半数が女性 マレーシアの情報科学科に関する論文

2012/8/16-1

主にプログラマやシステムエンジニアを想定して「IT業界は女性エンジニアが少ない」という話題が登場しますが、マレーシアでは女性ITエンジニアが非常に多く、大学の情報科学科の半数が女性であるという論文があります。 タイトルが「サイバーフェミニストのユートピア?」となっています。

情報科学科に女性が多い理由

この論文によると、マレーシアの女性エンジニアが多い背景として、マレーシア政府がICTを推進していることや、親が男女両方の子供に教育を受けさせることをあげています。 さらに、ICT分野は職につきやすく、安全で快適な職場が多いことも理由としてあげられています。

なぜ情報科学科に進学したのかに関する調査では、コンピュータが非常に好きだと答えた女子大生がいたとしつつも、多くの女子大生は良い職につきやすいことや親に強く勧められたことをあげたとあります。

たとえば、獣医になろうと思って親に相談したら、ICT分野に進むことを父親に強く説得されたという事例が紹介されています。 多くのインタビューで、娘をICT分野へ進むように勧めたのは父親だったようです。 小さな村に住む家族全体の収入を増やして親と同じような生活をしなくても済むようにするために、無事に大学院を卒業してICT系の職に就くことへのプレッシャーを感じると答えた女子大生も紹介されています。

マレーシアの情報科学科における男女の違い

西側諸国での研究では、コンピュータサイエンス全般が「男性的(masculine)」とされる一方で、マレーシアではコンピュータサイエンスを男性的ではないという意見が多かったと論文にあります。

論文では、「男性的」な仕事というのは太陽の下で働くような仕事で、室内でのオフィスワークを主とするコンピュータはむしろ「女性的」とされているとあります。 コンピュータサイエンスが女性向きとされる一方で、男性向きとされるものの例として出ていたのが、電子回路などの物理的な工作が伴うものなどでした。 建物を建築するときに外で仕事をすることもあるためという話も掲載されています。 その他、女子大生による「女の子はソフトウェア工学を好むけど、男の子はネットワークを好む」とか「ネットワーク部門は男性に支配されている」という意見もありました。

一方で、「プログラミングは何故か男子生徒の方が覚えるのが早く、女子生徒は理解するのに時間をかけて勉強している」という意見も紹介されています。

「マレーシアはサイバーフェミニズムのユートビアではない」

論文のまとめは、「マレーシアはサイバーフェミニズムのユートビアではない (Perhaps not surprisingly, Malaysia was not a cyberfeminist utopia.)」という文章から始まっています。

そこでは、経済的な理由や、家族の期待に応えることへのプレッシャーなどが紹介されています。 結婚し、子供を産みつつもキャリアを継続するという西側諸国同様の話題も語られているとあります。

インタビュー時に女子大生側からコンピュータサイエンスとジェンダーに関する話題が自発的に出ることはなかったことも重要な要素であったとあります。 聞かれれば積極的に色々と話が出てきたそうですが、西側諸国での研究で言われている内容と異なっていたと書かれています。 コンピュータサイエンスは女性向きであるとされ、男性的とされたのが電気やメカ系の物理的なものでした。

最後に、この論文では「コンピュータは男性的であり、女性がコンピュータを避ける」という先入観を西側諸国の研究が造り上げてしまっている可能性もあるのではないか、と問題提起をして終わっています。

この論文について

この論文は、2008年に発表されたものですが、調査が行われたのは2001年です。 著者はマレーシアにある大学に所属しているわけではなく、ノルウェイ科学技術大学(Norwegian University of Science and Technology)の人です。

内容としてはThe Faculty of Computer Science and Information Technology (FSKTM)で20人の女子大生へのインタビューでした。 11人が学部生で、9人が大学院生です。 「たった20人への聞き取りで論文としてOKなんだ。。。」という気もしなくはないのですが、論文誌にacceptされているようなので、そういうものみたいです。

感想

IT分野と女性というテーマの論文を読むと、多くの論文が能力としては男女に差は無いと論じています(主に男女という性別ではなく女性的/男性的と分類されて論じられています)。

マレーシアに関する論文を読んで、「それを学ぶ理由が明確であること」も非常に大きな意味を持つと思った今日この頃です。

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