博士課程に進学する前に考えて欲しい事
課程博士(コースドクター)に関して色々と話題が多い昨今ですが、個人的には「何となく行く人はやめるべきだし、得るものがある人は進むべき」と考えています。
なお、以下の文章は論文博士(社会人ドクターなど)は範疇外です。 また、基本的に博士過程を念頭に書いていますが、一部は拡大して学部や修士も同様の考えかたをしても良い場合もあるかも知れません。
1.「けものみち」を進むつもりで
大学、大学院までであれば普通の就職もできる場合が多いです。 しかし、博士課程に進学すると、いわゆる「普通の」就職はしにくくなります。
そのため、博士課程に進学するのであれば、いわゆる「けものみち」に突き進むかも知れないという自覚を持ちましょう。 博士課程に進学した事で自分の名前を売ったり、様々な人脈が形成できるように努力しないと、後で苦労するかも知れません。
就職するにしても、学会やその他活動などで既に知人が居て半分コネのような状態で就職活動をするという形が多いような感じがします。 そして、コネを作るにはそれなりの目立った活動を博士課程時代に行っている事が求められます。
例えば、ベンチャー企業を経営している知人が「特定の分野に非常に詳しくて年齢も新人ではない人を雇うのは気が引ける」と言っているのを聞いた事があります。 そのような会社は入るべきではないという意見ももちろんあるとは思いますが、年功序列意識が強い日本では博士課程を卒業した場合の就職口は学部よりも狭いと思われます。
ポスドクで教員としての籍が確保できず、就職もできず、それでも何かの道を選ばなければならない場合、結果として世で言う「けものみち」入りするのではないでしょうか。 もちろん、最初から「けものみち」を狙うという選択肢もあり得ます。
2.「けものみち」を進みたくないのであれば3年で卒業
日本では、博士課程に在籍している年数が増加していき、年齢が上昇すればするほど出口が「けものみち」ばかりという状況が多い気がしています。
例えば、博士課程卒業者は新卒ではなく「中途採用」の枠になる場合があります。 そして、「中途採用」は新卒よりも要求される能力へのハードルが高くなる場合も多いです。
博士課程に進学しつつも、「普通に」就職をしたいのであれば、2〜3年ぐらいで博士課程を卒業する事を目指すことをお勧めします。 恐らくは誰もが3年で卒業しようと考えているとは思うのですが、現実問題として6年以上博士課程に在籍するという事例もあり得ます。
3. 生活のあてはあるのか?
人間、霞を食べて生きていく事はできません。 博士課程に進学した場合の飯の種に関しても十分に考察しましょう。
論文を読み漁ったり、論文を書いたり、学会発表をしていたり、研究室運営に関わったりという感じで学業に専念していると、収入を得ることから多少離れる事も多いです。
アルバイトをしながら食いつなぐというパターンもありますが、毎年学費を払いながら生活費を捻出するには努力が必要です。 人によっては、知人の会社に籍を置きながら週1度の勤務で給料をもらいながら学業というパターンもあります。 奨学金や学業のための融資制度を利用するという手もあります。 親のスネをかじるという選択肢もあり得ます(これに関しては様々な意見がありそうですが。。。)。
それ以外にも色々ありそうですが、博士課程に進む人は既に良い大人な年齢なので、博士に進学した場合の収入に関しても十分な考察が必要になります。
4. 同年代が収入を得て行くのを見るかも知れない
自分が学業に専念していて、収入が少ない隣で、大学時代の友人の収入が上昇していく状態を目撃するかも知れません。 人によっては「こんなに努力しているのに何故収入が増えない」という葛藤が湧いてくることもありそうです。 そのような状況を気にせずに、邪念に囚われずに研究活動を続ける必要があります。
5. 惰性での博士課程進学は3年殺しの経絡秘孔
何となく修士時代での就職活動の波に乗れなかったので博士進学という選択だけはやめましょう。 単なる3年殺しの経絡秘孔です。
6. その分野に「勝ち」はあるのか?
進学する分野に「勝ち」はあるのでしょうか?
