ソーシャルメディア - 黒いグレーが白に変わる過程

2012/3/19-1

Web2.0とかCGM(Consumer Generated Media)がネットメディアの主役的な扱いを受け始めてから、もうすぐ10年になります。 マーケティングの世界においてもソーシャルメディアが非常に大事な要素となったことからも、ソーシャルメディアが実世界に大きな影響を与える存在になったことが良くわかります。

年末年始にSOPA関連の話題が英語圏のネット上を駆け巡り、それに関して色々と調べていて思ったのですが、ソーシャルメディアの世界では「黒に近いグレー」が「白」へと変わる過程といものがあるサービスもあり、あるものは「白いサービス」の栄誉を勝ち取りつつ、あるものは「真っ黒」であると認定されて摘発されるという構図がありそうな気がしました(ソーシャルメディア全般においてそうだと考えているわけではありません。念のため)。

SOPA/PIPAは今年に入って事実上の廃案へと追い込まれましたが、SOPA/PIPAに関しては@ITで書いた記事をご覧下さい。

今日は、SOPA/PIPA廃案の直後に行われたMegaUpload摘発に関連しての感想色々です。

「悪いユーザ」

インターネットを利用した、いわゆる「ニューメディア」的なコンテンツ事業者は、自分自身でコンテンツを作らずに「コンテンツを共有する場」を運用することによって巨大メディアへと成長したという側面があようにも思えます。 そして、そういった「場」において共有されるのは、ユーザが自分で作成したコンテンツだけではなく、著作権侵害コンテンツも含まれています。

しかし、現状では、アメリカ国内にあるソーシャルメディアなどのサービスを提供しているIT企業は、DMCA(Digital Millennium Copyright Act)の「Title II: Online Copyright Infringement Liability Limitation Act」の「safe harbor」によって守られています。 インターネットを利用したコンテンツ事業者は、著作権侵害の申し立てに対して適切に対応していれば責任を果たしていることになります。

例えばDMCAでは、「悪いユーザー」がいても、権利者から申し立てがあったときにはじめてその「悪いユーザー」の悪行を停止できれば責任を問われないことになります。 ソーシャルメディアに代表されるCGM(Consumer Generated Contents)との相性がよい法律でした。

成立前に非常に多くの批判があったDMCAですが、そのDMCAがあったからこそ、アメリカではCGMが急激に成長したという考え方もできるのが多少皮肉な感じもします(当時の論争があったからこそ、そういった条項が織り込まれたのでしょうが)。

YouTubeだって最初は。。。。

そもそも、そう考えると、Googleによって買収される前のYouTubeも最初は著作権侵害コンテンツだらけのサイトというイメージがあります(当時の雰囲気に興味がある方は2005年頃に書かれた各種ネット媒体やブログ記事を検索してみて下さい)。

Googleに買収されることによって、黒に近いグレーだったサイトが徐々に白っぽく見えるようになり、Viacomとの訴訟などを経て現在は完全な「白」へと変貌しているように思えます。

今のYouTubeを「アングラサイト」というような感じで見ているユーザは非常に少ないと思います。 大手メディアや各種団体が公式アカウントを持ち、世界のインターネットトラフィックの1割強を越えるコンテンツを流通させる巨大プラットフォームへと成長しました。

このような黒いグレーから白への変貌というのは、ネット企業に限りませんが、多くのネット関連事業は現時点で「白への模索」をしているという側面もありそうな気はしています。

MegaUploadの会員数の衝撃

で、やっとMegaUploadの話になるのですが、この前、某ネット関係者の方々や某知財関係者の方々と集まって雑談をしているときに、MegaUploadや各種アップローダの話になりました。 非常に多くのユーザがダウンロード用アカウントを取得するためにお金を払って会員になっていたという事実が中々衝撃だったようです。

その延長線上で、「何でレコード会社とかは上手くユーザが好むようなネットサービスを 出来ないのか?」という話題が登場しました。

それに関して考えたのですが、その場での意見の一つとしては、単にMegaUploadが価格破壊だったから非常に多くの有料会員を集めたというものがありました。 音楽や映像の権利者が各自でダウンロード販売などを行う場合の価格とアップローダサイトが提供するような月額基本料金のようなサービスを比べた場合、後者の方が恐ろしく低い価格でサービスを提供可能です。

