MegaUpload関連で日本のユーザが逮捕される可能性を考える

   このエントリをはてなブックマークに登録    2012/1/23-1

先日、「ファイル共有サイトMegaupload閉鎖 - アメリカで起訴、ニュージーランドで逮捕」という記事を書いたところ、以下のような検索キーワードでの閲覧がありました。

  • Megaupload 誰が逮捕?
  • Megaupload ファイル共有者逮捕
  • Megaupload 日本 逮捕
  • Megauploadの件 逮捕

さらに、Yahoo!知恵袋で以下のような質問もありました。

最初は、純粋に「誰が逮捕されたのか?」に関して興味がある方々が多いのかと思っていましたが、知恵袋の質問を見て「もしかして、著作権侵害コンテンツをMegauploadにアップしていたユーザが逮捕を恐れているのではないか?」と思い始めました。

今回のMegauploadの事件は、サーバがアメリカ、会社が香港、代表逮捕がニュージーランドという国際的なものでした。 逆にいうと、サーバがアメリカにあることで、そこに著作権侵害コンテンツを外国からアップロードしたとしても、アメリカで起訴されたうえで外国で捕まる可能性を示す事件でもあったと言えます。

FBIが押収した25ペタバイト分の各種証拠

恐らく、FBIは25ペタバイト分のデータも押収しているものと思われますが、その中には誰が何をアップロードしているかの証拠が大量に詰まってそうです。

たとえば、DVDをリッピングしたうえでそのデータをアップロードしていたのであれば、アップロードしたデータ本体を含めて証拠が残っていることになります。 P2P的なファイル共有であれば、一箇所を押さえて大量の証拠を得るのは難しいのですが、全ての捜査が一極集中する構造を持つWebサービスであれば、そこを押収すれば大量の証拠がそろっています。

さらに、PayPayやクレジットカード会社等が保持する情報と付き合わせれば、「誰がアップロードしたか」までほぼ確実に追跡できるデータも多数含まれてそうです。 違法行為を行った人数はかなり膨大なので全ての容疑者を起訴するとは思えませんが、容疑者リストを作るぐらいまではしそうな気がしています。

アメリカ当局の要請で日本の警察が身柄確保する場合

次に気になるのが、アメリカ当局が日本国内にいる日本人を逮捕しようと思って可能なのかどうかです(基本的に私はこういった分野は素人なので間違いが含まれている可能性が高いです。気になる方々は各自で調べて頂ければと思います)。

捜査の場合

まずは身柄確保ではなく捜査を考えます。

アメリカでの令状は日本では使えないので、日本の警察に捜査等を依頼する必要があります。 アメリカ当局からの要請によって日本の警察が日本のMegauploadユーザに関する捜査等を行うには、ICPO(International Criminal Police Organization/国際刑事警察機構)経由で要請を受けて、日本の警察が動くという方法があります(ICPO経由以外に外向ルートや中央当局ルートによる方法もあり得るようです)。

これに関連する法律が「国際捜査共助等に関する法律」です。 同法は要請国および日本の両方で犯罪となる行為に対する捜査に関して規定しています。 著作権侵害コンテンツのアップロードは、アメリカと日本の両方で違法行為なので、恐らく捜査は可能であると予想しています。

MegaUploadの件とは全く別ですが、過去にサーバが乗っ取られて、そのサーバを踏み台にしてNASAへの攻撃が行われたという事例を耳にしたことがあり、そのときには某県警の警察官が捜査に来ていました。 同様に、捜査が行われる場合には、日本の警察が行うことになるものと思われます。

身柄確保(逃亡犯罪人引渡法)

次に、アメリカで逮捕するための日本での身柄確保ですが、まず関連するのが「逃亡犯罪人引渡法」です。 同法の第二条に「左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人を引き渡してはならない。」とあり、その九には「逃亡犯罪人が日本国民であるとき。 」とあるので、日本国民の引き渡しは原則不可となっています。

しかし、第二条は「左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人を引き渡してはならない。但し、第三号、第四号、第八号又は第九号に該当する場合において、引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。」という但し書きも含まれており、引渡条約がある場合には引き渡しが可能となっています。

身柄確保(日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約)

日本はアメリカと韓国とだけ引渡条約を締結しており、「日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約」の第五条を見ると以下のように書かれています。

第五条
 被請求国は、自国民を引き渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。

第二条と第三条は、以下のようになっています。

第二条
1 引渡しは、この条約の規定に従い、この条約の不可分の一部をなす付表に掲げる犯罪であつて両締約国の法令により死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものについて並びに付表に掲げる犯罪以外の犯罪であつて日本国の法令及び合衆国の連邦法令により死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものについて行われる。
...(省略)...

