チュニジアの政権崩壊とインターネット

2011/1/17-1

チュニジアで23年間続いたベンアリ(Zine el Abidine ben Ali)大統領による政権が崩壊しました。 チュニジアが「インターネットの敵」と名指しされるほどネット検閲が行われている国であることのあり、ここ1ヶ月ぐらい、Twitterや海外の技術系ブログでチュニジアの話題が散見されました。

様々なニュースでTwitter、YouTube、Facebookなどのソーシャルメディアの存在が言及されていますが、「ソーシャルメディアやインターネットが果たした役割は、どれぐらいだったのだろう?」という点に興味を持ったので調べてみました。

チュニジアでのインターネット普及率

まず、最初にチュニジアのインターネットについてです。 インターネットそのものは世界全体で繋がっていますが、普及率や運用方法は国毎に大きく異なっているため、同じインターネットでも「どこのインターネットなのか?」が非常に重要です。 インターネットそのものが繋がり合っているからといって、世界中のユーザが今の日本と同じ環境や使い方をしているわけではありません。

まずは、internetworldstatsに掲載されているチュニジアのインターネット普及率を見ます。 チュニジアがあるアフリカ大陸は、最もインターネットが普及していない地域です。 普及率がアフリカ内で高い国であっても30%台で、多くの国が数パーセントとなっています。 低い国では、1%未満です。

そのような中で、チュニジアのインターネット普及率は34.0%と、アフリカ大陸の中では高いほうとなります。 人口約1000万のチュニジアで、インターネットユーザは約360万人であると試算されています。

さらに、最近はinternetworldstatsでfacebookユーザ率も掲載されています。 そこでは、人口の15.8%がfacebookユーザであるとの試算結果が掲載されています(恐らくユーザ数を基にした試算なので、重複アカウントなどを考慮すると実際にはもうちょっと低そうな気がしますが)。

「インターネットの敵」

チュニジアは、非常に厳しいネット検閲の国としても知られています。 国境なき記者団が、「インターネットの敵」を列挙した報告書を出していますが、その中でチュニジアも「インターネットの敵」とされています。

国境なき記者団によると、チュニジアでは、URLやキーワードによるブロッキングが行われています。 メールやWeb閲覧の内容は全て監視され、ネットカフェでもユーザ確認が行われます。 メールが遮断され、届かない場合もあるようです。 ジャーナリストやブロガーが投獄され、海外にあるチュニジア政府に対して批判的なサイトが侵入されたりDDoS攻撃を受けたりしたことも記述されています。

国境なき記者団のサイトで、チュニジアの平均給与とインターネットカフェでの1時間あたりの料金が掲載されています。 平均給与が424米ドル、ネットカフェ利用料金が1時間あたり0.68〜1.37米ドルのようです。

さらに、Facebookへのブロッキングに関しても言及があります。 2008年8月に、一時Facebookがブロックされたようです。 しかし、富裕層と先進的な若者や政治に近い人々がそれらを日常的に利用していたため、大きな反発があり、大統領がブロックの除去を命じたとされています。

Anonymousによる活動

今回、チュニジア政府に対して「Anonymous」が攻撃を仕掛けていました。 攻撃だけではなく、Torをゲートウェイとして設定してチュニジアの人々が、チュニジア国内のネット検閲を越えやすくする活動も行われていました。

「Anonymous」によるWikiLeaksに関連する報復攻撃は「Operation Payback」の一部でしたが、今回は「Operation Tunisia」という名前がついていました(本件とは直接関係ありませんが、チュニジアに関するAnonymousの動画内に、中国天安門事件の「戦車の男」の動画が含まれており、ナレーションに「スペイン、フランス、ハンガリー、中国、ベラルーシ、アメリカにも注目している」とあります)。

ANONYMOUS - OPERATION TUNISIA - A Press Release (1月5日)

「Anonymous」は、チュニジア政府サイトを攻撃すると同時に、チュニジア政府がGmail、Yahoo、Facebookなどへのログイン情報を盗むJavaScriptコードを途中経路で注入していることを突き止め、それらを回避する方法を説明した文書の作成や、不正なJavaScriptコードを取り除くGreaseMonkeyスクリプトを提供しました。 さらに、Torの設定方法の解説や、Torゲートウェイとして活動に協力するように世界中のネットユーザに呼びかける活動も行われました。

ブロガーの逮捕

GAWKERに、2011年1月初めにチュニジア国内でブロガーやYouTubeに動画を投稿したラッパーが逮捕されたという記事があります

さらに、GAWKERでは、ブロガーやラッパーの逮捕は、Anonymousによるチュニジア政府への攻撃への報復であったと記述されています。

Don't forget about rappers who make viral videos and bloggers. The government arrested a bunch of them in retaliation for Anonymous' retaliation.

