ネットデマやステマは病原菌

   このエントリをはてなブックマークに登録    2012/1/6-1
銃・病原菌・鉄 - 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎

ネットにおけるデマやステルスマーケティングは病原菌と同じだというのが最近の私の考えです。 ただし、私が言いたいのは「病原菌のようにひどいものだ」というのではなく、「病原菌と同様に対応できるかどうかが人類にとって大きな意味を持つ」という感想です。 有名な「銃・病原菌・鉄 - 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎」という本で語られている「病原菌」と同じようなニュアンスの「病原菌」です。

ネット界隈の情報をある程度の期間追っていると「嘘を嘘と見抜けない人には難しい」という有名なフレーズに良く出会います。 このような「ネット情報に対する免疫」がないと、いざというときにコロっと騙されてしまうのが、今のネットです。

今後、「ネット情報に対する免疫」を十分に獲得できなかった国民の多い国が荒れることが増えそうな予感がしています。

これからのネットは大規模情報操作が増えそう

最近話題になっているのは、ネットクチコミにおけるステルスマーケティングですが(昨日の記事)、宣伝以外の部分での情報操作も今後は増えて行きそうだと感じています。

昨年8月、米国国防総省(ペンタゴン)がソーシャルメディアのスペシャリストを募集しているという記事がNew York Timesに掲載されました(参考:「戦場」としてのソーシャルメディア)。 ソーシャルメディア等を利用したネット上での情報操作を本気でやる準備をしている、もしくは既に開始しているのかも知れません。

New York Times記事の最後の方に以下のような内容が書かれています。

All of this cyberwarfare will, of course, make it even less clear what is real and what is synthetic on the Internet, but that is not the military’s problem and was possibly inevitable anyway.

(訳) このようなサイバー戦場は、何が本当の話で、何が人為的な作り話なのかわからなくさせる。 しかし、これは軍によって引き起こされている問題ではなく、どちらにせよ避ける事はできない。

2011年は、チュニジア、エジプト、リビアなど中東での政権崩壊インターネットと結びつけて語れることが多くありました。 2011年後半は、ロシアでのデモとインターネットが結びつけて語られていました。

そのような傾向の例として、昨日、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が「インターネットは民主主義をエジプトやロシアにもたらしている」と発言しています(SOPAに対する反対意見を述べる中で例として)。

「ネットでそういうことが起きた」という認識をしていれば、「そういう状況を人為的に作りたい」という考えは当然うかびそうです。 さらに、匿名や偽名や仮名で国境を越えて書き込みを行えて、かつ、それで大衆を扇動できる可能性があるツールが存在していることを知っていれば、それを積極的に利用しようと思う人々が世界中で登場するのは自然な話だと思います。

「銃・病原菌・鉄」における「病原菌」

「銃・病原菌・鉄」は、世界の地域間格差を産み出したものは何かを語っている本です。 そこでの主張は、銃と病原菌と鉄が大きな役割を果たしたというものです。 大まかに言うと、狩猟ではなく農耕が開始され、人口密度が上昇するとともに職業の分担によって技術が発達し、家畜の近くで暮らすことで病原菌が発生しつつそれに対する免疫をつけた地域の人々と、そうでなかった人々の間で地域格差ができていったという話です。

その「病原菌」の部分ですが、以下のような文章が、第4章「食料生産と征服戦争」の「病原菌と征服戦争」という節にあります。

征服戦争において馬と同じく重要だったのは、家畜から人間にうつった病原菌の果たした役割である。天然痘、麻疹(はしか)、インフルエンザなどの伝染病は、人間だけが疾患する病原菌によって引き起こされるが、これらの病原菌は動物に感染した病原菌の突然変異種である(第11章を参照)。 家畜を持った人びとは、新しく生まれた病原菌の最初の犠牲者となったものの、時間の経過とともに、これらの病原菌に対する抵抗力をしだいに身につけていった。すでに免疫を有する人びとが、それらの病原菌にまったくさらされたことのなかった人びとと接触したとき、疫病が大流行し、ひどいときには後者の九九パーセントが死亡している。 このように、もともと家畜から人間にうつった病原菌は、ヨーロッパ人が南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸、南アフリカ、そして太平洋諸島の先住民を征服するうえで、決定的な役割を果たしたのである。
上巻 p.131より

免疫をつける必要がある、もしくは免疫をつける競争になっているのかも知れないという点と、デマが人から人へと伝わって行くという部分が病原菌と同様なのではないかと私が考えるところです。

さらに、ネットデマやステルスマーケティングなどへの免疫の話という意味では、国民のウブさ、もしくは騙されやすさという視点も「病原菌」同様に重要だと思われます。 性悪説に基づいて、ネット上で人々がどのように行動するのかに関する経験は恐らく非常に大事です。

「銃・病原菌・鉄」では、スペイン人のピサロがインカ帝国の皇帝アタワルパを騙して捕虜にしたうえ、身代金として財宝を奪ったうえで、最終的に皇帝が殺されてしまう話が紹介されています。 アメリカ先住民の指導者たちが騙された理由に関しては、以下のように書かれています。

