インターネットの方針を決定する権限を巡る綱引き
インターネット全体の方針を決定するのは誰か?に関する綱引きが国連周辺で行われています。
以前から、そのような議論は存在していましたが、最近、またそういった議論が活発化しています。 前身を含めると江戸時代ぐらいから「コンセンサス」によって決定が行われてきたITU-Tですが、昨年ドバイで行われたWCIT-12では、初の投票での決定が行われ、しかもその後決定内容に不満を持つ国々が署名せずに決裂するという事態が発生したことも非常に印象的です。 それに続き、今年もインターネットそのものに関する議論が白熱しているようです。
昨日書いたITUとNROの話題で紹介したNROの文書の中に、WTPF-13やtunis agenda(チュニスアジェンダ)という単語が書かれていますが、現時点のインターネットガバナンス議論において、それらは大きなポイントになっているという感想を持っています。
WTPF-13
今年5月14日から16日にスイスのジュネーブで第5回世界電気通信/ICT政策フォーラム(World Telecommunication/ICT Policy Forum/WTPF-13)が開催されました。 WTPF-13で、様々な議論が行われましたが、個人的に着目しているのは「WTPF-13で採用されなかった第7オピニオン」です。
WTPF-13では、以下の6つのオピニオンが採択されました。
- 接続性向上の長期的解決法としてのIXP促進
- ブロードバンド接続性の成長と発展を実行可能にする環境の育成
- IPv6展開のキャパシティビルディング支援
- IPv6採用とIPv4からの移転支援
- インターネットガバナンスにおけるマルチステークホルダリズムの支持
- 協力強化プロセスの運用を可能にするための支持
これら6つのオピニオンは、事前の準備会合でほぼ合意していたものですが、WTPF1-13直前にブラジルが追加を提案(ロシアがサポート)したのが第7オピニオンです。
第7オピニオンは以下のようなタイトルです。
the Role of Government in the Multistakeholder Framework for Internet Governance
第7オピニオンの具体的な中身はITUに公開されている資料で閲覧可能ですが、主な内容としては、「各国政府がインターネットガバナンスで重要な役割を果たせるようにすること」です。
WTPF-13で中東、中南米、アフリカ、中国など、多くの途上国・新興国が第7オピニオンに賛同しましたが、日米などの先進国が強く反対したため、第7オピニオンはWTPF-13では採択されませんでした。
WTPF-13での第7オピニオン採択は阻止されたものの、6月のITU理事会で継続審議になりました。 6月のITU理事会での結果に関して、総務省のページで以下のように書かれています。
ITU理事会においては、本件を引き続き議論する場に関して議論され、その結果、ITU事務総局長主催による、全てのステークホルダーも参加可能な非公式会合を開催し、政府の役割を議論し、その結果をインターネット関連国際公共政策に関するITU理事会作業部会に報告することになりました。また、政府の役割を作業部会で議論するかは、次回本年秋の作業部会に持ち越しされました。
このように、各国政府がどのようにインターネットガバナンスに食い込むのかに関する議論が国連で続きそうです。
WTPF-13に興味がある方は、以下の資料をご覧下さい。
- ITU: [16] Report by the Chairman of the 5th World Telecommunication Policy/ICT Forum
- 総務省: ITU世界国際電気通信会議(WCIT-12)及びITUにおけるその後の議論
- JPNIC News & Views vol.1096: 第5回世界電気通信/ICT政策フォーラム報告
チュニスアジェンダ
これらの議論で、議論の根拠として頻繁に登場するのが「チュニスアジェンダ」です。 「チュニスアジェンダの○○項には××のようにあり」のような表現を各所で見ることができます。
チュニスアジェンダは、2005年にチュニスで開催された世界情報社会サミットで採択された文書です。 チュニスコミットメントが公約を記したもので、チュニスアジェンダがデジタルデバイド解消やインターネットガバナンスに関する基本原則や行動方針、その後議論すべき内容やフォローアップに関して記述したものです。
現在進行中のインターネットガバナンス関連の議事録を読む前に、チュニスアジャンダをざっと見ておくと面白いと思います。
2015年に、世界情報社会サミット(WSIS / World Summit on the Information Society)フォローアップ会合が予定されています。 2005年のWSISから10年が経過した後のフォローアップということで、WSIS+10と表現されます。
玉虫色の「enhanced cooperation」とは何かを含めて、2015年のWSIS+10で何が決定するかによって、その後のインターネットの運用構造が変わる可能性もありそうです。
来年と再来年が山場
いまはまだ前哨戦の段階であり、一部の人々のみがこれらの動きに注目しているような印象です。
ここら辺の議論が盛り上がるのは、来年(PP-14 / ITUの全権委員会議)と再来年(WSIS+10)だと思います。 来年と再来年の会議前後に新聞やテレビ等のメディアでも登場するのではないかと予想しています。
ただ、こういう話って、メディアでニュースになった時点では大抵全てが決定してしまった後、もしくは会議寸前であることが多いかも知れません。 実際の会議が開始する前から動きがありますし、議論の過程が垣間見える各種資料も公開される傾向があるので、興味がある方々は各種組織が公表する資料をウォッチすることをお勧め致します。
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