IPv4アドレス枯渇。その意味と恐らくこれから起きること(4)

   このエントリをはてなブックマークに登録    2011/2/1-1

さらに、IPv4アドレス市場が確立したとしても、IPv4アドレスの供給は簡単に増やせるものではありません。 IPv4アドレス枯渇後も世界的に増加し続けるIPアドレス需要に対して、使い続ける事が前提のIPv4アドレス供給は減少していく事が予想できます。 IPv4アドレスは「使い続ける」ことが重要なので、最初のうちは各種組織が利用していないIPv4アドレスが「市場」に登場する可能性がありますが、一度売られたIPv4アドレスが再度流通する可能性は低いと思われます。 そのため、時間が経過すればするほど供給が減少し、IPv4アドレスの価格は高騰していく可能性があります。

IPv4アドレスが高騰すれば、売る事に対して前向きになる組織が登場する可能性もありますが、IPv4アドレスを売るというのは自分のネットワーク規模を縮小するという意味でもあります。どの組織も一定以上は身を削る事はできないので、価格が上昇したからといって供給が永遠に増加し続けるというものではなさそうな気がしています。

IPv4アドレス移転と経路爆発問題

IPv4アドレス移転が頻繁に行われるようになると、IPv4アドレスを譲渡する側の組織は自分保持しているIPv4アドレスブロックから、自分が使っていない部分を切り出して渡します。 そうすると、今まで一つだった経路が複数に分割されてしまいます。 たとえば、大きなアドレスブロックを持つ組織が「IPv4アドレス売買」を行って収入を得るために、IPv4アドレスを細切れにして多数の組織に売り渡すと、それだけ大量の経路がインターネット上に溢れることになります。

さらに、IPv4アドレスの「売買」が活発に行われ、注文が発生する度に細切れにしたIPv4アドレスが販売され、同じ組織が連続しない細切れのIPv4アドレスを利用するという事例も発生する可能性があります。

このようなことが、世界各地で活発に行われてしまうと、今までにない勢いでインターネット上で経路数が増加してしまいます。 インターネット上の経路数が増加してしまうと、処理性能が低い(メモリが少ない)古いルータが処理しきれなり、一部の経路への到達性を失うネットワークが登場する可能性があります。 このため、IPv4アドレスの過度に自由な売買は結果としてインターネットを不安定にしてしまうかも知れないと言われています。

IPv4アドレス移転の効果の試算

IPv4アドレス移転が、IPv4アドレスの新規割り当てが不可能になる時期を遅らせるための延命策としてどれぐらいの効果があるのかという試算が2009年12月に発表されていました。 JPNICによる試算では、現時点での移転の仕組みを活用して、日本国内でIPv4を延命できる期間は「0.9年」だそうです(参考:IPアドレス移転制度に関する状況:社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)。

そこでは、非常にざっくりとした試算から0.9年分という移転可能アドレス数を推測しています。その根拠は以下のようになっています。非常にざっくりです。

  • 旧クラスAで配布済みなものがAPNIC内で38個あり、そのうち経路表にのっているものが20個である
  • 38個のうち、18個は経路表にのっておらず、グローバルに使われていない
  • グローバルに使われていないIPv4アドレスのうち半分が移転に利用可能で市場に流通と仮定すると、9個のクラスA分アドレスが移転に利用されることになる
  • この9個というのは、APNICの年間需要の0.9年分である(ただし、2009年当時)

色々非常にざっくりではありますが、「2009年時点で経路にのっていないもの」という視点で考えると、IPv4アドレス移転で稼げる時間はそう長くはなさそうです。

なお、現時点でIPv4アドレス移転が行えるのは同一RIR内の組織同士に限定されている点です。 最も多くのIPv4アドレスが割り振られている国はアメリカですが、日本とアメリカではRIRが異なるため、RIRを越えたIPv4アドレス移転はできません(ただし、RIRを越えるIPv4アドレス移転に関する提案や議論は行われています)。

とはいえ日本国内での影響は限定的

とはいえ、個人的には、日本国内においてはIPv4アドレス枯渇による一般ユーザへの影響は限定的になるのではないかと予想しています。

IPv4アドレス枯渇問題は、インターネットが拡大するのが困難になるという問題であるため、「成長」が大きな要素です。 既にある程度の成長を達成し、ユーザ増加による急激な成長フェーズを過ぎてしまった日本での影響は、いままさに拡大を続ける国よりは軽いものと思われます。

総務省による「平成21年「通信利用動向調査」の結果」を見ると、企業におけるインターネット利用率は99%、個人普及率は平成21年末で78.0%で増加に関しても数年前から緩やかなものとなっています。 回線もブロードバンド回線が76.8%(ただし複数回答可)です。

このため、今後、国内でインターネットユーザが急激に増えることに起因するIPv4アドレス需要の急激な増加が発生するわけではないと思われます。 さらに、ISPではLSN導入が検討されているため、一般家庭用のIPv4アドレス利用は圧縮される可能性が高いです。

極端な話、IPv4アドレスが枯渇したときに日本国内で苦労するのは、外部からのアクセスが必要になるようなサービスを行うために新規立ち上げを行いたいサービス事業者などに限定されるのかも知れません。 例えば、データセンターのような事業を立ち上げたくてもIPv4アドレスが無いので出来ないという可能性があります。 また、IPv4による、P2P、VPNサービス、IP電話なども影響を受けるかも知れません(SkypeやWinnyやBittorrentなどは恐らくLSNの影響を受けるでしょう。そのような背景からBittorrentは早期にIPv6対応しています)。

(続く:次へ)

   このエントリをはてなブックマークに登録