NATのせいで犯罪者が特定できないという問題提起がEUで行われる

   このエントリをはてなブックマークに登録    2017/10/19-1

欧州刑事警察機構(Europol)のプレスリリースにて、ISP等で運用されるCGN(Carrier Grade NAT/大規模NAT)が犯罪捜査の妨げになっていると述べられています。

Europolのプレスリリースによると、欧州連合理事会(EU Council)の今期議長国であるエストニアとEuropolが共同でCGNの問題に関するワークショップを開催したとあります。 ワークショップには、EUのポリシーメーカーや法執行機関当局者35名が参加しました。 さらに、Europolの技術的なパートナーであるProximus、CISCO、ISOC、the IPv6 Company、the European Commissionによってサポートされました。

Europolのプレスリリースには、CGNが発生させている問題を以下のように述べています。

CGN technologies are used by internet service providers to share one single IP address among multiple subscribers at the same time. As the number of subscribers sharing a single IP has increased in recent years - in some cases several thousand - it has become technically impossible for internet service providers to comply with legal orders to identify individual subscribers. This is relevant as in criminal investigations an IP address is often the only information that can link a crime to an individual. It might mean that individuals cannot be distinguished by their IP addresses anymore, which may lead to innocent individuals being wrongly investigated by law enforcement because they share their IP address with several thousand others - potentially including criminals.

(訳) CGN技術はインターネットサービスプロバイダによって利用されるもので、ひとつのIPアドレスに対して複数の契約者を同時に収容します。 ひとつのIPアドレスに集約される契約者数が場合によっては数千にのぼるこもあり、契約者を特定するという法的な命令に対してインターネットサービスプロバイダが従うことが技術的に難しい状況が発生しています。 犯罪者をたどるための情報がIPアドレスしかない場合もあります。 IPアドレスを使って個人を識別することが既に難しくなっている可能性があり、犯罪者を含む数千人とたまたま同じIPアドレスが割り当てられてしまった無実の個人が間違って捜査を受けることになるかも知れません。

欧州連合理事会のエストニア代表は、EUにおけるサイバーセキュリティを向上させる取り組みとして、Standing Committee on Operational Cooperation on Internal Security (COSI)にて、CGNに関する問題をアジェンダに加えるようです。

RFC 6269での解説

CGNを使った際に発生する問題は、2011年に発行されたRFC 6269 : Issues with IP Address Sharingでも述べられています。 今回、Europolが提起している問題も、RFC 6269のTracability(12章)という章で解説されています。 CGNに関する議論がIETFで行われてから何年も経過していますが、最近になって、それらが現実の課題として浮かび上がってきたということなのかも知れません。

EUでのIPv6普及が加速するのか?

おそらく、世界でも最もIPv6が普及している国がベルギーであると思われますが、ベルギーでIPv6が普及している理由のひとつとして、CGNがIPv4アドレスひとつに対して収容するユーザ数を16に制限するという警察とISPとの覚書が、IPv6普及の要因であるという話もありました(参考)。

まだ問題提起されただけなので、実際にそれが何らかの法案という形になって進むのかどうかは、現時点ではわかりませんが、もし、強制力のある形でCGNに対する強い制約が発生した場合、EUでIPv4インターネットを継続するのが難しくなっていく可能性がありそうです。

そうなった場合、EUにてIPv6を利用することが加速しそうです。そうなった場合、EUだけがIPv6対応したのでは不十分なので、EUが各国に対してIPv6対応を行うような圧力をかけ始めるという未来もあるのでしょうか? 2012年ごろにIPv6に関して米国から日本に対する圧力がありましたが(参考)、今度はEUからも圧力が加わるという話が発生する可能性があるのでしょうか?現時点では、わかりませんが、さて、どうなりますかね。

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