eMobileのインターネット接続形態を調べてみた

2010/6/16-2

従量課金の話題が盛り上がっているところに丁度、EMOBILEでの帯域制限に関する発表がありました。

『EMOBILE通信サービス』における通信品質確保を目的とした対策の運用基準改定について

これは、2009年10月から開始している帯域制限の条件を変更するというものです。 現行では1ヶ月間に300GB以上利用した場合、翌々月1ヶ月間は帯域制限を受けるというものでしたが、2010年8月24日からは24時間以内に300万パケット(366MB)以上を利用すると、その日の21時から翌日2時まで制限を受けます。 帯域制限がトリガーされる粒度が変わり、帯域制限発動までの時間と容量が短縮された形です。

EMOBILEの発表は、従量課金に関してではなく帯域制限に関してですが、個人的に色々不思議に思ったので調べてみました。 ということで、EMOBILEがどのようにインターネットに接続しているかという、ASとしての構成を調べてみました。

BGP情報による推測

EMOBILEがAS(Autonomous System)としてどのように接続されているのかを推測するには、BGPフルルート情報が利用可能ですが、生のBGPフルルート情報を扱うのは面倒なので、UCLAのCyclopsというWebサービスを利用して解析を行いました。 Cyclopsに関しては、私のてくらぼ連載での記事をご覧下さい。「パソナテックてくらぼ:インターネットって何だろう?:Cyclopsの仕組みを追う」。

まずは、whoisなどを利用してEMOBILEのAS番号を調べます。 すると、AS番号(ASN)が37903であることがわかります。 そのASN 37903をCyclopsに入力すると、EMOBILEが行っているAS接続はe-Accessだけであるという結果が出ます。 (去年の中旬まではKDDIとのピアもあったようですが、2009-07-13 10:00:26を最後に経路が届いていないように見えるため、今はKDDIとのピアは無くなっていると推測されます)

AS間接続の構造は、会社の構造そのものを反映することがよくありますが、この結果も非常に直感的です。 EMOBILEは、今年7月1日にe-Accessの完全子会社になります。 (参考:イー・アクセスによるイー・モバイルの株式交換による完全子会社化のお知らせ(PDF))

e-AccessのAS接続情報を調べる

さて、EMOBILEが全ての通信をe-Accessに依存している状況であると思われるデータがCyclopsから得られたので、次はe-AccessのAS間接続状況を調べます。 e-AccessのAS番号は9609なので、Cyclopsに9609を入れてみます。

すると、e-Accessは上流接続としては、KDDI、IIJ、NTTコミュニケーションズからのサービスを購入しているという結果が出ます。 また、ピアとしてHurricane Electric、ReTN.net、MFNX(Metromedia Fiber Network)、Flag Telecom、Pacnet Services、M-Root DNS、Reach Networksと接続し、 eMobile Ltdだけを下流に持っているASであるとCyclopsは解析しています。

これを図にすると以下のようになります。

このように、EMOBILEは全ての通信をe-Accessに依存する形ですが、逆に考えると、EMOBILEが大量のトラフィックを要求するとき、e-Accessが上位接続プロバイダへと支払わなければならない料金も増大します。 その料金をEMOBILEがe-Accessへと支払っているのではないかと思いますが、EMOBILEが大量にトラフィックを要求したときに、なんらかの支払いの流れがe-Accessと関連しそうな雰囲気を感じました。 このようなネットワークトポロジが、今回の帯域制限発表と何らかの関係があったのか無かったのかは知りません。

輻輳?

通信量を削減するという意味では21時から2時という時間が決まっていることに対しての説明が、自分の中ではっきりと作れなかったので、実はコストというよりも単純に混雑(輻輳)だったのかも知れません。

たとえば、EMOBILEはe-AccessとだけAS間接続を行っているため、この部分の回線が過度に混雑するとEMOBILEでの全ての通信に影響を与えそうです。

もしくは、e-Access側で接続している上位プロバイダと契約しているトランジットトラフィックを上限とした帯域を21時から2時の間は越えてしまって輻輳を発生せさているという可能性もありそうだと思いました。

それ以外にも、モバイル網内で21時から2時は輻輳が発生しやすい状況であるという可能性もありそうです。 要は、外部からでは良くわからないということですが、輻輳が原因の可能性もありそうだと思いました。 公開された情報のみから知れる範囲は、あまり多く無いということだろうと思います。

