インターネットの形を変えて行くGoogle,Facebook,Akamai...

2009/10/20-1

Arbor Networksの調査によると最近のインターネットトラフィックは、Tier 1と呼ばれる世界的に巨大なキャリアではなく、コンテンツを持っていて巨大なトラフィックを持つコンテンツ保持者へと移っているようです。

この調査結果を見ると、ここ数年で世界全体のインターネットトラフィックが急激に集中していっている様子がわかります。 5年前はトラフィックの多くはTier1と呼ばれる世界的な大手ネットワーク事業者を経由していたのですが、最近2年の傾向を見るとLimelight,Facebook,Google,Microsoft,YouTube,Akamaiなどの"hyper giants"上位30組織のトラフィックが世界全体のトラフィックの30%を消費しているそうです。 また、上位150組織で世界全体の半分(50%)のトラフィックを消費しているとのことでした。 5年前であれば、世界全体のトラフィックの50%を占有するには数千社が必要だったともあります。

この調査は、110カ所のネットワーク内にある2949のルータからのデータを解析した結果だそうです。 Arbor Networks社のリリースには書いてありませんが、TELEPHONY ONLINEの記事によると、アメリカ、アジア、ヨーロッパにある、Tier 1キャリア9カ所、Tier2キャリア48カ所、その他33カ所からのデータとありました。

Arbor’s data was collected from nearly 3,000 peering routers across s110 large and geographically diverse networks: nine tier-one carriers, 48 tier-twos, and 33 consumer and content providers in the Americas, Asia, and Europe. It was harnessed using a collaborative effort among more than 100 ISPs to share anonymous security, traffic and routing data on an hourly basis.

この調査の面白いところは、Googleなど自前でAS(Autonomous System)を持っている企業とISPなどによるプライベートピアリングのデータを含めて考えているところです。 例えば、最近の日本国内であれば大手プロバイダから家庭にネットワークを引いている人であれば、googleまでtracerouteしてみると、自分が入っているプロバイダの次のネットワークがいきなりgoogleになっているのがわかると思います。 これは、日本国内のプロバイダがGoogleと直接ピアリングをしているからです。 Googleは自前でASを持っているので、ISPと直接繋がれるのですが、その時にGoogleは「トラフィックを持っている」ので、ISPと対等もしくは、ISPよりも強い立場で接続を依頼できます。 本当のところはわかりませんが、もしかしたらISP側が「繋がせて下さい」と言って回線費を負担している可能性もあります。

このように、コンテンツを持っている巨大企業が自前でASを持ち、巨大な「ネットワーク」としてキャリアなどの「ネットワーク」と接続していくという傾向が徐々に顕著になっているようです。 恐らく、そうしないと巨大化して行くトラフィックを十分さばけないのだと思います。

「クラウド」の流行も、この流れとは無縁ではなさそうです。 クラウドを利用する側としては、全く逆の方向性ですが、クラウドを提供する側としては、まさにこの流れの通りです。

Googleに関して

Arbor NetworksによるNANOG47でのプレゼン資料の中に、GoogleとYouTubeによるトラフィックのグラフがあります。 Googleと言っているのが恐らくAS15169で、YouTubeと言っているのがAS36561ではないかと思います(AS43515,YouTube-EUというのもあります)。

NANOG47発表資料より

この図を見るとYouTubeが急激に減ると同時にGoogleが急激に伸びているように見えますが、これはGoogleによるYouTube買収によってYouTube本体が時間をかけてGoogle内へと徐々に移動している事を示していると思われます。 グラフの変化が2007年末〜2008年初頭になっているのが象徴的ではないでしょうか。 プレゼン資料にも「Over time Google absorbs YouTube traffic」と書いてあります。

例えば、私の手元の環境では、www.youtube.comを見てみるとyoutube-ui.l.google.comへのCNAMEになっています。 恐らく、皆がyoutubeだと思っているのは、AS36561のYouTubeではなく、AS15169(Google Inc.)に構築されたGoogle自前CDNの中に入っているYouTubeコンテンツなのだろうと思います。

なお、Googleは買収した他の企業のトラフィックも持っていそうです。 以前調べた感じでは、少なくともDoubleclickやpostiniなどのトラフィックもAS15169と関連がありそうです。 このようにGoogleは買収を重ねることで、ネットワークトラフィックを巨大化させていき、ネットワークインフラの世界において巨大で強い存在へと成長しています。

