IPv4アドレス枯渇。その意味と恐らくこれから起きること(3)

2011/2/1-1

多少ややこしい話なのですが、広義ではIPv6への移行はIPv4アドレス枯渇対策です。 しかし、狭義ではIPv4アドレス枯渇対策は、IPv4上で行わなければいけません。

これは、現時点のインターネットはIPv4で動いておりユーザもIPv4を使っているためです。 現時点で急いでIPv6への移行をしても、ほとんどのIPv4ユーザは使ってくれません。 今のインターネットを利用している今のユーザと、インターネットを使って通信を行うには、少なくともユーザ側はIPv4で行われる通信を使う必要があります。

IPv4アドレスが枯渇するということは、IPv4アドレスをこれ以上新たに割り当てられなくなるということであり、それでも規模を拡大したい場合には今あるIPv4アドレスをどうやって使い回すかという話になってきます。 そして、今あるIPv4アドレスを使い回すために、一部のIPv4アドレスの利用を圧縮して他にまわすようなことが要求されるようになります。このようなことを考えたり、準備をするのが、IPv4アドレス枯渇対策です。

一方で、IPv6への移行というのは、IPv4との互換性がないIPv6を多くのユーザに使ってもらうようにしていく活動です。これ以上IPアドレススペースを拡大出来ないIPv4ではなく、IPアドレススペースが巨大なIPv6へと引っ越してもらうことです。みんながIPv4の世界に居て、IPv6の世界に居ない状態で、自分だけIPv6へと引っ越してもあまり意味がありません。

「IPv4アドレスが枯渇したから対策としてIPv6へと移行を急ぐべきだ!」というのは、マクロな視点で見た場合は、確かに解決策です。インターネット全体や、国としてという視点で見た時には、IPv6への移行が「解決策」と言えそうです。

しかし、IPv4アドレス枯渇が実際にトリガーされた後に、痛みを伴う個々の事業者やユーザを主体として見た時には、IPv4アドレス枯渇対策というのは「限られたIPv4の世界でどうやって規模拡大を実現するか?」という話になります。

恐らくジワジワと進むIPv6への移行

「IPv6はユーザメリットがあるわけではないから普及しない」という意見を散見しますが、現時点におけるIPv6への流れは、ある意味ユーザニーズとは直接関係ないところで進行しています。 「メリットがあるからIPv6へと移行する」というよりも、「IPv4アドレスが枯渇してしまうのでインターネットインフラ事業者は移行せざるを得ない」という状況に近そうです。

インフラ側が提供するサービスを調整することで、時間をかけてユーザを誘導可能であることは携帯電話(たとえばmovaからFOMAへの移行など)などを見ていれば何となく想像可能かもしれません。

IPv6も同様で、インターネットインフラ業界では既に世界レベルでIPv6化が進んでいます。 インターネットインフラ側としてIPv6へと移行しなければならない明確な理由があり、恐らくユーザもIPv6へと自動的に移行へと誘導されていくのだろうと推測しています。

インターネットインフラ側がIPv6を推進しなければならない理由の一つとして、IPv4の運用コストがIPv4アドレス枯渇ととともに今後増大する可能性が挙げられます。 まず、IPv4アドレスが枯渇したときに、IPv4を使い続けるために必要になりそうなのが大規模NATであるLSN(Large Scale NAT、別名CGN/Carrier Grade NAT、さらに別名Multi-User NAT)です。 このLSNは、通常の家庭用NAT機器とは異なり、さまざまな機能や規模性が求められるため、現時点では、高価になるだろうと言われています。


LSN環境では家庭用NATとあわせて2段NATになる環境も登場します

そして、ISPが全ユーザに対してLSNによるサービスを提供するには、それなりの台数が必要となります。 ISPとしては、高価な機器を大量に購入しなければならないのは大きな負担なので、購入台数を最小限に留めつつ、LSN購入時期を可能な限り後ろにずらしたくなるのだろうと思います。

一方、現在販売されているネットワーク構築用のルータ(家庭用SOHOルータを除く)やスイッチの多くは、既にIPv6対応されているため、IPv6ネットワークは複雑な機器を購入しなくても可能です。 そのため、IPv4アドレスが枯渇後には、IPv6ネットワークを構築するほうがIPv4ネットワークを構築するよりも安価になる可能性が高くなります。

時間の経過とともに、機器の値段だけではなく管理コストの面でもIPv4のほうが高くなっていくことが予想されます。 上限が限られたIPv4アドレス空間により多くのユーザを詰め込むような運用をすることが求められ、ネットワークが複雑化するためです。

その他、IPv4アドレスが枯渇して、IPv4アドレスそのものが「貴重な資源」となってしまうことによって「価値」が産まれてしまうことによる「コスト増大」も予想されます。

IPv4アドレス移転と「IPv4アドレス売買」「IPv4アドレス市場」

IPv4アドレスが貴重な資源になると価値が発生し、組織間でIPv4アドレスの「売買」が行われるだろうと言われています。 しかし、IPv4アドレス枯渇が間近に迫るまでは、IPv4アドレスを組織間で移転することは認められていませんでした。

とはいえ、IPv4アドレスが枯渇した後に、余っているIPv4アドレスを組織間で移転できる仕組みがなければ、IPv4アドレスがどうしても必要な組織は闇取り引きへと走らざるを得なくなってしまいます。

IPv4アドレスの闇取り引きが活発になってしまうと、誰が実際にそのIPv4アドレスを管理しているのかがわからなくなるという問題があります。 現在のインターネットでは、「誰がどのIPアドレスブロックを持っているか」という点が管理されており、何か問題が発生したときに、管理者がIPアドレスから問題発生組織を知って連絡ができる体制が整えてあります。 IPv4アドレスを統括的に管理している組織を通さずに、自由なIPv4アドレス取引や、IPv4アドレスの闇取り引きが横行すると、各IPv4アドレスを実際に利用している組織が把握できない状態が多発するため、微妙なバランスで成り立っているインターネットを根底から変えてしまう恐れすらあります。

そのため、全てを禁止するのではなく、手続きを経てIPv4アドレスを移転する仕組みが用意されました。 日本が参加しているAPNICでは、2010年にIPv4アドレス移転が実装され、組織間でIPv4アドレスを移転できるようになりました。

しかし、ここで重要なのは良く言われている「IPv4アドレス市場」や「IPv4アドレス売買」と、実際に仕組みが存在している「IPv4アドレス移転」はニュアンスが違うという点です。 IPv4アドレス移転は移転するためのものであり、自由市場というわけではありません。

また、IPv4アドレスを新規に受け取る団体に対する審査は、従来の新規割り当て同様に存在するため、IPv4アドレス移転の仕組みがあるからといって、IPv4アドレス自由市場が登場するわけではありません。 そのため、投資目的でのIPv4アドレス取得のような事は困難であると推測されます。

(続く:次へ)

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