その分野を極めたとして、就職できますか?
それとも、その分野に教員の空席はありますか?
それとも、その分野に特化した研究所にコネはありますか?
その分野は数年後にブレイクしてウハウハになれますか?
7. それは楽しいのか?野望はあるのか?
「勝ち」が無くても良い場合もあります。 その分野が非常に好きで、お金を払ってでも研究に専念したいと心から思える場合です。 しかし、その場合は本格的な「けものみち」になるので相応の覚悟もしましょう。
一方で、その分野が今後「来る!」と思えるもので、3年後も就職口は確保可能だと思えたり、その分野の最前線に居た事実がその後の自分を決定すると思えれば、躊躇せずに進学するのも良いかも知れません。
8. 今の研究テーマに十分なストーリー性はあるのか?
今の研究テーマに十分なニーズ(Needs)はありますか?
「○○を使いたい(使える)」というシーズ(Seeds)ベースで研究が進む事が多いかも知れません。 専門性が高くなればなるほど、「どうやればできる」に視点が移るという傾向はありそうな予感がしています。
しかし、「何故その研究をするのか?」に関して説明ができないと論文が書けません。 論文が書けないと博士課程を卒業して博士号を得られません。
ただし、そのニーズは一般的なニーズでなくても大丈夫な場合があります。 「○○という状況において××である場合、△が必要である」というような非常に限定されたニーズでも十分研究になります。 要はストーリーとして研究が成り立つかどうかが重要なのではないかと思います。
9. 研究予算が確保できる分野なのか?
何をやるにしても予算は必要になります。 研究室という場所を維持する事と予算も無縁ではありません。
修士までは気がつかなかったとしても、博士課程に進学して深く関わるようになると「予算」というものの重みを実感せざるを得なくなる状況もありそうです。
10. 指導はあまり期待できないかも知れない
博士課程に進学するぐらい特化して勉強を続けると、教授も深くは知らない世界に入り込む場合もあります。 そのような場合、一般論としての指導や、説明のわかりにくい部分への指導という指導が中心になるかも知れません。
また、教授が忙しすぎてあまり面倒を見ていられないという場合もあり得ます。
指導をあてにせず、自分で切り開いていく気持ちが大事かも知れません。
11. 指導する立場になる可能性が高い
博士課程に進学すると、「研究室」という組織内では階層構造の中の上ぐらいの位置に行く場合も多いです。
そうなると、指導してもらう立場から「指導をする」立場になります。 多くの場合、学部や修士の学生の指導に時間を割かれて自分の研究ができない事は言い訳になりません。
指導をしつつも、自分の研究はコツコツ実行していく意思が必要になります。
12. 博士の学位よりも経験が重要
私は博士の学位よりも博士課程での経験や人脈が重要だったと考えています。 履歴書に「博士」という単語が入っていても、それ自体が何かの利益になったとはあまり思えません。 あったとして、初対面の人との話題の種になったぐらいかも知れません。
しかし、当時の経験は何ものにも変えられないと信じています。 あの時の様々な経験は今の糧になっていると実感できます。
そのため、様々な活動をした経験を得られそうにないのであれば、個人的には博士課程はあまりお勧めではないのかも知れません。
13.「新卒」の気持ちを捨てなければならない
博士課程を卒業して就職をした場合、ある程度は「新卒」の気持ちを捨てる必要があります。 ずっと学生を続けてきて、遅咲きながら初めての社会人になると自分は「新人」であると信じたくなります。
しかし、周りの目はそうは見てくれない場合もあります。 周りから見ると「中途採用の博士さま」である事も多いです。 そのギャップが大きくなると「単なる頭でっかち」というレッテルが出来上がる場合もあります。
社会人1年目で「キャッキャ、キャピキャピ!」と言えるチャンスは捨てるぐらいの気持ちの方が良いのかも知れません。
14. 博士の学位は足枷にしかならない場合もある
「博士」と名刺などに書いてあっても、全く違う分野に就職したりすると、結局は素人です。 就職した後に社内異動などで不慣れな分野に行かなければならない事もあります。
