ラムダノート社で「プロフェッショナルIPv6」を執筆した理由

2018/8/9-3

個人的には、拙著「プロフェッショナルIPv6」は、世界で最も詳しくて読みやすいIPv6解説本だと考えています。 450ページを超えるコンテンツを全部タダで読めるというのも大きな特徴です。

このような「プロフェッショナルIPv6」の企画は、ラムダノート社でしか実現できなかったと私は考えています。 いまでこそ、ラムダノート社は複数のIT技術書を出版する出版社ですが、IPv6本の企画が開始した段階では、ラムダノート社は、まだ一冊も出していない状態でした。 それでも、私はラムダノート社でIPv6本を出したかったのです。

鹿野さんが経緯を紹介している通り、クラウドファンディングでIPv6本を作ろうと考えて、鹿野さんに声をかけました。

鹿野さんに声をかけた理由は主に2つです。

ひとつめは、クラウドファンディングで書籍を作り、電子版を無償配布するという企画を既存の出版社で実現するのは困難だと思った一方で、鹿野さんが立ち上げた出版社であれば、こういったチャレンジが可能だろうという点です。

IPv6という技術は、出版市場全体から見ると非常にニッチな存在です。 今回、有償版と全く同じコンテンツでの無償配布でしたが、公開から1ヶ月が経過した段階でダウンロード数は2.2万回ぐらいしかないのです。 無償で配布したとしても、それぐらいなので、通常の書籍として販売しても、おそらくそこまで多くは売れません。 IPv6本の企画当初の考え方としては、通常の出版をしたとしても、初版3000部が全部売り切れるかどうか微妙だと個人的には考えていました。 一般的な技術書というのは価格の10%前後が相場で、3000部ぐらいの印税を想定すると、著者として得られる金額は多くはありません。

そして、今後のインターネットのことを考えると、IPv6という技術について知っている人が多い方が良いと私は考えていました。 IPv6という特殊な状況が存在しているIT技術を解説する本だからこそ無償配布に意味があります。 通常の形で出版を行い、世の中全体から見るとニッチな一部の人々のみが読む書籍になるよりも、興味がある人が誰でも読める形での出版ができた方が良いのではないかと思うようになったのです。 どうせあまり多くの利益を得られないのであれば、無償で配ってしまえ、という発想です。

しかし、そういった利益度外視な考え方を出版社に求めるわけにはいきません。 編集等の作業にも工数はかかりますし、もちろん製本や配送にもお金がかかります。 そのため、出版社としては、ちゃんと仕事として採算が取れる状態でIPv6本に関わって欲しかったのです。 そこでクラウドファンディングを活用することを計画し、鹿野さんに相談したのです。

ふたつめは、私が作りたいIPv6本の編集ができるのは、たぶん、世界で鹿野さんだけだろうと思ったという理由です。 IPv6という技術をとりまく特殊な状況ゆえに、その本に含む内容には細心な注意が必要なのです。

フリーランスになってから、IT系の文章を書くことが多くなり、様々な媒体の編集者の方々とのやり取りを経験しました。 IPv6本は私が関わった7冊目の本ですし、様々な雑誌やオンライン媒体で記事も書いてきました。

幸いなことに、私がいままでお仕事を一緒にさせていただいた編集者の方々は、本当に優秀な方々です。 しかし、ひとことで「編集者」と表現するのが難しいぐらい、みなさま個性があるのです。 仕事の進め方も様々ですし、私が書いた原稿に対してどれだけ意見をぶつけてくるのか、議論をするのかしないのか、私の間違いを発見して指摘してくれるのかどうかなど、本当に様々です。

鹿野さんは、技術的な正しさや、説明の美しさなど、書籍そのものに含まれるクオリティに重きを置くタイプの編集者です。 多少採算度外視になったとしても、文章を推敲してしまうという点は、私と傾向が似ているのかも知れません。 私は、文章を書くのに恐ろしく時間を使ってしまいます。 書いては調べ、調べては書いてを繰り返しつつ、途中でハマって悩んで、やっぱり大きく構成を変えたりします。 そういったときに、あーでもない、こーでもないと一緒に相談できる心強い編集者が鹿野さんなのです。

編集者というよりも、多少共著者に近いのではないかとも言える鹿野さんの方式が、編集者として正しいのかどうかという議論はあるとは思いますが、私は好きなので(笑。 IPv6という技術の本を作るのであれば、やっぱり鹿野さんと一緒に書きたかったのです。

編集者というよりも、IT技術者的な要素の方が強い鹿野さんは、「あるべき論」というか、各所での美意識が私と似ているという要素もあるような気がしています。 ラムダノート社のプロフェッショナルIPv6販売ページの最初に、非常に目立つ形で、無償配布をしているので買う必要は必ずしもないということがわかるようになっています。 普通は、販売ページに無償版もあることを大々的には書きません。 でも、読者の方々のことを考えると、そこは読者の方々が読むだけであればお金を払う必要が必ずしもないと理解したうで、各自の意思で支払えるようにした方が良いという美意識があるのです。

「すごい技術書を一緒に作ろう。」というクラウドファンディングプロジェクトの表現は、鹿野さんが考えたものです。 「すごい」と自分で表現することには、最初は戸惑いもありましたが、最終的には「すごい」という表現に恥じない品質の書籍が完成させることができてよかったです。

私がIPv6本の相談をした段階では、ラムダノート社は一冊も本を出していない状態でしたが、いまでは様々なガチの良書を出版しています。 ラムダノート社は、今後も有用な本を出版し続けると思うので、みんなで買い支えましょう。 私も何冊か同社の本を購入しています。

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