才能あるレジのおばさんの給料が上昇しなかった事例

2008/12/3-1

才能あるレジのおばさんにはそれ相応の給料を払ったほうが良い」という興味深い記事がありました。 丁度、AMN経由で献本して頂いた人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解くを読んだばかりで、その中にそのまんまの事例があったので紹介したいと思います。

「4章どうして上司は給料をもらいすぎているのか」の中に「スーパーマーケット - アメリカ西部某所 (p.155)」という節があります。 その中で、以下のような文章があります。

問題の経済学者、アレクサンドレ・マスとエンリコ・モレッティは、あるスーパーマーケット・チェーンの幹部陣をおだてあげ、チェーン店のレジ係の生産性に関するありとあらゆるデータを入手できるようにした。 そうして、二年間にわたり、六店舗、三七〇台のレジについて、チェーン店のスキャナーからとり込み、コンピュータで自動処理された記録を使って、一つひとつの読み取り操作を追跡した。 二人は書くレジ係の生産性を秒単位で計測し、同じ時間にほかにだれが働いているかによって生産性がどう変わるかを注意深く調べた。

この調査結果をまとめた論文は「Alexandre Mas and Enrico Moretti, "Peers at Work", NBER Working Paper No.12508, September 2006, http://www.nber.org/papers/w12508」だそうです。

これ自体が興味深い調査結果だが、それと同じくらい興味深かったのが、この調査に対するスーパーマーケット側の反応である。 スーパーの経営陣は、読みとり記録を見れば、だれが自分の役割を十分に果たしていて、だれが果たしていないかは一目瞭然だったことを認めた。 だとすると、マスとモレッティの研究を使って、仕事の速いレジ係が仕事の遅いレジ係を監視するスケジュールを組むこともできたはずである。 マスとモレッティの試算によれば、もしそうしていたらスーパーマーケット・チェーンの全店にわたって一二万五〇〇〇労働時間分の経費、すなわち、給与、健康保険などの労働コスト約二五〇万ドルが節減されていたものとみられる。
 しかし、スーパーマーケットの経営陣は、その情報を使って社員の労働契約を目に見える形で改定することはしなかった。 シフトを組み直すことも、出来高給にすることもなかった。 ただ単に時間給を支払い、社員が自分たちでシフトを決めることを認めた。 その一因は、労働組合が出来高給の導入抵抗し、従業員は自分の勤務時間を調整できるという条件を重視したことにある。 また、出来高にすることはもちろん、仕事の遅い社員に圧力をかけるようなレジの配置をすることでさえ、現場に望ましくない結果が生じていた可能性が高かったからであった。 そう、レジの行列は短くなるが、商品の傷みや読み取りミス、そして、顧客の質問や苦情への対応に時間を費やすことを合理的に拒否するスタッフが増えるのである。

何かの基準を使って出来高給にすると、その指標に対してのみ最適化して高い給料を得ようとする人が増えるということですね。 そのため、出来高給にするときには欠点が最小になるような基準(指標)の選び方がかなり重要になるということですが、それが凄く難しいということだと思われます。

「人は意外に合理的」では、客観的パフォーマンス測定に頼る危険性に関しても述べています。 パフォーマンス測定は操作することが可能な場合が多く、結果として悪く働く場合が多いそうです。

例として棒高跳びで"鳥人"と呼ばれたセルゲイ・ブブカ選手が出ていました。 ブブカ選手は世界記録を破る度にボーナスとして現金が支給されていたため、世界記録を最小単位で破り続けるという行動を取りました。 その結果、全盛期に本当だったらどこまで飛べたのかを知るのは本人とコーチ陣だけとなってしまったそうです。 成果報酬が「最高のジャンプ」を世界の舞台で披露しないインセンティブになっていた例と言えるのではないでしょうか。

確かに、「成果報酬」の基準として前期の成績を採用すると、最高の売り上げなどを出した次の月が酷いことになるという愚痴は良く聞きます。 そのため、例えば状態が良くなりそうならば月を跨ぐようにしたりしようとする人もいそうです。

とはいえ、例えばプログラマであれば「良く出来る人の給料は高いほうが良い」という話は悪い話ではない気もします。 この「良く出来る」という単語に対して納得がしやすい一律な基準があれば良いのでしょうが、私にはそれが思い浮かびません。 結局、恐ろしくできるスター社員に「フェロー」などの特殊な称号を渡して、その称号に対して給与を上乗せするという方法に行き着くんですかね。。。

難しいですね。。。

余談

余談ですが、「人は意外に合理的」は結構面白かったです。 大ヒットした「ヤバい経済学」以降に良く見るようになった経済学/社会心理学系の本です。

「人は意外に合理的」第一章の一番最初はいきなり十代の少年少女のオーラルセックスが増えるのには合理的理由があるという出だしで、その後セックス関連ネタが連発です。 さらに、以降の章ではポーカーについてや、給与体系について、貧困地区が出来上がっていく過程について、人種差別について、政策やロビー活動についてなどが語られています。

個人的には、最初のつかみでのインパクトを最大にしつつ、後半に行くほど内容が硬くなっていくような感じでしたが、面白い本でした。


人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く

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