そして、慣れない分野で不用意な発言をすると博士という称号は「博士持っててもたいしたことないのね」という攻撃の種にしかなりません。
このような意味でも、自分の専攻する分野とマッチするところに就職口があるかどうかが重要になってくるのではないでしょうか。
15. プライドの捨てかたを覚えておいた方が良い
自分では全く認識していなくても、相手から見て「プライドが高い」と思われてしまうこともあります。 「博士号」というものを相手が意識することで、全く同じ事を違う人が言っても大丈夫で、自分が言うと「プライド」と言われる場合もあるかもしれません。 (多くの場合はどこかにプライドをかかえてしまっているのだとは思いますが。。。)
どういう言い方をすると「プライドが」と言われにくいかなども考察すると良い場合もあるかも知れません。 (なお、自分はどうかと言われると。。。あーーー。うーーー。かも知れません。)
16. 出世はしにくいかも知れない
博士課程を卒業して特定の分野に特化し過ぎると、出世はしにくくなる場合があるかも知れません。 あまりに最先端を行っていると、売り上げが上がりにくい製品化前の研究等を担当することが多いかも知れません。 そして、そのような部門はあまり売り上げが上がらないので、社内での強さも少なく出世コースとは言えない場合もありそうです。
17. これほど自由に色々できる機会は中々ない
色々とネガティブな事ばかりを書いていますが、博士課程ほど自由に好きな事をやり続けられる場所はあまりありません。 全ての時間を自分の意思で決定し、方向性も全て自己の意思を尊重できます。 もちろん、指導教員の意見が強くなる場合も多々ありますが、会社と比べるとそれでも自己の裁量は大きいです。
自由にやり続けるだけではなく、「大学」という組織的な身分を持ちながら自己表現をできる事は重要です。 学会で発表されている論文を閲覧しやすい状況にありますし、予算があれば学会参加費や旅費なども負担してもらえるかも知れません。 あと、論文を出すには身分が必要です。
学会だけではなく、民間企業との対外的な話などでも「大学」という肩書きは重要になります。 何だかんだ言っても、肩書きで判断されてしまう事は多いです。
さらに、利害関係が少ない中立的な立場を取りやすい面もメリットとしてあると思われます。 例えば、学生という無垢な顔をしながら、敵対していたりライバル関係にある企業両方の担当者と話をすることも可能です。
結局、「博士課程」というツールを活かせるか活かせないかは各個人の裁量が大きいのではないでしょうか。
18. 博士課程は研究に脂が乗る時機
研究室に参加して最初の数年は、その分野の勉強だけに費やされます。 数ヶ月でその分野の最先端の知識を持てるような甘い分野はありません。 大学の学部時代に「研究」がバリバリできるような人は稀だと思われます。
一般的には卒論で論文ぽい事を経験し、修論でまともな論文になって行き、他人に影響を与えられるような「研究」というフェーズに行けるのは博士以降が多い気がします。 (「じゃあ、お前はそんな素晴しい研究ができたのか?」と言われると痛いので、言わないで下さい。。。)
本当の意味で「研究」をしたいのであれば、博士進学は選択肢としてアリなのではないでしょうか?
19. 起業のチャンスは色々ありそう
うまく博士課程を利用すると、業界を横断した人脈と経験を手に入れることができる場合もあるので、起業はしやすいのかも知れません。 結局は分野と人次第ではありますが。。。
20. 決断の時は意外と早い
就職活動を考えると、博士課程に進学するかしないかに関しては、修士1年後半で決断をしなければなりません。 このタイミングを何となく逃してしまうと非常に痛い目にあいます。 早めに担当教員と良く相談しましょう。
21. ここに書いてある事に感化されてはいけない
博士課程に進むのであれば、ここに書いてある事に感化されてはいけません。 所詮は、特定の分野の特定の場所しか見たことが無い人間の意見です。
この文章を読んで「こいつわかってないよ!」というぐらいの気概を持ちましょう。
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