Foursquare経由で逮捕を確認

Foursquareに送られていたブロガーの携帯電話が示す位置情報がチュニジア政府の建物であったことから、連絡が途絶えたチュニジアのブロガーが逮捕されたとしているとしたGlobal Voicesの記事もありました。

1月7日に投稿されたこの記事は、本人が語れない状態にありつつもソーシャルメディアが状況を伝えたという事例と言えそうです。

WikiLeaksで2010年12月に公開された機密文書

12月にWikiLeaksで公開された機密文書も話題になりました。

WikiLeaksで公開されている機密情報の概要には以下のような文章が含まれています。

According to Transparency International's annual survey and Embassy contacts' observations, corruption in Tunisia is getting worse. Whether it's cash, services, land, property, or yes, even your yacht, President Ben Ali's family is rumored to covet it and reportedly gets what it wants. Beyond the stories of the First Family's shady dealings, Tunisians report encountering low-level corruption as well in interactions with the police, customs, and a variety of government ministries.

噂であるとされつつも、その内容は、大統領一族が自分達の欲しいものは何でも手に入れてしまうというものです。

さらに、本文中「6. Yacht Wanted」で、2006年に大統領の甥がフランス人ビジネスマンのヨットを盗んだ話がかかれています。 WikiLeaksによると、ヨット窃盗に関しては2008年前半に明るみに出たそうです。

「テクノユートピア思想になるな」

政権崩壊後に、TwitterやFacebookがデモに活用されていたことから「これはTwitterによる革命だ!」とか「Facebookによる革命だ!」とか「WikiLeaksが世界を変えている!」という論調の記事が色々と出て来ています。

それに対して「冷静になろうよ」というようなことを言っている記事もあります。

GigaOM(Was What Happened in Tunisia a Twitter Revolution?)では、以下のような意見が紹介されています。

"Don’t get all techno-utopian. Twitter’s great for spreading news, but this revolution happened offline"
意訳:テクノユートピア思想になり過ぎちゃ駄目。Twitterはニュースを拡散するには最高だけど、この革命はオフラインで発生している。

"like asking was the French Revolution a printing press revolution?"
意訳:フランス革命が印刷革命だと主張するようなもの?

さらに、GigaOMでは以下のように述べています。

So was what happened in Tunisia a Twitter revolution? Not any more than what happened in Poland in 1989 was a telephone revolution. But the reality of modern media is that Twitter and Facebook and other social-media tools can be incredibly useful for spreading the news about revolutions
意訳:チュニジアの件はTwitter革命だったのだろうか? 1989年のポーランドでの革命が電話での革命だったと言うのと変わらないのかも知れない。 ただし、モダンメディアの真実はTwitterやFacebookや、その他のソーシャルメディアツールは革命に関するニュースを拡散するのには非常に便利であるということだ。

「革命を実行したのは人々であってソーシャルメディアではない」

Los Angeles Timesにも、似たような意見が掲載されています。

Laila Lalami, a Moroccan writer based in Los Angeles, wrote on Twitter, "Please stop trying to give credit to WikiLeaks, or Twitter, or YouTube for the toppling of Ben Ali. The Tunisian people did it."
Later, she tweeted, "The Internet facilitates communication, but it alone doesn't keep people in the streets for four weeks."

Twitter、YouTube(Facebookも含む筈)などは、あくまで「道具」であり、今回の事例はチュニジアの人々によるものであるということなのでしょう。

個人的には、一連のニュースを読んでみて、インターネットを使わないと世界から国全体が取り残される一方で、インターネットによって情報規制が十分に行いきれなくなったことが一因なのだろうと思いました。 通信を全て禁止するわけにはいかないけど、政府が望む通りの情報だけで制限することが難しくなるというものです。

暗号化されたhttpsが禁止され、盗聴が可能なhttpの利用を強制するような仕組みがチュニジアのインターネットで実装されていることからも、情報のブロッキングを完全に行えない理由の一つとして、FacebookがオープンではなくクローズドなSNSであるという点ももしかしたら多少は影響を与えているのかも知れないとは思いました。