ありふれた言い方になるが、アタワルやチャルクチマ、そしてモンテスマをはじめとする数多くのアメリカ先住民の指導者たちがヨーロッパ人にだまされてしまったのは、スペイン人に関する詳細な情報を得ることができなかったからである。スペイン人が新大陸にやってくるまで、新世界から旧世界を訪れた者が一人もおらず、そのためヨーロッパ人に関する詳細な情報を得ることができなかったのである。そうした事情を充分考慮に入れても、われわれの結論は、もしアタワルパの属していた社会がもっとさまざまな人間の行動パターンというものを経験していたなら、アタワルパはピサロ側をもう少し疑ってかかっていた「はずだ」ということにならざるをえない。
上巻 p.118より

「銃・病原菌・鉄」では、平和主義者が滅ぼされてしまった事例も紹介されています。

一八三五年十一月十九日、ニュージーランドの東五〇〇マイル(約八〇〇キロ)のところにあるチャタム諸島に、銃や棍棒、斧で武装したマオリ族五〇〇人が突然、舟で現れた。十二月五日には、さらに四〇〇人がやってきた。彼らは「モリオリ族はもはやわれわれの奴 隷であり、抵抗する者は殺す」と告げながら集落の中を歩きまわった。数のうえで二対一とまさっていたモリオリ族は、抵抗すれば勝てたかも知れない。しかし彼らは、もめごとはおだやかな方法で解決するという伝統にのっとって会合を開き、抵抗しないことを決め、友好関係と資源の分かち合いを基本とする和平案をマオリ族に対して申し出ることにした。
しかしマオリ族は、モリオリ族がその申し出を伝える前に、大挙して彼らを襲い、数日のうちに数百人を殺し、その多くを食べてしまった。
上巻 p.118より

これらをネットに置き換えて考えると、「明るいネットの未来を楽観主義的に信じていたら、やりたい放題の人々に駆逐されてしまった」というような感じになるのかも知れません。

なので、ぐちゃぐちゃに荒れまくって、荒んだ書き込みなどが大量にあり、「便所の落書き」と言われながらもネット上で人々が騙し合うという現場を充分に経験することで「疑う」という能力を身につけることは非常に大事なのだろうと私は思います。 全員が礼儀正しく、誰も嘘をつかず、騙されたり釣られたりすることが一度も無いようなネット経験しか持たない人々が大量に存在する状態は、実は逆に非常に危険であるという感想を持っています。

「ネット書き込み」だけの話じゃないよね

このような「嘘を嘘と見抜けない人には難しい」という話は、ネット上における無数の書き込みに限った話ではないというのが私の考えです。 たとえば、雑誌や書籍での記事広告や、テレビ番組の途中で不自然な紹介のされかたをしているお店や商品があります。

検索エンジンに登場する順位を外部から人為的に操作することを狙ったSEOや、フィッシング詐欺なども同様の傾向があると思います。 その他、関連しそうなところとしては、CAが乗っ取られて偽のSSL証明書が発行されるという騒ぎも去年ありました(イランからGoogleへのSSL通信が傍受されていた疑い。CAから発行された偽証明書が原因)。

デマやステルスマーケティング的な宣伝というのは元々世間に溢れているものだろうと思いますが、「ネットの嘘を見抜く」という流れから、全体的に嘘を見抜く必要性が着目されれば最近は思います。

免疫のつけかたは国によって違いそう

「嘘を嘘と見抜く」というネットリテラシを多くのネットユーザが獲得するのが非常に大事だと思う一方で、インターネット普及率やネットコミュニケーション習熟度が国によって大きく異なるという現状があります。

日本は、インターネットインフラ整備という面では、恐らく世界で一位から三位ぐらいの位置づけにいます。 そういった背景もあり、ネットコミュニケーションという意味でも恐らく「先進国」だろうと個人的に思います(アメリカで日本でのネットコミュニケーション論の周回遅れぐらいの話題が盛り上がるのを見る事も多いので)。 そのような背景もあるので、もしかしたら、ネットユーザのリテラシ向上で「ネットの嘘への免疫」が得られる可能性もありそうだと思う事もあります。

逆に、インターネット普及率が低く、ネットコミュニケーションに慣れていない人々が多い国では、何らかのネット表現規制を行う方向へと追い込まれて、さらにネットリテラシが育たないという悪循環へと向かって行きそうな気がします。

ネットユーザの全体的なリテラシ向上によって免疫をつけるのか、それとも各種ネット規制を構築して免疫をつけるのか、国によって対応が違いそうだと思う今日この頃です。

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コメント

Ken
話はちょっとズレますが、1990年代に市場経済に移行したアルバニアが国全体でねずみ講にはまり破綻した事件を思い出しました。あの時は人々が市場経済を理解する前にねずみ講という菌が広まってしまった様相でした。
マキャベリ的知性仮説ってやつでしょうか


あきみち

アカマイ 知られざるインターネットの巨人

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