Stop Motion Goggle (ストップモーションゴーグル)

2008/12/25-1

人間の視覚能力を向上させるStop Motion Goggle(もしくは SMG:Stop Motion Glasses)に関する論文の紹介です。 個人的には目から鱗で凄く面白い研究だと思いました。 慶應義塾大学大学院KMDの稲見研究室での研究です。

  • "Stop Motion Goggle:高速シャッターを用いた視知覚の拡張", 永谷 直久 フェビアン 古川 正紘 常盤 拓司 杉本 麻樹 稲見 昌彦, EC2008, 2008年10月
  • "Stop Motion Goggle", Naohisa Ngaya, Fabian Foo Chuan Siang, Masahiro Furukawa, Takuji Tokiwa, Maki Sugimoto, Masahiko Inami, SIGGRAPH2008, 2008年8月

Stop Motion Goggle
オペラグラス版

まずは概念

Stop Motion Goggleとは直接関係ありませんが、イメージをつかむためにとりあえず以下のYouTube画像をご覧下さい。 上部のプロペラが止まった状態で空を飛んでいるように見えます。

この映像は、ビデオカメラのフレームレートとプロペラの回転が完全に同期したためにプロペラが停止しているように見えています。 上手に瞬間を切り取って繋ぎ合わせると、このように物体が動いていないように見えてしまいます。

人間の視覚で「瞬間」を作る

人間の目から入る情報は連続的なものです。 物事には動きがあり、動きを予測したり速度を感じたりするために動いているものはボヤけて見えます。

カメラで撮影を行う時、露光時間が長いと動いているものはかすれて見えます。 そのため、シャッタースピードが早い方が動くものをくっきりと撮影しやすくなります(明るさや絞りなどの条件もありますが。。。)。

これを人間に置き換えたとき、人間は目を開けたまま物を見るので動いているものはくっきりと見えません。 ぼやけて見えます。 Stop Motion Goggleでは、強制的に露光時間を短くして動いているものをクッキリ見せようというコンセプトです。

以下、論文中で述べられている原理です。

 Stop Motion Goggle は高速で動作する液晶シャッターの開閉周期および開閉時間を 観察する動体の速度などにあわせて変化させるという単純な構成となっている.
 原理的には物体に瞬間的に光を照射するスト ロボスコープとは逆の方式と言えるが,ストロボ スコープは暗所でしか使用できないという点と 対象物体までの距離が照射する光の強さに依存するという欠点がある.

Stop Motion Goggleでは、シャッター開閉の周波数と開放時間が非常に重要な意味を持つようです。 例えば、25Hzと50Hzでは動く物体を認識する能力が変わるという結果が論文で紹介されています。 実験ではランドルト環(目を片方閉じて上下右左と言うアレです)を水平方向に回転させて、被験者の正答率を計測していました。 実験結果から、低周波数で開放時間が短い方が正答率が上昇すると述べられていました。 (ただし、見やすくなる値に関しては個人差があるようです)

装置

DISPLAYTECH 社の強誘電性液晶(FLC: ferro-electric liquid crystal)LV2500P-OEMを高速シャッターとして利用しています。

以下、FLC(LV2500P-OEM)の仕様です。

コントラスト比1000:1 (500:1 以上 温度補償)
応答時間70-160μs
形状円形
サイズ直径 34mm

出来ること

動いているものをよりクッキリと見えるようになります。 動いているボールの表面がクッキリ見えたり、動いている車の車体に書いてあるものがクッキリ見えるようになりそうです。

論文中では応用例として以下のような写真が掲載されていました。 なお、この機器は中古を購入して自室にて行っているようです。 営業している場所でStop Motion Goggleを使うと体感機と同じような扱いになるだろう思われます。



なお、スロットを自在に止めれるようになるにはある程度の訓練が必要とのことでした。 逆に言うと訓練をすれば出来るようになるということだろうと思います。 また、機種によってはストップする前にランダムな要素が入り込むものもあり、そのようなものでは確実に当てられるようにはならないだろうとのことでした。

しかし、クッキリ見るというのは動きを予測するという機能とのトレードオフなので、動きに対する予測能力は低くなると思いました。 そのため、Stop Motion Goggleを使っても宮本武蔵のように蝿を箸でつかんだりは出来ないのかも知れません。 (箸でつかんだ話が真実かどうかは残念ながら知りません。)

経緯

慶應義塾大学大学院KMDの稲見昌彦教授にお会いする機会があり、研究内容を教えていただきました。 2時間半に渡り様々な研究実績や現在行われている研究を教えて頂きました。 理解出来なかった部分も多く、自分の勉強不足を実感してしまった面もあります。

今回は、最近のお勧めということでストップモーションゴーグルにフォーカスした記事を書いてみました。 まだ発表できない現在進行形で面白い内容も数多くあったため、今後OKが出た時点でまた記事を書くかも知れません。

稲見先生ありがとうございました!

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