第三条
  引渡しは、引渡しを求められている者が被請求国の法令上引渡しの請求に係る犯罪を行つたと疑うに足りる相当な理由があること又はその者が請求国の裁判所により有罪の判決を受けた者であることを証明する十分な証拠がある場合に限り、行われる。

さらに、付表の20に「著作権の保護に関する法令に違反する罪」が含まれており、日本では著作権等の侵害が3年以下の懲役です(親告罪です。参考:文部科学省:著作権法における罰則規定の概要)。

付表
...(省略)...
20 工業所有権又は著作権の保護に関する法令に違反する罪

ということで、日本の警察が身柄確保をしたうえでアメリカに身柄が移送され、アメリカで逮捕ということは法的には可能だと思われます(容疑者数が膨大なので実際に身柄確保の要請が来るとはあまり思えませんが)。

違法複製物ダウンロードに関しては、2010年施行の改正著作権法(通称ダウンロード違法化)で違法となりましたが現時点では罰則規定がないので、引渡条約の条件には一致しません。 ただし、今後、違法複製物ダウンロードに関する罰則が懲役1年を越えるものとなるような法改正が行われた場合は、日本側の条件だけを見れば引渡条約の条件に一致するようになると思われます(ただし、遡って適用はできないと思うので今回の案件においてはダウンロードしたユーザに対する身柄確保は不可能でしょうし、個人による著作権侵害コンテンツダウンロードぐらいでアメリカから身柄確保要請が来るとは思えませんが)。

アメリカ入国時に逮捕

あと、可能性として考えられるのは、アメリカ入国時に逮捕というパターンです。

著作権侵害コンテンツのアップロードを行った容疑者リストがFBIによって作成され、そのリストが空港で運用され、容疑者入国時に逮捕されるという可能性もゼロではない気はします。 ただ、やはり容疑者数が膨大なので、どこまで本気で逮捕等をするのかは不明だろうとは予想しています。

パトリオット法との組み合わせ

もう一つ考えられそうだと思うのが、パトリオット法(米国愛国者法)との組み合わせです。

FacebookやGoogleなどアメリカ国内にサーバがある企業のデータは、アメリカ政府のパトリオット法に基づく要請に対して情報提供をしなければなりません。 たとえば、FacebookやGoogleやその他Webサービスなどでテロと関連してそうな内容の書き込みを行っている人物が、今回のアップロードに関わっていれば、アップロードを理由として身柄確保を行って本命は別の捜査というのもあるのかも知れないとは思います。

さらに、パトリオット法はアメリカ国内にサーバやデータがある場合だけではなく、アメリカ企業がアメリカ国外で運営するサーバに対しても適用されると言われています。 「パトリオット法 クラウド」という検索キーワードで探して頂ければ色々と記事を発見できると思うので、興味がある方々は各自で調べて頂ければと思います。

という感じで、パトリオット法に関連して今回のMegaUploadで得られるリストが活用される可能性もありそうだとは思いました。

最後に

MegaUploadの事件で個人的に衝撃だったのが、「サーバがアメリカにあるから」という理由でアメリカで起訴し、海外在住の容疑者の身柄確保が行えたという点でした。

何気なくインターネットを利用していて、そのサーバが外国にあり、本人は日本に居ながらにして外国で犯罪を犯していることになってしまっている場合があり得るという意味で「インターネットに国境がない」という状況が出来つつあるのかも知れません。 ただ、もしかすると「国境がない」のではなく、「国境はあるけど認識しづらいし、無意識に国境を越えてしまっている」という方が表現として現状に近いのかも知れないとも思う今日この頃です。

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