日本人は有名になることが怖いのだろうか?(and パラダイス鎖国を読んで)

2008/3/10

海部美知氏の「パラダイス鎖国」を献本して頂いて読み終わったところで、海部氏が 「Tech Mom from Silicon Valley:有名税と有名益」 という記事を書かれているのを見ました。

その中で、以下のように書いています。

しかし、本はもっと怖かった。 本を書くと、こうした同質コミュニティの安心感からさらに一歩外に出ることになる。 新聞や雑誌などの紙メディアに広告や書評が載ったり、ブログに縁のない人も私の本を読むだろう。 全く別の固定観念をもつ人が私の考えに憤ったり、的外れな方角から私を攻撃する人もいるかもしれない。 双方向でないので、反論もできないし、賛同者が援護射撃をしてくれることもない。

この感覚は非常に興味深いものでした。 私の感覚では、多くの人が全く逆の感覚を持っていると感じています。

本を書いたり、新聞に自分の顔が掲載されたり、雑誌の取材を受けたりすることを名誉と思う人は結構多いと思います。 実名で新聞に持論を投稿する人もいます。 また、どのような編集をされて、どのような範囲(地域)に対して放送されるかをあまり知らせてもらえないテレビのインタビューに平然と答えたり、「テレビカメラだ!」と思って顔を出しながらピースサインを出すような人も結構いると思います。 論文を投稿するときに「匿名投稿できないのは酷い」という意見を聞いたことがありませんし、オープンソースのメーリングリストでは普通に実名が流れています。

どんな記事を記者が想定しているか全く知らなくても嬉々として取材に応じる人であっても、「ネットに名前が出る」「ネットで実名を晒して書く」という事には恐怖を覚えると発言することが多いのが興味深いと、最近は思うようになりました。 「雑誌に載った!」と言うと「凄いね、どうしたの?」という返答が来て、「ネットに載った!」と言うと「大丈夫?怖くない?」と言われる事が多いのではないでしょうか。

これって、実は日本では「インターネット」という媒体のイメージが悪いだけなのではないでしょうか? 「有名になる事のデメリット」という議論では、一般的に実名/匿名という指標で物事が語られる事が多いのですが、何故か「インターネット上で」という前提のみが議論されている気がします。 実名/匿名議論の中で「論文を投稿すること」「本を書くこと」「雑誌の取材を受けること」「新聞に掲載されること」を含めて議論がされているってあまりありませんよね???(実はあるのかも知れませんが。。。)

インターネットに慣れている人にとっては、新聞や雑誌で掲載されようが、テレビに出ようが、Webに掲載されようが、違いは無いように思えるのかも知れません。 ですが、一般的には大きな隔たりがあるのかも知れません。 そう思うと、問題は「日本人特有の構造」というよりも「日本でのインターネットのイメージ」が大きいのではないかとも思います。 「インターネット」と言ったとき、非IT系の多くの人は例の某掲示板(しかも特定のネガティブスレッドのみ)をイメージしているのかも知れません。 しかも、恐怖は感じているが、実際には実物(某巨大掲示板)を見たことが無い人も実は多いと感じています。

10数年前は、今とは状況が違っていた気がします。 オンライン上で普通に実名で活動をしている人ばかりでしたし、メールアドレス(連絡先)なども普通に公開されていました (メールはSPAM問題などが絡んでいますが)。 日本では、どこかの時点で、何かがすれ違って行ってしまったのかも知れません。 日本特有の風土が関係ないとは思いませんが、実は「イメージ」が大きな要因ではないかとも思う今日この頃です。 (まあ、実名を晒す意味が全くない立場の人が非常に多い事も確かで、そのような方々にとっては実名/匿名議論自体がどうでも良いことだと思います。また、匿名も使い勝手が非常に良いので、匿名を使える状況は今後もずっと継続して欲しいものだと思います。)

海部氏の「同質のコミュニティ」という単語も非常に興味深いものでした。 これは、自分に同調してくれて、自分を理解してくれる、自分を中心とするコミュニティの形成に成功している事を表していると思います。 インターネットでは、情報発信に費用がかからないため、じっくりと時間をかけたパーソナルブランディングと、考えの合う人だけを引き付けるという「自分コミュニティ形成」が出来るということではないでしょうか。

何か問題が発生したときに炎上するのは、ブログも本も同じだと考えると、新聞/雑誌/本よりも自分で発信するブログは安全であるという理論も成り立つのかも知れませんね。 ただし、これには非常に高いハードルがあるかも知れません。 「仮想的に他人の心に成りすまして、自分の記事を推敲し直す能力がある人は」という条件です。 そう考えると、(普通は)編集者が変なハンドルの切り方をさせてくれない新聞/雑誌/本の方が「安全装置」があるという考え方もあるかも知れません。

パラダイス鎖国

海部氏の著書である「パラダイス鎖国」は非常に面白いとともに考えさせられる本でした。 日本が孤立していってるという仮説も非常に理論的に説明されていますし、それを裏付ける事例も色々ありました。

例えば、ポケモンがアメリカで大流行した要因にアメリカの法律が関連しているとは知りませんでした。

98〜99年ごろに突如として「ポケモン・ブーム」が起こった。 日本のアニメが以前からテレビ放映されていた、マンガも地道に販売されていた、などの下地はあったが、96年に地上波テレビ局にこども向け番組を週に3時間以上流すことを奨励する法律ができ、アニメの「特需」が起こったことが、そのきっかけとなった。

非常に面白い本でした。 ただ、本を読み終わってから少し暗い気分になれました。 「うーん。どうすれば良いんだろう。。。。」という感じの気分です。

最後の方に、多少方法論が書いてありましたが、現状の日本で書かれているような事を実践できるタイプの人は、既に色々やってる気がします。 そのようなタイプの人が大量にいるのであれば、そもそも鎖国状態にならないかも。。。いやいや、そんな弱音を吐いてはいけない。。。というような感じでした。

お会いした事はありませんが、以前からブログを拝読して「凄い人なんだろうなぁ」とは思っていましたが、今回の本を読んで「自分に厳しくて、実直で、意思が強くて、凄い人なんだろうなぁ」というようなイメージに変化してしまった一冊でした。 お仕事が国際的な携帯電話関連のコンサルタントという事もあって、恵まれた市場での「パラダイス鎖国」という問題意識がひときわ強いのだろうなぁとも思いました。

最後に

献本ありがとうございました。

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