WCIT-12 総務省インタビュー

   このエントリをはてなブックマークに登録    2013/1/4-1

12月3日から14日までドバイで開催されていたWCIT-12について総務省へインタビューに伺いました。

WCITそのものの生情報もご覧になりながらインタビューを読んで頂くと色々と発見があると思います。

なお、取材が2012年12月に行われ、記事公開が2013年1月となっている関係上、「今年」は2012年を示し、「来年」は2013年を示しているのでご注意下さい。

Q: WCIT-12の概要を教えて下さい

最終的な結果から見ると、ITUの伝統といわれたコンセンサス主義の限界が出て、一国一票という原則のもとでの多数決が行われてしまったということだと思います。 もともと、ITU事務総局長のトゥーレ氏はコンセンサスでやると言い、実際に途中までは彼も参加国もその方向で努力はしていました。 が、一部の議論が平行線のままだったので議長も参加国も実質的な最終日であった13日木曜日には多数決になる流れに抗わず、多数決で決めることになってしまったという状況でした。

この第二週の木曜日に多数決を採ることになったのは、イラン代表の提案によるものです。 が、その前夜、インターネット決議案について、議長が、「会場の温度」を見たいということでその内容に対するyes/noを挙手で表わすよう求めたという事実がありました。 この挙手については、直後にUKとスペインから、また次の日の昼にイタリアから「アクションの意味が知りたい」という質問が出たのですが、議長は「あれは多数決ではなく、room temperatureを見ただけだ」と答えました。 しかし、この時にyesとして挙手した国のほうが多かったことを反映してか、最終的にはこの時の内容のままで決議が採択となってしまったのです。それに対して、多くの欧米の代表がわだかまりを持っていました。

(取材者注: UK、スペインの発言は12日のプレナリ11の議事録 http://www.itu.int/en/wcit-12/Documents/dec12plenary11.docx、イタリアの発言は13日のプレナリ13の議事録参照 http://www.itu.int/en/wcit-12/Documents/dec13plenary13.docx )

このインターネット決議というのは、具体的には、WCIT-12 Final Actsの20ページにある「To foster an enabling environment for the greater growth of the Internet」です。

アメリカは、そもそも「インターネット」という単語がITRに含まれることを嫌っていましたが、一方でコンセンサスを探る動きはしていましたし、決議の妥協案をドラフティングしたりもしていました。 が、火曜日の少数国会合でインターネット決議案が話題になった際、アメリカは何も発言しなかったそうです。 それで議長は、その決議案をアメリカが呑んだと思ったようです。 これが水曜日の夜になって、米国がこの決議案に反対と発言した際、議長が驚いた理由のようです。 このことが、議長がインターネット決議案に対する「会場の温度」を見たいと言い出して、挙手をさせることにつながった可能性があるようです。

(取材者注: 12日(水)プレナリ12の議事録 p38前後参照 http://www.itu.int/en/wcit-12/Documents/dec12plenary11.docx 。ビデオアーカイブは、 http://www.itu.int/ibs/sg/wcit/2012/links/p/a-20121212-2230-en.smil の2時間24分頃を参照。同ビデオの2時間7分頃にアメリカ意見に対して議長がムッとしているのも個人的には印象的でした。)

「会場の温度」の様子 (動画アーカイブより)

不思議なのが、そういうときにはPoint of order(異議申し立て)が出て、挙手の結果を無効にすると思うのですが、今回は無効とまではしなかったという点です。 そもそも、採決というのは、正しい手続きを経て行わなければならないと議事規則に規定されています。 その手続きを踏まないで行った挙手の結果は、誰かが異議を申し立てれば無効にできます。

Q: WCIT-12は既に終了してしまったのですが、会議終了後に異議申し立てをしても無効にできるものなのでしょうか?

そのままの状態で最終日まで進行したのであれば、それが確定します。

今回は挙手の直後に英国とスペインが、また次の日の昼のプレナリでイタリアから「挙手の意味が知りたい」という質問が出て、議長は「あれは多数決ではなく、room temperatureを見ただけだ」と答えました。でも、会は米の妥協案を審議することなく進み、挙手を求めた際の内容で採択となったまま会議が終わってしまいました。

(取材者注: UK、スペインの発言は12日のプレナリ11の議事録http://www.itu.int/en/wcit-12/Documents/dec12plenary11.docx、イタリアの発言は13日のプレナリ13の議事録参照 http://www.itu.int/en/wcit-12/Documents/dec13plenary13.docx )

Q: ITRは最終的にどうなったのでしょうか?

改正され、そのFinal Actは出来ました。 ただし、サインした国とサインしなかった国がありました。(取材者注:サインした国としなかった国のリスト)

Q: 投票を提案するなど、WCIT-12で目立った国といえばイランだったと思いますが、会場でイランはどういった感じでしたか?

イラン代表は、「アラステ」という特別な人物です。彼は、ITUを退職した後にイラン政府と交渉し、ITUの会議は全部彼がイラン代表として出るという立場になったようです。

彼は、最終決定がイランの利益に反しない限りは何をやっても良いという委任を取っていますので、会議中は、とにかく発言をして目立つことに注力する一方、最終的な落とし所を決める際には、慎重に動くことが多いです。

Q: サインしたかどうかで世界が二つの色で図示されている画像は非常に印象的なのですが、アフリカの中で3カ国がサインしていないというのも逆に目立っていると思います

特にケニアですね。 ケニアは発言が(先進国からみて)非常に優等生でした。

Q: たとえば、小さな国が今回の新ITRにサインして、大国からITRを根拠として何らかのセキュリティ対策等を強要されるような事態になるというのはあるんですか?

ないと思います。

今回のFinal Actを見る限り、これによってある国が他の国に何かを強要できるような新たな権限が付与されているようには読めません。 また、この新ITRに「基づいて」ある国が自国の規制を強化する可能性ありという見方があるようですが、新ITRを根拠とする必要はないんです。

ITRの上位にあるITU憲章は、まず前文で、各国が電気通信を規制する主権を認めています。 つまり、この憲章や他の条約で禁止や制限を規定していない限り、自国内で電気通信をどう規制するかは各国の自由なんです。 この憲章には、さらに意外な規定もあります。

第34条(電気通信の停止)では、安全保障上危険な私的通信は遮断していいとありますし、第37条(通信の秘密)では、法に基づき、通信内容を(国内の)当局に通報しても良いと規定しています。 つまり、ITRの上位規定であるITU憲章は、各国が国際通信へのアクセスを制限したり、法に基づいて通信内容をチェックすることを既に認めてしまっているのです。

今回の新ITRにどう規定されようが、これは変えようがない。



Internet Week 2012 「ITUの動向を中心とした国際的なインターネット政策議論の動向」より

Q: このITU憲章は、いつからこの内容なのでしょうか?

(続く:次へ)

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