ソーシャルメディア大会中継現場の裏側

   このエントリをはてなブックマークに登録    2012/11/5-1
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11月3日に、第60回全日本剣道選手権大会が開催されました。 今年もネット中継班として手伝いに行ってきました。 ソーシャルメディアを活用した大会情報発信の手伝いを2008年から行っていますが、毎回何らかの新しい取り組みをしており、徐々にノウハウが溜まって来たので、それらを紹介しようと思います。

これまでの取り組み

これまで、全日本剣道連盟では、Facebook、Twitter、Flickr、YouTube、ブログ、TwitPic、ニコニコ動画、などを使ってきました。 最近は、Facebook、Twitter、Ustream、YouTubeが中心になっています。

今年は、全日本剣道連盟WebサイトのトップをUstreamと融合させる仕組みを開始しています。 大会中継実施中は、全日本剣道連盟トップページが自動的に「大会モード」に切り替わるという設計思想です。

これ以外にも、ソーシャルメディアを前面に出し過ぎずにさりげなくサイト内で活用するという思想のもと、色々な部分でソーシャルメディア連携を行ったサイト構成になっています。

大会当日、アクセス集中による過負荷でアクセスがしにくい状態になってしまったのが、今回の失敗と言えそうですが、次回以降は負荷分散等に関してもうちょっと頑張ろうと思います。。。

その他、過去の取り組み等に関しては、たとえば以下の記事をご覧頂ければと思います。

ソーシャルメディア中継体制

大会当日のソーシャルメディア中継体制は以下のようになっていました。 私は試合会場が見えない裏側の部屋でいくつかのYouTube動画アップロードや、各種IT関連トラブル対応等を行っていました。

第60回全日本剣道選手権大会は、ベスト8までは2会場で行われます。 そのため、Ustream撮影用の機材とスタッフも2チャンネル分です。 Ustream Producer Proの録画機能を利用して、ネット配信と同時に録画が行われます。 今回は、Ustream撮影用の場所でTwitterとFacebookでの情報発信や、スコアデータベース入力作業、1本集動画の編集、YouTubeへのアップロードも行われていました。

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Ustream班によって録画されたデータは、日本武道館内に敷設した全日本剣道連盟中継用臨時LANに接続したNASに置かれます。 Ustream録画ファイル名には、スタッフ内部で共有された命名規則があり、ファイル名を見れば、どの試合を撮影したもので、その試合の勝者とスコアもわかるようになっています。 YouTubeアップロード作業は、NASにあるデータを他のスタッフによって行われます。

Flickr用の写真は、写真撮影スタッフが行います。 プロのカメラマンではなく、主に剣道関係者が撮影を行っています(1-10デザイン東京支社長も写真スタッフとしてお手伝いして頂けました)。 試合風景を撮影する人、試合会場風景やバックヤードの雰囲気を伝えるための写真撮影をする人、スロー動画を撮影する人、というように役割分担が自然と出来上がっていきました。

Flickr用の写真やスロー動画は裏側にある部屋に集められ、データが入ったSDカードをアップロード担当者に渡すという形でネットへと掲載されていきます。 写真撮影担当は、データ満載のSDカードと空になったSDを交換して、次の写真撮影へと向かいます。

写真入りSDカードを受け取ったスタッフは、大量にある写真の中から掲載するものを選択し、ロゴをつけてアップロードするなどの作業を行います。 スロー動画も、有効打突撮影箇所特定とロゴ付けが行われたうえで掲載されます。

限られた時間内にどこまで何ができるのかが勝負な現場です。

大会中継効率化

過去数年間ソーシャルメディア大会中継を続けていると、やりたいことが増えていきました。 たとえば、最初のうちは、大会をUstreamで中継しつつ、動画数本をYouTubeにあげているだけだったのですが、そのうち、録画に失敗しなかったものに関しては全て掲載することを目指すようになりました。 写真もFlickrで大量に掲載するようになり、最新の状況をWebで伝えるとともに、TwitterやFacebookでも速報を伝えるようになりました。

しかし、人数も時間も予算も限られたなかで、あれもこれもやるわけにはいかず、新しいことをやるためには今までやってきたことを効率化する必要があります。 そこで、今回は試合結果を一括管理しつつ、各所で活用できるような仕組みを作成しました。

システム概要は以下のような感じです。 様々な自作プログラムの集合体です。

  • 試合結果データベース入力用プログラム
  • YouTube掲載用文言自動生成プログラム
  • 試合録画映像ファイル名自動生成プログラム
  • トーナメント表自動生成プログラム(日本語版、英語版、スコア付き詳細版)
  • Ustream用テロップ自動生成プログラム(参考)
  • Flickr用に写真を縮小してロゴを掲載するGIMPスクリプト。PhotoShop Elementsプラグイン版もあり (参考)

今回の試合結果データベースは、トーナメント表等と連動しています。 スタッフが試合結果を入力すると、自動的にトーナメント表が生成されます。 「結果管理システム」の試合一覧画面は、Ustream用テロップダウンロード画面も兼ねており、試合名のリンクをクリックすると透明化処理されたPNG画像のダウンロードが開始されます。

結果入力画面(勝敗が決まった試合には色がついています)


スコア入力画面


全剣連公式Webサイトに公開されているスコア表

去年まではExcelでトーナメント表を更新しつつ画像にしてWebに掲載する役のスタッフが居たのですが、今年はその部分の作業が軽減されています。 さらに、今年は同じデータを利用して英語版のトーナメント表も自動生成されています。

