[書評] おもてなしの経営学

2008/3/9

Life is Beautifulの中島聡氏が書かれた「おもてなしの経営学」を献本して頂きました。 (アスキーの方、ありがとうございました。)

超えられた存在として紹介されるソニー

この本の副題は「アップルがソニーを越えた理由」となっていました。 1章では、様々なところでソニーが登場しますが、どれも「超えられてしまった」存在として紹介されています。 例えば、「なぜアップルに出来た事がソニーにできなかったのか」という節では、以下のように書いてありました。

反面教師として注目すべきなのは、「ソニーになぜそれができなかったのか?」ということ。

製品企画のイメージとしては、ニーズを「発掘」していた気がします(私は企画をする部署ではなかったので実際どうだったかは知りません)。 「こういうユーザはこういうことをしたいはずだ」という企画の多くはseed指向だった気がします。 「俺が欲しいのはこれだ」とか「こんな面白いもの持っている」という攻め方をしている商品企画は見たことがありませんでした。 (私も大いにseeds指向なので人のことは言えないのですが。。。また、普通は「発掘」するものだと思います。)

正しく製品企画などをやると、そうなるのはわかります。 また、忙し過ぎて自分で楽しむ時間がないというのもわかります。 そして、多くの現場は個別に頑張っているのもわかります。 大ヒット製品を作るための銀の銃弾はないのだろうとも思います。 最近は全てが複雑化してしまっているため、一人でちょっとした試作をこっそりやってみるような事が昔より難しくなったのかも知れません。

一方で、iPodは強烈なニーズがあったところに製品を作ったので売れたのだと思います。 他社もそのニーズには気がついていたと思いますが、著作権に関する懸念が実現をじゃましていたのではないでしょうか。 iTunesを含めたアップル物が爆発的に売れたのは、ニーズに対するソリューションに対して大々的に切り込んでいったからだと個人的には思っています。 (まあ、実際にはその他色々あって、そんな単純な話ではないのだとも思いますが。。。)

ですが、ソニーはモルモットが社内に多く存在している会社だと思います。 色々自分でデバイスを作って遊んでいる人がいたし、オンラインの世界で楽しんでいる人もいました。 自社製品だけではなく、他社製品も一通り知りつくしているような人もいましたし、スポーツ系課外活動を楽しんでいる人もいました。 そのような方々が抱えているニッチなニーズから、何かを掘り出していけば、そのうち大ヒット製品を出してくれる会社であると思います。 最近は落ちぶれた例として取り上げられる事ばかりな気がしますが。。。

問題は、そのような方々は自分がしている事を単なるニッチな事だと信じていたり、 企画をする人がその行為を見てもその楽しみ方を理解できなかったり、 企画をする人が改造の本質を理解できなかったり、 承認をする立場の人が全然ネットやWebに興味がなかったり、 最高の種を潜在的に持っている人が得てしてプレゼンが激烈下手だったり、etc、といことなのかも知れないとは思いますが。。。

アップルの話が昔のソニー話とだぶる

井深氏が飛行機の中でステレオ音楽を聴きたいという発想からウォークマン開発が開始されたという話を聞いたことがあります。 社内での検討では、当初それは無理だという結論が出たそうです。 さらに、録音できる事が前提であったテープレコーダーから録音機能を省くという発想自体があり得ないという発想が多かったそうです。 そして、無理である理由が列挙されて行ったのですが、逆に「それらを解決すれば実現できるんだよね」と返されて、エンジニア達は結局作っていったそうです。

iPod+iTunesも同様の状況がアップル社内で発生していたのかも知れません。 iPodが出る前から、多くの会社がMP3を使った再生装置を大々的に販売すればニーズが大きい事はわかっていたと思いますし、それ用にオンラインで音楽を販売したいとも思っていたはずです。

ただ、当時はMP3と言えば違法利用というイメージがありましたし、オンラインでの音楽販売を著作権保持者が認めるわけがないと誰もが思っていたのであると思います。 社内での反対意見を抑えて、実現するところまでを昔のソニーのようにやったのがアップルなのだろうと思いました。 (もちろん、RIOなどのMP3プレイヤは前からありました。ただ、大手家電メーカーが大々的にMP3プレイヤを販売してという例はなかったような気がします。ここら辺は良くわかっていないので、間違っていたら正してください。)

技術的には簡単にできるんだけどニーズがわかっていないから正しい組み合わせが出来ていないところや、技術的には簡単に出来るけど法的問題や政治的問題などの要素で皆が躊躇している分野などを切り開いたものというのは強いということなのかも知れません。 (もちろん、今まで全く出来なかった事を特定の技術で出来るようにしてしまったものも最強です。)

一つ二つの製品でイメージ全体が決定してしまう怖さ

ここまでは何となく大まかなイメージ的話ですが、実は話題として出ている製品は1つか2つです。

ソニーやアップルは、それ以外にも大量に製品を発表し、製造しています。 そして、その多くはそれなりに売れていると思われます。 ソニーも特定の業界内では好評の製品をちょくちょく出していると思います。

大きな違いは、超特大ホームランを最近打ったかどうかではないかでしょうか。 この一つ二つの特大ホームランの影に、様々な製品が存在していたはずなのですが、数ある製品の存在は忘れられ、会社を語るときのイメージ全体が一つ二つの製品をイメージしたものになるという事実は、非常に恐ろしいものかも知れません。

書籍の全体構成

「おもてなしの経営学」は3部構成になっていました。 1章が「おもてなし」に関しての話題でした。 そういえば、Jストリームさんも「おもてなし」を強調していました。 最近はWeb2.0系のネタが多少出尽くした感がありますが、今後のキーワードで「おもてなし」というのが増えるかも知れませんね。 そして、それはWeb3.0とまでの概念の飛躍はありませんが、Web2.0⇒Web2.1ぐらいのインパクトはあるかも知れないですね。 (まあ、ちょっと言い過ぎでyet another buzz wordという噂もありますが。。。)

2章と3章は著者が月間アスキーに連載していたコラムと対談記事の再録でした。 それぞれ個別に非常に面白い話だったのですが、色々な物が混じった本で、「こういう出版の仕方もありなんだぁ」と関心してしまいました。

何か、色々書いてしまいましたが、全然本の紹介でも何でもなくなってしまいましたね。。。

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