Webの有料化に関して妄想

2009/9/7-1

現在のWebは、無料で記事が掲載されることが半ば常識です。 有料の雑誌や新聞に掲載されているものと同等の情報であっても、Webを使えば無料で見られる環境があります。

無料による情報公開は時間とともにドンドン増えそうな雰囲気があります。 例えば、Googleは、今まで手に入らなかった情報を広く無料で公開しているように思えます。

しかし、個人的には昨年からの世界的な不況から色々と潮目が変化したような感じがしています。 下手をするとWebの世界における無料情報を最も満喫できる時代は今この瞬間という笑えない状態になりかねないと妄想しています。

「Webで掲載される情報が有料化していくかも」という考えをWeb上で公開すると、「あり得ないよ、バカ」と批判されそうな気もしますが、最近考えている「分野によっては有料化が進むかも」という妄想を書いてみる事にしました。

Webはバカと暇人のもの

数ヶ月前に「Webはバカと暇人のもの」という本が話題になりましたが、これはWebの世界のとある側面を表現していると思います。 私はWebそのものがバカや暇人のものだとは思いませんが、現在のWeb上で文章というコンテンツを利用して採算を取ろうと思うとゴシップ的な内容に突き進んで行くのが最も効率的であるような気がしています(Webの堅実な部分は目立ちにくいのも根は同様だと感じますが、今回は話題の範疇外です)。

今の無料Webだと採算が取りやすい内容と、そうでないものがあり、今後は「多くの人が見るもの」を中心に急激に発展しそうな気がしています。 個人的な感想としては、3年ほど前よりも今の方が「プロによるWebゴシップ」が増加している気がします。

そして、ゴシップ的な記事が注目されればされるほど、同様の注目を狙ってゴシップ的な記事が増えて行くのだろうと思います。 なお、私もタイトルに釣られてゴシップ的な記事を読みに行く事が多いです。

専門的な内容は採算が取りにくい?

一方で、読者が少なくなるような専門的なジャンルでは収入を得にくいとも感じています。 まず、専門的になると読者数が減ります。 「ターゲットにマッチした広告は非常に良い」という話は検索エンジン広告が証明してくれていますが、コンテンツ作成側の視点から見ると全体的な読者数が少ない状態でWeb広告で収入を得るのは至難の技です。 表示回数が少ないと不利ですし、Adsense(Adwords)的な仕組みだと広告を出す人が少ないのでクリック単価が低いこともあります。 専門的なコンテンツがロングテール的にある事は良い事です、ただし、その利益を最も得るのはロングテールそのものを「まとめ上げる」ことが出来る存在であり、ロングテールの個々の要素を構成するニッチサイトではありません。

専門的なジャンル用に記事を書こうと思うと、調査や執筆に時間がかかる傾向がありそうです。 真面目に調べようと思えば思うほど、時間がかかり、さらに特定分野を深く書ける人は少なくなる傾向があります。 IT系の分野であれば非常に多くのニッチ情報があるようにも見えますが、非IT分野におけるWebでの情報公開度合いを見ると愕然とすることがいまだにあります。

定期購読者の割合も関係があるかも知れません。 専門的な内容であればあるほど、徐々に定期購読者率が上昇していき、広告の効果が薄れていったり、クリックされなかったりするようになります。 他に同様のジャンルで情報公開をしているサイトが少ないと、このような傾向があるような気がします。

IT分野であれば、広告をブロックしたりAnalyticsなどのJavaScriptベースのアクセス解析から逃れる処理を施したり、全文RSSで読んだり、本文を自動的にRSS化して余計な物を全て表示しないユーザも多く、「人は居ても広告が成り立ちにくい」という場合もありそうです。

不況と広告

とはいえ、昨年ぐらいまでは何とかやっていけたサイトも多かった気がします。 サイトだけでは何とかやっていけていなくても、そのうち何とかなるだろうと不採算でも続けたりというのもありそうです。

しかし、最近の不況によって様々な企業が広告を出さなくなりました。 さらに悪い事に、不採算でも良いからと言っていた企業の本業が苦しくなって来てWebどころじゃないという話もあります。

オンラインメディアでもバナー広告の申し込みは減っているというところもあるようです。 広告主が、より直接的な「効果」を期待してバナーではなくタイアップ記事の執筆やイベント開催+記事セットによる広告収入の割合が増加した媒体もあるようです。 また、広告が入らないため、有料化が可能ならば有料化してしまいたいという声もチラホラ聞こえています。 恐らく現状では有料化しても誰も見なくなるだけなので踏み切れないのでしょうが、何処かが大成功したり、携帯電話で築き上げられた生態系のようなものがWeb上に登場すると、凄い勢いで様々なオンラインメディアが有料化に一気に走ってしまうのではないかと妄想することがあります。