参考までに、以前「Googleのネットワーク構成を調べてみた」で描いた図を貼付けておきます。

次に、9月時点のRouteViewsデータによるYouTubeへの経路数の図です。 RouteViewsで提供されているデータでは、Googleを経由するものがYouTubeのASへと直接行くものよりも多いのがわかります。

まあ、経路の数だけを見ても結局の所はわからならないという話もありますが、参考までにどうぞ。

インターネットの形の変化

NANOG47の発表では、昔から教科書に掲載され続けている「インターネットの形」が明らかに変化していると述べています。 今までは、以下の図のようにTier1と呼ばれるキャリアを頂点とするネットワークでした。

NANOG47発表資料より

しかし、最近では"hyper giants"と呼ばれる巨大なコンテンツ保持者であったり、巨大なユーザ数を誇っていたり、巨大なCDNが上位のプレイヤーとして台頭してきているとのことでした。

NANOG47発表資料より

なお、CDNの上位5社に関してのグラフも発表資料内にありました。 CDNというカテゴリで見るとインターネット全体の10%になるそうです。 なお、このグラフでは一見LimeLightの方がAkamaiよりも多いように見えますが、発表スライドには「Only includes Akamai inter-domain (likely 1/4 or less of Akamai)」とあるので、Akamaiのぶっちぎりトップだと思われます。

NANOG47発表資料より

トランジット収入の悲しいグラフ

NANOG47の発表資料の中で、トランジット収入とインターネット広告収入のグラフが書いてありました。 PDFを見ているだけで、発表そのものを聞いていないので二つのグラフの関連がどのようにあるのかはわかりませんでしたが、何かある意味、悲しいグラフだと思いました。

NANOG47発表資料より

昨年Tier1が「秘密結社」と言われていた記事もありましたが、そりゃぁ、Tier 1も苦しいはずだと。。。

とはいえ、トラフィック量という意味では発表資料中の「ATLAS 10」の1位がLevel3で2位がGlobal Crossingだったので、そこはまだ2007年時点と変わっていませんでした。 ただ、2009年の3位にGoogleが来ており、もしかしたら近いうちにGlobal Crossingを追い越してしまうのかも知れません。

P2P

この調査では最近2年でP2Pによるトラフィックは劇的に減少したとも述べています。 ただし、アジアでの減少率は他よりも鈍いそうです。 でも、大きなシェアを持つコンテンツプロバイダがプライベートピアしまくったら、Tier1などの間を流れるP2Pトラフィックの「割合」は増えたりしますかね???

最後に

今後は、「アテンション」を持っている企業がコンテンツの世界だけではなく、インフラの世界においても支配的な強さを見せ始めているということなのかも知れません。

コンテンツを管理するだけではなく、ネットワークも自律的に自分で運用管理することによって、巨大な存在がより巨大になって行く様子を今まさに皆が目にしている感じなのかも知れません。 「インターネットの形」は今も変化し続けており、恐らくこのような大きな流れも「変化」の一端なのでしょう。

NANOG47のプレゼン資料では、インターネットの経済モデルがコネクティビティからコンテンツへとシフトしており、ウェブ/クラウド/CDNなどのNew Technologyがネットワークとしてのインターネットの形を再構成させていると述べています。 今後数年は、IPv4新規割り当てアドレス枯渇問題とIPv6への移行も同時に考えると、今後数年はさらに大きく「インターネットの形」変わって行くと思われます。

インターネットは人々の生活や社会を徐々に変えているように思えますが、ネットワークインフラとしてのインターネットそのものも徐々に変化していると思った今日この頃です。

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インターネットのカタチ もろさが織り成す粘り強い世界 過去に実際に起きた「インターネットが壊れて復旧した」事件を端緒に、「粘り強いが壊れやすく、壊れやすいが粘り強い」という視点でインターネットの形を探るという本を書きました。 インターネットを構成する基礎技術TCP/IPを解説した書籍は非常に多くありましたが、そのTCP/IPを使ってインターネットがどのように運用構築されているのかに関しては、あまり知られていません。本書は「TCP/IPを知っていてもインターネットはわからない、一方でインターネットを知るにはTCP/IPの細かい話を全て知る必要もない」という思想で、教科書的にならずに、あくまで「読み物」として楽しんで頂けることを目標に書いています。

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