「ひとりで何でもできるエンジニア」と時代背景

   このエントリをはてなブックマークに登録    2017/7/13-2

インターネットそのものが「新しいもの」であったころは、インターネットそのものとともにITエンジニアが成長できました。未踏な領域に踏み込む冒険心をくすぐられるミッションが、そこら中に転がっていました。「できなくてツラい」と苦しみつつも、マゾ的に心を踊らせチャレンジする環境がありました。

インターネットを利用することが珍しいことではなくなり、インターネットを活用したビジネスを実現するためのエンジニアリングの分業化も進みました。それに伴い、IT系エンジニアに求められる技能が細分化しており、「必要に応じて全部やる」ことが求められない環境も非常に多くなっています。

そういった環境の変化もあり、「昔と違って何でもできる人は育ちにくくなっている」という感想を持っている人も結構多い印象です。私の周りで「ひとりで何でもできるんじゃないかと思えるほど守備範囲が広いエンジニア」と私が思う凄い人々は、インターネットとともに成長を続けることができた40代周辺から50代周辺の人々が多いです。

昔と同じような「凄いITエンジニア」は育つのか?

では、今後は同じような「凄いITエンジニア」は育たないのか、というと、私の感想としては、そうであると思う部分と、そうではないと思う部分が同居しています。

まず「育ちにくい」と思う理由としては、いまの30代中盤から50代ぐらいのITエンジニアと同じような経験をするのは不可能であるという点があげられます。 インターネットが存在していて当たり前の世代にとっては、インターネットに繋がって情報を得られることに対する感動であったり、情報が公開されているという事実に対する感動を肌で感じるのは難しいと思います。 環境が違うので、興味を持つ技術が違うのです。

さらに、昔と違って今は既にある程度発展したものから「入門」する必要があり、他への応用をしやすい基礎的な技術というよりも、既存ソフトウェアの利用方法を学ぶような方向性が増えてきています。 「そんなの単にソフトウェアの使い方だけじゃないか」と批判的な意見を言う人に出会うこともあります。

とはいえ、昔の知識が全て大事かというと、そうとも言えないことも多いです。いまとなっては使わなくなった「無駄な知識」というものも大量にあるわけで、本当に「同じようなスキルセットを持つ人」が必要なのかという話もあります。

時代に合った「凄いITエンジニア」が勝手に育つ?

昔と同じような「凄いITエンジニア」が育つことは少ないと思うものの、その時代背景に沿った「凄いITエンジニア」というのは、いつの時代であっても「勝手に育つ」ものだと私は考えています。

「すごく優秀だし、自分で興味を持って勉強する資質があるな」と思える20代前半の学生に出会うことがありますが、私が20代の頃と比べると、その知識の深さと幅広さは凄いといつも思います(私がダメだったという噂もありますが)。

「何でもできる」で求める技術も意味合いも、その表現をする人によって大きく異なります。 そして、「何でもできる」という表現が示すものも、時代とともに変化するのです。 たとえば、ITそのものよりもITを活用する方法が必要になっていき、情報発信や宣伝、法律、経営、などのITの技術とは直接は関係がないノウハウが求められることもあるかも知れません。 ソフトウェアエンジニアだったのに、IoTやmakersというトレンドに伴ってハードウェアの知識を求められるようになることもあるかも知れません。

「何でもできるITエンジニア」は、目指すだけ損かも

「フルスタックエンジニア」や「何でもできるITエンジニア」という表現がネットで登場すると、それに対して否定的な意見が多く出ます。

そもそも、既存技術を全て網羅して「何でもできる」というのが不可能であるという話もありますが、そういった能力を獲得しても他人の得になるだけであり、本人は損するだけという状況が発生しがちだという理由もありそうです。

昔と少し時代背景が違うという要因もありそうです。 あらゆるビジネスにとってITが必要不可欠になりつつあるため、「何でもできるITエンジニア」を求める人々が昔よりも大幅に増えています。

複数の分野をカバーするために、複数の専門家を同時に雇うだけのお金をかけたくないというモチベーションとして、「何でもできるITエンジニア」を雇いたいという安易な発想も昔よりも増えている印象で、「安く働いてくれるけど能力が凄く高い人」を求めているだけだったりもするのです。 「ひとりで何でもできる」というのは「お金を出したくないのでひとりでやってくれると都合が良い」と考えているだけだろうと、突っ込みたくなるわけです。

色々できればできたとしても、さほど感謝されないという悲しい状況が発生することもありがちです。ITを全く知らない人にとっては、ITの中で枝分かれする専門分野を知らないので、そもそもIT関連のことは全て知っていて欲しいと思うわけで、「ひとりで何でもできる」という発想を持たずに、「ITエンジニアだったら全部できるよね」ぐらいの無茶を言うこともあります。

とはいえ、ひとりで何でもできるエンジニア」は勝手に育つ、で書いたように、やっぱり、狙ってそうなるというよりも、勝手にそうなっちゃう人ってだけだと思うので、本人は損得で考えて行動しているわけではないのかもとは思います。ワクワク感があれば勝手に行動しちゃう人もいるので。

注意が必要なのは、ワクワクするのかどうかは、雇う側が判断することではなく、本人が主体的に感じるかどうかというのも大事である点です。 「ほらワクワクするだろう」と押し付けるのは単なるブラックです。

ワクワクできる「何か」であるかどうかは、時代背景にも大きく依存します。 個人的な感想としては、時代背景だけではなく、そのエンジニアがおかれている状況も関係がありそうです。 自分のことだけを考えば良い独身時代と、結婚して家族を養う必要がある状況では、価値観が変わるものです。

もう一点、「何でもできるITエンジニア」が損だと思う点が、その方向に行くと「器用貧乏」といった状態になりがちであると同時に、求められがちな環境が限定的かも知れないと思うことです。 会社の規模が大きくなると、必要とされるのは「ひとりで何でもできる」ことではなく、各分野のスペシャリストがチームとして動くことなので、「何でもできる」タイプの人が望まない場合も多そうです。 スタートアップ時点では重宝されたITエンジニアが、会社の規模が大きくなると煙たがられるというのも良く聞く話です。

さいごに

ITエンジニア側の発想としては、高い評価と高い金銭的対価を受け取りつつ、興味のおもむくままに色々と勉強し続けられたら嬉しいと思う気がします。

雇う側は「できるだけ安く能力を高い人を雇いたい」と思う一方で、雇われる側は「できるだけ楽しいおもいをしながら高い報酬が欲しい」と思うわけです。その綱引きがどうなるのかは、各個人の「交渉力」であったり「営業力」であったり「セルフプロモーション能力」といった、ITとは別の能力も必要そうだというのが最近の感想です。

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