知れない。

30分ぐらいしたら、受信者を外に出し、必要に応じて録音された音声を聴かせる。 そのうえで、4つのカードから一つを選ばせる。 1/4の確率で当たるはず。 全ての情報を1つの数値へと集約する。

1920年〜現在まで以下の場所がこのような実験を行った。

  • Harvard University
  • Duke University
  • City College, City University of New York
  • University of California, Los Angeles
  • McGill University, Montreal
  • University of Leningrad
  • Cambridge University
  • University of Amsterdam
  • University of Götenberg, Sweden
  • Cornell University
  • University of Edinburgh, Scotland
  • Stanford University

2006年まで3145回25研究室での結果を合計するとヒットレートは32%ぐらいになる。 本来ならば25%にならなければならない。 88回の実験でこれだけの差が出るには29京分の1の確率になる。

実験をクリエイティブな人々や固定観念が無い人に限定すると、結果は65%ぐらいに上昇する。

説明としてあり得るのは?

  • 記録ミス ⇒ no
  • ランダム性の問題 ⇒ no
  • 情報漏れ ⇒ no
  • 実験の品質 ⇒ no
  • 詐欺 ⇒ no
  • 選択的な報告 ⇒ no

でも、報告されていない実験がもっといっぱいあって、それを含めると結果は違ってくるかもしれないなどの考え方もあるが、それをいま議論するつもりは無い。 それを言い出すときりがなくなってしまう。

他者による検証

  • 1985 - Honorton (yes)
  • 1985 - Hyman (no)
  •  ただし、10人の心理学者と統計学者が両方の意見を検証したが、誰もHymanに同意しなかった
     4人は意見を述べなかった
  • 1994 - Bem & Honorton (yes)
  • 1999 - Milton & Wiseman (yes *)
  •  noとして執筆されているが、分析方法が間違っており、分析方法を変えるとyesになる
  • 2001 - Storm & Ertel (yes)

では、懐疑的な人がやった実験では?

2005 THE HUMANISTIC PSYCHOLOGIST, Finding and Correcting Flawed Research Literatures

After eight studies, we had an overall [statistically significant] hit rate of 32%...

やっぱり32%になった。

... precariously close to demonstrating humans do have psychic powers.

もう一つ実験をした。 今までに行われていない実験方法だった。 その結果、ネガティブなデータが出た。

Due to this last data set, we do not believe that humans possess telopathic powers.

さらに、32%のうちの7%は誤差ではないかと記述している。

やはり、これがタブーたる所以。 8個の個別研究で同じような結果が出て、最後は信じないと言ってしまう。

どれだけ多くの事例や証拠を見せても、事例が嫌いならば信じてもらえない。

EEG Correlations Experiment Design

脳を調べる。 二人の人間を隔離する。 お互いを思い浮かべてもらう。 片方の脳波を見て、他方の脳波に影響が出るか見る。

送信者と受信者が隔離されたところにいる。

受信者はシールドされた暗い部屋にいる。

送信者は暗い部屋にいる。 送信者は画面を見ている。 定期的に画面に受信者の顔が表示される。 刺激を与えるとともに、被験者に実験タスクが何であるかを思い出させる役目。


プレゼン資料より引用。

脳波のグラフを見ると、送信者の脳波には期待通りの影響が出ている。 受信者側も同様のピークが現れている。 送信者の脳波は期待通り。 しかし、受信者は暗い部屋にいただけなので脳波は期待通りではない。

ただし、受信者は何も知覚していない。

別の研究。 上が送信者側の脳。 発光してから200msec後に脳が活性化している。

下が受信者側。 受信者側でも同時期に何かが行われている。 ただし、この場合でも受信者は何も知覚していない。


プレゼン資料より引用。

時間を同期して何かが起きている。

同様な実験結果は色々あるが割愛する。

2001年と2005年にMRIを使った論文があるが、メディアに取り上げられることはなかった。 30人の中から特徴が顕著な二人のカップルを選んで実験を行った。

予知能力

Color Phi Effect

連続して青と赤の点を見せていると、青が赤に変わる寸前に赤に変わるように知覚する。 これは予知の一種かもしれないという議論あり。

(言いたい事は判る気がしましたが、意味が良くわからなかったのと、プレゼン資料中にソースと書いてあったwikipediaページが発見できなかたので、これ以上は割愛。)

実験方法

ボタンを押してから画像を出す。 画像には静的な物、情熱的な物、嫌悪感を煽るものなどがある。 毎回出現する画像はランダム。

ボタンを押して画像が実際に出る前に脳波が変化する。 次に来る画像が表示される前の脳波が画像の種類によって変わっている。


プレゼン資料より引用。

(上記図は画像ではなく、ボタンを押した後に発光する場合としない場合がランダムに発生する実験の結果)

(その他、大きな音を出すか出さないかをランダムに行う実験、同様の実験でMRIを見たものなど色々な実験が紹介されていました。)

これらの実験では、女性の方が男性よりも顕著な結果が出ている。

瞳孔を監視する実験

様々な写真を表示する前に瞳孔がどのように変化をするかを検証。 男性では顕著な結果は出なかった。 女性では実際に絵が出る前に瞳孔の変化が顕著に現れた。 Emotionalな絵が出る前の瞳孔とCalmな絵が出る前の瞳孔変化の平均値には優位な差が認められた。

何故か何も表示されていないスクリーンに対して瞳孔の変化に違いが存在する。 19の調査結果のうち、10個に顕著な違いが観測された。

常識外の主張には並外れた証拠が必要

そうだと思うが、それは何だろう?

経験?文化?歴史?教育レベル?

学術分野の人に聞くと一般と同じような割合で信じている。 しかし、公に発言してもらうと違う結果になるが、匿名での調査だと同じ結果になる。

130年間繰り返し証拠を出している。

理論?

存在している理論は全て完璧か?そうではないと思う。

PSIは物理の非局所性(nonlocality)に近いのかも知れない。

nonlocalityは場所だけではなく時間に対してもあるので、実際は不思議な世界に住んでいると言えるのかも知れない

PSIは実はあると思う

このような現象が本当にあるかどうかに関しての研究はもう既に十分ある。 これから必要なのは、何故このような事が発生するかだ。

この研究に何の意味があるのか?

興味深いからだ。 私が25年もこれをやっているのは、何故このような事が起きるのか不思議だからだ。

一般の人が科学に興味を持ってもらうことができる。

我々が何であるかに関して関わる。 今は自分は自分だけであると思っている。 ただ、実際にはもう少し広範囲に拡がっている存在なのかも知れない。 時間と空間的に他者と繋がっているのかも知れない。

人間が単なるニューロンの集合でしかないという議論へのチャレンジ。 ニューロンに関する理論は正しいと思う。 ただ、完全ではないと思う。 何かが不足しているのだと思う。

本の紹介

講演者の本

Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality

The Conscious Universe: The Scientific Truth of Psychic Phenomena

その他

Extraordinary Knowing: Science, Skepticism, And the Inexplicable Powers of the Human Mind

Irreducible Mind: Toward a Psychology for the 21st Century

Psi Wars: Getting to Grips With the Paranormal

Varieties of Anomalous Experience: Examining the Scientific Evidence

最近のエントリ

過去記事

過去記事一覧

IPv6基礎検定

YouTubeチャンネルやってます!