トーナメント表が自動生成のためのデータを使って、Ustream用のテロップも自動生成しています。 選手の顔写真、名前、都道府県情報などがあらかじめ入力されているので、それらの情報を組み合わせて各試合用のテロップ画像が自動生成されます。 Ustream配信スタッフは、次の試合のためのテロップをあらかじめダウンロードし、適切なタイミングで表示されているテロップを更新します。

テロップをオーバーレイしたUstream動画は以下のようになります(Ustream Producer Proで録画したものをYouTubeに掲載した動画です)。

私が趣味のプログラミング的に作成している、この効率化システムは、まだまだ改善の余地がありますし、今は剣道かつ個人戦向けなので、もう少し汎用的なものとして作り直す予定です。

ハイスピードカメラ

剣道は竹刀の動きが非常に早くて、何がどうなっているのか通常の映像だと良くわかりません。 そのため、スローモーション映像も欲しくなります。

Casioのデジカメにはスローモーション動画撮影機能があり、これまでそれを活用してきました。 全剣連では、2008年からCasio Exlim EX-F1を使い続けていますが、今回はExlim EX-ZR300を使ってみました。

ZR300は、EX-F1と比べると、撮影ボタンを押した後に撮影が開始されるまでのラグが劇的に短くなっているのが便利です。 センサー感度も上昇しているため、屋内施設で行われる剣道の撮影を行うにはZR300の方が良さそうです。

日本武道館は照明が明るいので、EX-F1の映像でも良く見えたので、パッと見た感じではEX-F1とZR300の違いがわかりにくいかも知れませんが、会場照明が日本武道館よりも暗めな4月の八段戦ではZR300が威力を発揮する気がしています。

約2万円で購入できるデジカメで、この品質のスロー映像が撮影できることは、あまり知られておらず、凄いお金をかけていると思われているかも知れませんが、実際は一般的な民生品で撮影した動画をYouTubeに掲載しているだけだったりもします。

なんとかがんばる

全日本剣道連盟でのソーシャルメディアの取り組みは、凄いお金をかけてやっていると思われているようですが、実際には「今の民生機器やWebサービス等で出来る限界」というテーマでやっています。 ネット中継補助システムは私が家で趣味のプログラミングとして作ってるだけですし。

ソーシャルメディアも、「自分達で使える便利なツール」とか「自費で映像配信プラットフォームを整備するのが予算的に不可能という理由で10年前はできなかったことを、今はできる」という視点で使っていたりもします。 ソーシャルメディアを活用することで、自分達で出来ることが増えた、とも言えそうです。

外注しているのはWebサイトデザイン等の全剣連内部では難しい部分がメインで、大会当日のソーシャルメディア発信スタッフは基本的に剣道関係者です。 どちらかというと、体育会系組織にありがちな気合いと根性で乗り切るような部分もあります。

2008年から開始して既に4年目ということもあり、全日本剣道連盟事務局スタッフの熟練度が上昇しています。 今回の全日本選手権大会は、会場の関係で前日準備ができなかったため、ソーシャルメディア用のネットワーク敷設が当日朝だったのですが、20分遅刻したら既に会場内LAN配線が終了していました。 さらに、過去何回も使い続けてRJ45の爪がヘタってきたUTPを、私以外のスタッフが直したりも普通な光景になりつつあります。

こうやって内輪でがんばることを「それって単なるブラックだろ」という感想を持たれるかたもネット上では多いような気がしますが、実際問題として「それをやって見せる」ということがなければ偉い人に理解してもらえずに予算もつかないことが多いわけで、「やればわかってもらえるけど、わかってもらえないから見せられない」という鶏卵問題をどこかで打破しないといけない環境というのはあるわけです。

今後の発展

今回、スコア集計システムを作成して現場の効率化を目指しましたが、実際に運用してみて色々な課題や、さらなる改善可能性も見えてきました。

その他、運営上工夫の余地が大きいところもあります。 たとえば、各試合のスロー動画編集およびアップロードにどうしても時間がかかってしまうのですが、山のように大量にある決まり手が撮影されてない無関係映像に埋もれた、一本決定時の映像選定および編集の時間短縮をどうやったらできるかというような話もあります。

いままで、このシステムは全剣連大会だけで使ってきましたが、他の組織も使えるように整備してサービスとして無償公開したいとも思い始めています。 ノウハウを知ることができれば、多くの組織がネット中継を活発に行うことができるでしょうし、それによって各種競技愛好家が各種競技をさらに好きになったり、その競技がさらに新しい愛好家を獲得できるようになるのではないかと考えています。 各種競技団体が独自にネット中継をすることで、それを視聴するために全体的なネットリテラシ上昇にも貢献するでしょうし。 各種競技団体が発信する情報を基にしつつも、ブログで情報を発信するような人々が草の根的に登場して、独自の新しいエコシステムが形成されたりするかも知れませんし。

各種競技は、限られたパイの中から競技人口を奪い合うものという捉えられ方もある一方で、競技の枠を越えてノウハウを共有することで、パイそのものを拡大することも今は可能なのではないかと思う今日この頃です。

追記

全日本剣道連盟 : 第60回 全日本剣道選手権大会 情報提供(ソーシャルメディア活用等)のまとめ

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