ブラックスワン

ブラックスワン -不確実性とリスクの本質-」という本では過去の経験と認知を覆すような、たった一つの事例を"黒い白鳥(ブラックスワン)"と呼んでいますが、それには以下の3つの特徴があると書いています。

第一に、異常であること。 つまり、過去に照らせば、そんなことが起こるかもしれないとはっきり示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること。 第二に、とても大きな衝撃があること。 そして第三に、異常であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて道筋をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること。

今の常識ではオンライン情報の有料化はあり得ない愚作と断じる人が多数派です。 でも、オンライン情報有料化で大成功のブラックスワンが一羽登場すると、いきなり世界が変わってしまうのかも知れません。

そして、その時になると「有料化は必然だった。無料化こそ不自然だった」という主張が当たり前のように行われる世界が来そうで怖いです。

「当たり前」になり感謝が薄れる

無料であることの有り難さを忘れて、無料化が義務だと思う人々が大量発生すると色々と崩れるものがありそうです。 Web上では、様々なものが無料で入手可能ですが、そうであり続けるために努力をしている人は非常に多いのです。 しかし、無料のものが増えれば増えるほど「感謝」が薄れ、「当たり前」になっていくというのは非常に皮肉だと思えます。

Webとは直接は関係無いかも知れませんが、「IETFが運営費に苦労しているのでIETFに参加しよう!」という話もあります。 フリーソフトやIETFなどで無料公開されている仕様書などは、様々な人々が努力をしつつ、脇で色々と資金集めをがんばっている人がいるので成り立っているんだなぁと思い知らされます。 このような活動への「理解」も、「あって当たり前」と思う人が多くなってしまうと危機に突入するのかも知れないと思う事があります。

電子ブックやDRM

手軽な電子ブックと情報のデジタル化を求める声はネット上で多いと思われます。 今のところは日本で勢いがある電子ブックプラットフォームは、まだなさそうですが、電子ブックプラットフォームが一般化すると無料Webが減るかも知れないと妄想する事があります。

電子ブックを情報配信経路を含めて設計するとき、恐らく課金についても考慮が行われるでしょう。 コピー防止のDRM機能を含む物もありそうです。 広く普及した電子ブックプラットフォームが実現すれば、携帯電話では閲覧が疲れるような長文を電子的に配信することで収益を得ることができるようになります。

紙のような印刷コストや配送コストが無いため、電子ブックでのコンテンツは書籍よりも安価に提供されるかも知れません。 さらに、印刷することのリスクが無いため「出版への敷居」が劇的に下がる可能性もあります。 そうなると、「コンテンツの数」を爆発的に増加させるために、今のアフィリエイトのような申し込みの緩さで有料コンテンツ配信が多くに人にオープンになるかも知れません。

これは、コンテンツを作って収益を上げられる人の間口を劇的に拡大させるという効果がありそうですが、一方で、無料情報をWeb上で公開する人の数が劇的に減少するキッカケになりかねないとも思います。 リスク無しで気楽に「有料コンテンツ」を配信するプラットフォームが普及したときに、人々は無料情報を公開し続けるでしょうか?

電子ブックではなく、例えばiPhone経由の課金も選択肢としてはあり得るかも知れません。 iPhone SDK 3.0からアプリ内課金が行えるようになったので、iPhoneでの購読モデルが実現可能です。

検索エンジンにはヒットするけど「この先は有料」

論文検索を行っていると良く遭遇する手法ですが、検索エンジンには有料エリアを見せつつ、キャッシュ保持を許可せずに、訪問したユーザには「この先は有料」というページを見せるという手法があります。

現在はまだこのような検索結果が多いわけではないのですが、万が一、有料サイトが増えて行くと、このような検索結果に遭遇する度合いも増加しそうです。

そうなると、無料情報だけを掲載というオプションが全ての検索エンジンにつくようになるかも知れません。 さらに、有料エリアへのアクセスを許される検索エンジンだけが生き残り、その後は検索エンジンを新規作成するための参入障壁が今よりもさらに高くなるという嫌なシナリオを妄想しました。

無料情報として公開され続けるもの

有料情報が増える事は、無料情報が絶滅するという意味では、恐らくありません。 無料で掲載して採算が取れるジャンルのコンテンツは無料で公開され続けるだろうと思います。 個人的には、一般向けニュースやゴシップ的なネタなどの大量の読者が見込めるコンテンツは無料で公開され続けるような気がしています。