追記:「MNOであるe-mobileのMVNOには2種類があり、インターネット接続をe-mobileに頼るものと、MVNO側が独自に持つ物がありますが、今回はその両方のMVNOに制限がかかっていることから、この記事にようなASレベルの輻輳だけでは説明がつかない。」というご意見を頂きました。 たしかに、ここで書いた内容はASレベルだけで外部から見える話だけであり、今回の制限の推測としては力が非常に弱いと思いました。

e-AccessはGoogleとピアリングしてるっぽい

今回作成したAS接続図にGoogleを経由してのYouTubeへの経路情報も含めてみました。 これはCyclopsではなくtracerouteによって得られた情報です。 Twitter上でEMOBILEからYouTubeへのTracerouteを、EMOBILEユーザの方にお願いした結果、恐らくe-Accessは、EQUNIX(場所は平和島か品川?)にてGoogleと接続しているものと推測してみました。

この経路は、恐らくGoogleとe-Accessがプライベートにピアしているものであり、BGP上で広告されるものではないため、Cyclopsからは得られない情報です。 YouTubeへの経路は重要な要素となるため、Cyclopsを使う方法とは別に調査してみました。

太平洋を横断する国際線を利用するかしないかは非常に大きな要素だと思われます。 YouTubeを抱えるGoogleとe-Accessが国内でピアリングしているということは、恐らくYouTubeトラフィックを取得するためのトラフィックは「Googleの社内網」を通じて太平洋を越えてEMOBILEユーザへと届きます。

ビデオトラフィックの増加は、インターネット全体としてのトレンドですが(参考)、EMOBILEユーザの間でも良く利用されていると思われるYouTubeは、国際線を利用しないという意味ではe-Accessに優しいネットワーク設計になっている気がします。

YouTubeは痛くないけど、Ustreamは痛い?

ISPの収益問題に関しては2000年代前半から議論されているのですが、最近急激に話が動いたのはAT&Tの発表が背景にあります。 この変化は恐らくスマートフォンの登場によるところが大きいと思われますが、個人的にはスマートフォンだけではなく、Ustreamの流行も一因なのではないかと推測しています。

ビデオトラフィックの劇的な増加と言えば、YouTubeとUstreamが思いつきますが、両者は大きく性格が違う部分があります。 恐らく、日本のISPにとってはYouTubeの方がUstreamよりも「痛くない」のだろうと思います。

YouTubeはGoogleが運営しているということもあり、日本国内で非常に多くのISPとプライベートピアリングしている状態になっています。 世界全体の数パーセントのインターネットトラフィックを発生させていると言われているGoogleですが、Googleは恐らく唯一、アメリカからのデータが太平洋を渡って日本に来る時に社内網を使って転送されてくる組織だろうと推測しています。 このため、Google関連トラフィックに関しては、日本国内のISPは太平洋超えのトラフィック代を払う事無く捌けてそうです。

たとえば、EMOBILEへの回線提供をしているe-AccessとYouTubeやUstreamの関係を見ると以下のようになります。 YouTubeの場合は、Googleが太平洋超え部分を「社内網」で実現してしまいますが、Ustreamはe-Accessに対して何らかの形で太平洋超えの料金負担が発生するのではないかと推測しています。

追記:「太平洋超えをする」という表現をしてしまっていますが、恐らく実態としてはプライベートピアリングしているASに対しては日本に設置されたキャッシュを参照させているという形であり、実際にはパケットが毎回太平洋を越えているわけではなさそうだと推測しています。 Googleとのプライベートピアリングで太平洋超え料金発生を抑制できるという点には変わりはありませんが、パケットが行き来するかどうかという意味では、上記表現は正しくない気がします。

これは、Ustreamが悪いというよりは、Googleが凄過ぎるということだろうと思います。 ビデオトラフィックの扱いとして、こんなことが出来るのはGoogle以外に無いような気がします。

Ustreamは、複数のCDNをセッション毎に切り替えているのではないかと推測していますが、その切り替え方法によってはISPに「痛くない」セッションもありそうです。 たとえば、Akamaiが使われればUstreamのこの「痛さ」は大きく軽減されますが、現時点ではAkamai配信されるUstreamセッションは大規模なものに限定されているように思えます。

追記:あと、UstreamとYouTubeの大きな違いとして、主な用途がストリーミングとVoDであるという違いもあります。 この点も考慮が必要であると思われます。

現時点では、Ustreamは社会全体からすれば、まだニッチな存在と言えそうです。 たとえば、日本では、まだ一部のIT系ユーザが楽しんでいる初期状態に近いのではないでしょうか。 これが一気に流行したときに、モバイル端末やISPに与える影響は非常に大きそうです。 (厳密にはYouTube以外のアメリカ発動画サービス全般ですが)

追記:MVNO代金とIPトランジット代金を比べると、MVNO代金の方が10倍以上も高そうなので、ここで書いたようなIPトランジット料金は、モバイル事業者にとっては、実は要素としては非常に小さい気もしてきました。ちょっと、色々考え直します。

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