RFCは、なぜ「意見募集」という名前だったのか?

   このエントリをはてなブックマークに登録    2016/12/22-1

インターネットで使われる各種仕様の多くは、RFCと呼ばれる文書として発行されています。 RFCは、「意見募集」や「意見を求む」といった意味を持つRequest For Commentsの略ですが、インターネットに関連する通信仕様の標準を示す文書の名称が、なぜ意見を募集するとなっているのでしょうか?

それには、初期のRFCが発行された時代背景があるのです。 RFCの文書番号は新しい文書とともに増加していくので、基本的に文書番号が小さいほど昔のものになります。 最初のRFCである、RFC 1は、1969年4月7日に発行されています。

多少余談になりますが、RFC 1は、「インターネット」という単語が生まれる前に発行されています。 「インターネット(internet)」という単語が初めて登場するRFCは、1974年に発行されたRFC 675です。 1973年に発行されたRFC 604とRFC 606で実験中のものとして「Internetworking Protocol」という単語が登場しますが、それを略して「internet」としたのはRFC 675が初です。

いま、世界中の人々が使っているインターネットが生まれたのは、RFCとして通信に関連する仕様が公開され、多くの人々が相互接続を行える機器を実装できたことが大きな要因のひとつであったと思われますが、仕様を公開するための苦労がRFCという名称から垣間見えるのです。

東西冷戦時代という歴史的背景

今のインターネットを使っていると忘れがちですが、インターネットの前身となる研究は、東西冷戦の真っ只中で行われていました。

そのことは、RFCの歴史に関して記述したRFCであるRFC 2555: 30 Years of RFCsでも触れられています。

The RFCs were also shared freely with official standards bodies, manufacturers and vendors, other working groups, and universities. None of the RFCs were ever restricted or classified. This was no mean feat when you consider that they were being funded by DoD during the height of the Cold War.

RFCは公的な標準化団体、製造業者やベンダー、他のワーキンググループや大学に対しても無償で共有された。 制限や機密扱いされたRFCはひとつもなかった。冷戦の真っ只中にDoD(Department of Defense/国防総省)からの資金を得ていたことを考えると、それは至難の技だった。

Request For Commentsという名前にした理由

最初のRFCであるRFC 1の著者であり、RFC実現に尽力したStephen Crocker氏へのインタビューをミネソタ大学が公開しています。

そのなかで、RFCを「Request For Comments」という名前で発行した理由が述べられています。 RFCという名称は、他の関係者を刺激しないように考案された名称だったのです。

CROCKER: A critical point was how we wrote the RFC and the reason they're called Requests For Comments. I stayed up all night trying to get the wording right to initiate this series of notes. I was most concerned that we not tread on someone's toes, someone assigned officially to oversee these things. So I used wording such as "these are unofficial and they are just to stimulate conversation, and anybody is able to write down anything, and they have no status." There was also an issue as to whether these were formal publications, and so we said they were not. To emphasize the informality, we called them requests for comments. And that's what led to an RFC.

決定的に重要だったのは、私たちがRFCをどのように書いたのかと、Request For Comments(意見募集)という名前にした理由でした。 私は、一連のメモを公開できるようにするには、どのような表現にするのが良いのかを一晩中考えました。 一番気にしたのが、これによって誰かの感情を損ねたり、これらを監視するために誰かが配属されたりしないようにすることです。 そのため、私は、次のような表現をしました「これは議論を活発にするための非公式なものであり、誰もが何でも書けますし、文書自身に権威はありません」。 これらが公式出版物であるかどうかという論点もありましたが、そうではないと言いました。 非公式であることを強調するために、私たちはrequest for commentsと呼びました。 それらがRFCになりました。

非公式であり、公式出版物ではないというのが当時は重要な論点だったことがわかります。「we not tread on someone's toes」とありますが、それによって気分を害する恐れがあったのがどういった人々なのかは、残念ながらそこには記載されていないようです。

Internet Watchの2009年の記事でも、そういった時代背景に触れた説明があります。

RFCとは、Request for Commentsであり、これを日本語にすると「コメントを下さい」という意味になる。もともとインターネットは、米国国防総省国防高等研究計画局(DARPA=Defense Advanced Research Project Agency)が開発を進めたAPRAネットが前身であることはよく知られている。

通常DARPAによって進められる研究は、国防上の観点から「非公開」が前提だった。しかし、ARPAネットの開発を進めていたSteve Crockerらは、ネットワーク間接続に関する技術は広く公開することが必要であると考えた。そこでDARPAと交渉し、「技術をより良いものとするために広く世の中に意見を求めたい」とし、研究成果をRFCとして公開する承認をとりつけたのである。

当時は、「意見を求めるために公開する」という点が非常に大事だったのです。 いまは色々なものが公開されているのが当たり前のようになっていますが、昔は技術情報をそのまま公開しているわけではないと言うことが大事だったことがわかります。

いまは「RFC」というブランド

最近は、RFCが標準文書になっているため、「意見求む」という意味を持つRequest For Commentsの略という要素はなくなり、RFCというブランド名であるとされています。

IETFで毎回行われているNewcomers Orientation(初参加者のための説明会)の中で、次のような説明が行われています。

かつてのRFCはRequest For Commentsの略であったが、今はRFCというブランドであり、初期のRFCと比べると公式出版物になっているという説明が、IETFで行われているのです。

いまは、IETFで議論されてRFCへと至る場合には、Internet Draftという段階で広く意見を求めつつ議論を重ねるので、RFCが発行された時点では、既に様々な意見を求めた後なのです(IETFの議論を経ずにRFCが発行される場合もあります)。そのため、いまのRFCは意見を求めるために発行されるものではありません。

インターネットの通信技術に関連する調べ物をしたことがある人であれば、RFCという単語を聞いたことがあると思いますが、その名前の由来を知っている人は徐々に少なくなっているのかも知れません。

なお、ここに書いているのは「RFCをRequest For Commentsという名称にした理由」です。なぜ、そこまでして情報を共有したかったのかに関するモチベーションや時代背景などは、また別の話としてあるはずです。

余談

ここでは詳細を割愛しますが、インターネットが生まれた歴史的背景として、スプートニクショックもあげられます。これも東西冷戦ですね。

スプートニクショックは、いまの米国のベンチャーキャピタルやシリコンバレーの形態が作られた背景のひとつであるともされています(参考:米国のイノベーションと軍事予算 - シリコンバレー誕生秘話)。

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