また、宣伝目的や継続的に明確なスポンサーがついているサイトなども無料で情報公開を続けると思います。

無料情報で収益を得るための試み

今まで、Web上で情報を無料公開しつつ収益を得るための様々な方法が行われています。 例えば、「寄付モデル」や「パトロンモデル」や「イベントや講演会で元を取る」というモデルに関しての試みは色々あります。

一時、寄付モデルに関しての話題が盛り上がった時期がありました。 外国では、オープンソースソフトで寄付を募るものは昔から多いです。 しかし、公開された文章に対しての寄付という意味では「読んだ」「面白い記事だった」という行為に対して個別に寄付が発生することは、ほとんど無いと思われます。

今まで日本国内のWeb上で私が観測した範囲内で寄付が集まりやすいと思うのは「困ってるんです!助けて下さい!」系です。 2chで炎上することが多い病気を治療するための募金という形もありますが、「生活出来なくてお金が底をついたので誰か下さい」という募金形態もネット界隈(ブログ界隈?はてな界隈?)で何度か発生しているのを目撃しています。 最近ではニコニコ動画上で、そのような寄付募集があるようです。

現状では、何かの「イベント」に対しての寄付(募金)は払うが、定常的に公開されていたり、継続的に記事を書き続けたりする事に関しての寄付は発生しにくいのかも知れません。

音楽の話で良く出るのが「音楽配布は無料にしてコンサートで収益を」というモデルです。 Web上で無料公開する文章で同様のモデルを行うのであれば、Web上の無料公開情報で知名度を上げつつ、書籍で収入を得たり、講演会の収入を得るなどの方法がありそうです。

ただ、このモデルの欠点として、知名度が上昇した後の無料文章アウトプット量が減る傾向があると思われます。 例えば、書籍執筆に専念するようになれば無料公開される文章量は減りますし、書籍の内容が出版前にそのまま公開されることは少ないと思われます。 講演などが忙しくなったためにWebに吐き出される情報が減ることもありそうです。

「パトロンモデル」は要はお抱えメディアになることであり、あまり好まれなさそうです。 結局、現在一番多いのが広告収入モデルなのかも知れません。

「無料で公開して収益を得られる仕組みが必要だよねぇ」

このような話をしていると良く出るのが「無料で公開して収益を得られる仕組みが必要だよねぇ」という話です。 私もそうなのですが、それって基本的に「私は直接は払わないけどね」という前提があったりします。 そうなると、コンテンツを製作する人が生活するための収益はどこから発生するのでしょうか? 難しいですね。。。

余談ではありますが「じゃあ、税金を投入?」という話題も出そうです。 それは恐らく考え得る中で最悪の案だと思います。 読者側は「俺の金で書かせてやってるんだから下らない事は書くな」という思想になり、筆者側も書く内容に対して変な気を使うようになりそうです。 気がつくと誰からも支持されなくなり、税金投入が終了した時点できっとメディアも終了ですね。

さて、で、どうするのでしょうか? 今までは「広告」という「見えない負担」もしくは「ぼかされた負担」が最も成功しているわけですが、不況によって単なる広告が減ると同時に「記事広告」という「負担も意図もぼかされた記事」が増えてるのかも知れません。

お金を払った方が読者層が限定される

津田さんがTwitter上で以下のような発言をされていました。


http://twitter.com/tsuda/status/3344374416

雑誌の方がコンテキストや前提意識を統一しやすいため、思い切った表現で尖った事を書けるというのはあると思います。 Webにおいても有料化が進んで行くと、読者のセグメント分けが進んで行くのかも知れません。

最後に

「情報」としての無料が極端に減少し、宣伝や扇動目的の情報だけが氾濫するようなインターネットは嫌です。 ただ、油断するとそっちに向かってしまう可能性もありそうな気がしています。 日本のWebはバカと暇人ばかり、が公共の常識になるような世界の到来は好ましいとは思えません。

色々考えて行くとマイナスな方向に考えが行ってしまいましたが、無料で公開すればするほど儲かるという流れが作れなければ、ネットで無料公開される情報がワイドショーだらけになる世界が来るのかも知れないと考えてしまいました。

「では、有料情報ばかりにならないためにどうすれば良いのか?」という点は、今のところ何も思いついていないのですが、有料情報ばかりにならなければいいなぁと思う今日この頃です。

10年後ぐらいに「あれは考え過ぎだった」と言えたらいいですね。 いや、でも、この文章は「今、文章を作っている人々に関しての話題」であって、「今までコンテンツを表に出していなかった人々が眠っている情報をオンラインに出す」という視点は抜けているかも知れません。 情報は持っているけど電子化は今までしていなかったとかですかね。 でも、そう思うと、今の無料Webの世界はGoogleというブラックスワンが造り上げており、それに対する揺り戻しが来てもおかしくはない、という考えかたもありそうだなぁと、最後にふと思いました。

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