しかし、ソーシャルメディアが今回の政権崩壊の最大の要素かと言われると、ちょっと良くわからない気もします。 インターネットやソーシャルメディアが今回活用されたのは事実であり、要素の一つではありますが、恐らくチュニジアのインターネットは富裕層のためのものであり、チュニジアの国民の大多数が利用しているわけではないと思われます。 そのため、ソーシャルメディアが情報の基点となったとしても、実際の情報の広がりの最終段階はオンラインを介さずに人づてにクチコミで広がったのではないかとの感想を持ちました。

ソーシャルメディアでしか伝えられなかった情報

アルジャジーラなどでのニュースを見ると、ソーシャルメディアは情報を伝えるために重要な役割を果たしていたようにも見えます。

The Tunisian state-controlled media initially ignored the demonstrations until they became widespread. Foreign media organisations have extremely limited access in the country.
Human rights groups routinely criticise Tunisia for abuses, including lack of media freedom.
Activists nonetheless have tried to get out the news of the movement.
Videos of the Sidi Bouzid demonstrations were online soon after the protest begun and the Twitter website has been full of commentary.
A Twitter user going by the pseudonym of ibnkafka, who describes himself as a Moroccan lawyer, pointed on Wednesday to the overwhelming silence of Western governments more than a week after the protests first began.

海外のメディアがチュニジアに関して限定的な情報を得られない状況下で、活動家が時の情報を海外へと届けようと頑張っていたようです。

Huffington Postの記事

Huffington Postにも、同様の意見が掲載されています。 タイトルが「Revolution Was Twitterized」とあり、「革命がTwitterで伝えられた」というニュアンスに読めるのも象徴的です。

Huffington Postの記事では、Twitterなどが現地での活動に活用されたことが紹介されています。

He says that in the absence of traditional media - government bans on reporting and the jailing of independent journalists like Fahem Boukaddous - Tunisians resorted to their cell phones and going online to document the history of their nation in the past four weeks.
"Combined with Twitter, this helped on the ground organization of massive crowds from around small towns in remote areas. It was crucial for the organizing effort," Blagui added.

しかし、ソーシャルメディアが果たした役割は「外の世界」に事態を伝えることであり、チュニジア国内での運動の広がりそのものに対してでは必ずしもないという意見も書かれています。

Nasser Weddady, a civil rights outreach director for the American Islamic Congress who has been closely monitoring events in Tunisia, believes that while social media didn't cause the popular uprising, its most important role was to inform the outside world of the protests, the number killed in clashes with police, etc.
"At least for the first two weeks, Al Jazeera, and France24 footage on the events was exclusively provided by Tunisian social media users and aggregators like Nawaat [a Tunisian dissident group]. Twitter was more crucial in informing foreign observers and journalists," said Weddady, who is also an anti-slavery activist and Twitter user.

同様の意見を持つ他のメディアアナリストによる発言もHuffington Postの記事で紹介されています。

Other media analysts say social media filled the gap left empty by most mainstream media in the West, which they say were too slow to report on the situation.
Nir Rosen, a Fellow at the New York University Center on Law and University, tweeted: "Sh**ty western media ignoring uprising in Tunisia and regime's brutal crackdown. If it was in Iran? We'll never hear about the Tunisian Neda."

インターネットの人口普及率やネット検閲の存在を考えると、個人的には「外の世界に伝える役割が大きかった」という見解がしっくりきました。 「外の世界」にいる人々の視点からは「ソーシャルメディアが政権崩壊を後押ししている」という風に映るのも納得ができます。

アルジャジーラ

恐らく、一覧の出来事を最も詳細に伝え続けていたのはアルジャジーラであったと思われます。 個人的には、WikiLeaksに関しても、アルジャジーラで伝えられたことが大きいような感想を持ちました。

色々な出来事がソーシャルメディアだけが取り上げて、アルジャジーラが取り上げなかったら、今回どうなっていたのかという感想は持ちました。 日本国内でも最近その傾向がありますが、ソーシャルメディアそのものがニュースを伝えて広く伝播させるというよりも、正規メディアに注目してもらうまでの前段階がソーシャルメディアでの盛り上がりであるという雰囲気も感じました。

最後に

今回、記事を書くために英語で書かれている情報を色々と探して読んだのですが、ブロッキング、ソーシャルメディア、アカウント情報の盗聴、Anonymousなど、日本のテレビニュースなどではあまり流れない情報が色々知れました。

こういう形で「知りたい」と思って調べると検索エンジン経由で色々と情報を取得できることも、20年前と比べると非常に大きな変化なのだろうと思った今日この頃です。

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