これは、アップローダサイトがコンテンツを自ら作成しているわけではなく、サーバの運用コストだけあれば運営可能であるからこそ実現できていたのだろうと思いますが、お金を払うユーザ側からすれば、より安く多くのコンテンツを入手出来る方を選ぶことが「合理的な選択」となります。

一方、これまで多くの権利者団体や家電メーカーがダウンロード販売を実現しようとして様々なサービスを発表していますが、多くが失敗しています(成功していると思えるのはiTunes Storeぐらい?)。 ほとんどのサービスがユーザにとって価格その他の要素を含めて魅力がないものと映るためだと思われます。

利益還元プログラムを模索していたMegaUpload

で、さらに話が進み、「MegaUploadもアーティストに利益を十分還元できるような仕組みになればよかったのに」という意見が出ました。

実際は、昨年末ぐらいにMegaBoxというアーティストへの利益還元プログラムが発表されていました。 MegaBoxは、アーティストに利益の90%を還元するという内容でした。

FBIによる起訴が発生しておらず、そのままMegaUploadによる営業が継続していたならば、もしかしたら、このサービスは大成功していたかも知れません。

ユーザが無償ダウンロードしたとしてもアーティストにお金が入るので、アーティストは積極的に楽曲を無償公開するという仕組みが出来上がっていた可能性もあります。 まあ、それを支えるのがダウンロード速度を上昇させるために「会員」になっているユーザなのでしょうが。

で、もしMegaUploadによるアーティストへの還元プログラムが成功していたとすると、MegaUploadは徐々に著作権侵害コンテンツに対して厳しくなり、アーティストを優遇するようになっていたものと思われます。

そして、時間をかけて著作権侵害コンテンツを追放していき、正規コンテンツの一大流通場へと発展していた可能性もあります。

FBIに起訴されている内容を見ると、マネーロンダリングを含めてMegaUploadは色々と活動が真っ黒なのですが、もし万が一、あのまま営業を続けられていたら黒が徐々にグレーへと変わり、そしていつの間にか白へと変わっていた可能性もあるのではないかと妄想してしまいます。

ネットサービスは最初にユーザを集める部分が非常に大変なわけですが、何らかの手法でそこをクリアした後にサービス内容やユーザ層を変貌させつつ「白いサービスを目指す」というのが実現できていた場合に、MegaUploadが世界全体にどのような変化を与えていたのかに関しての思考実験を行うのも面白そうです。

ネット上のニューメディア全般の話かも

そう考えると、ネット上のニューメディア全般が同様の構造を抱えているような気もします。

当初は黒っぽいグレーな方法でサービスを行いつつも、長期間運用が継続される過程で徐々に白っぽいグレーを目指し、途中で訴えられたり逮捕されたりして「真っ黒」へと転落せずに「白」への道を突き進んだものだけが最終的に生き残るという生態系なのかも知れません。

今は「白っぽいグレー」だとしても、実はいきなり「真っ黒」へと転落してしまうネットメディアやネットサービスもありそうです。 最近は、徐々にそのような傾向が進みつつあるように思えるので、今年は「黒認定」されるサービスが増えて行きそうな空気も感じます。

検閲や規制や制限や逮捕の話が多い

最近のネット関連の話題は検閲や規制や制限や逮捕の話が非常に多い気がします。

10年前は、「これだけ拡大している」とか「ここがもっと便利に」とか「ここもこれを採用」というような話題が中心だった気がするのですが、普及期を過ぎたのか、最近は「どうやって制限するか」な議論が多めな気がしてなりません。 私がそういったネタに注目しがちだというバイアスはあるのかも知れませんが。。。

それだけユーザ層が世界中で増えていて、ネットでの活動が現実世界に大きな影響を与えつつあるということのあらわれなのかもしれません。

おまけ

本件とは直接関係ありませんが、MegaUploadは、世界のインターネットトラフィックの数パーセントを専有するぐらいの規模だったようです。 同時に、同様のアップローダサイトが運用されている物理的な位置は集中しているというような調査結果も公表されています。

MegaUpload閉鎖後に、FBIによる摘発を恐れて世界中のBitTorrentサイトが閉鎖されたり、アップローダサービスやアップローダでのアフィリエイトが停止されるなど、MegaUpload事件は大きな変化のキッカケになったように思えます。

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