ネットにおける情報発信の傾向と今後の予想

2011/9/7-2

日本の「ネットメディア」の現状の続きです。 現在の日本の「ネット」は、Yahoo!Japanが圧倒的である一方で、2ちゃんねるまとめサイトやソーシャルメディアも大きな影響力を持っています。

「ソースを見ない」

このようなランキングを見て思うのが「多くの人がソースを見てない」ということです。 Yahoo!ニュースやライブドアニュースなどでの再配信されたニュースをソースとして見るという意味ではソースを見ている人は多いのですが、新聞社等が自社サイトに掲載しているニュースのページを見ていないという話を含めて「ソースを見ていない」と表現しています(通信社と新聞社の話は割愛)。

2ちゃんねるまとめや、その他多くのネットメディアは、「○○さんがこう言ってます」という情報の伝え方をしており、読者側は実際の「○○さん」が書いているページを見ていないことが多いと思われます。 それに関してはブログも同様です。 私も、海外の記事等をリンク付きで紹介しています。

ネットで商業的運営に向かないコンテンツ

ネットニュースなどに関して「悪貨が良貨を駆逐している」という感想を述べている人もいますが、最近の私の感想としては、別に良貨が悪貨に駆逐されているわけではない気がしています。

「煽り中心で程度の低い情報」と揶揄される情報が目立つというのはあるのでしょうが、それらが「質の高い情報」に損害を与えているわけではなく、単純にネットは「多くの注目を集められないコンテンツ」以外が生きて行けない世界なだけかも知れません。

そもそも「質の高い情報」という表現も曖昧です。 「煽りではない情報」が質が高いかというと必ずしもそうとは言い切れませんし、「質」というのは各読者側の感想でしかないという側面もあります。

それはさておき、コンテンツによっては「ネット広告」という手法そのものが商業的運営にとっては不適合な部分があるのかも知れません。 広告の分野では新参者であるネット広告は、テレビ、新聞、雑誌等と比べて安く、うまくやれば効率が良いことが広告主にとって非常に大きなメリットになっていますが、逆に考えると、その広告を収入源とする側にとっては「広告料が安い」ので収益を得にくくなります。

そうすると、商業的な運営を目指すコンテンツ側は、より多くの広告を掲載して、より多くの「成果」を得なければならなりません。 この「成果」を大まかに言うと、PV(Page View)であり、クリック数です。

ただし、そもそもの世の中では、多くの注目を集めやすいネタと、逆に集めにくいネタがあります。 たとえば、あまり多くの人が利用しない技術情報等は注目を集めにくいネタと言えます。 マニアックな技術書は書く難易度が高く、そもそも、それを書ける人が少ないと同時に、購入したいという人も少ないという特徴があります。 そのため、発行部数が少なく単価が高いという販売方法がとられています。 今では非常に安価に購入可能となっていますが、昔はTCP/IPの解説書が1万円ぐらいしていて、それを購入しなければインターネットについて知る事が難しいという時代もありました。

しかし、ネットではPVが全てなので、そういったことは難しくなります。 読者が少ないと収益は少なく、読者が少ない分野は広告単価も競争が少ないので単価が安くなります。 紙媒体では読者が極端に少なくても、1冊の単価が極端に高いことで成り立っていたいたものが、今のネット媒体では実現が不可能なほど難しいというのが現状です。 (「じゃあ、電子出版でいいんじゃない」という意見が出ると思いますが、現時点では電子出版をしても購入してくれる人が驚くほど極端に少なく、さらに「紙の印刷代がないんだから安くすべき」という意見が大半なので、結果として電子出版で単価が高いコンテンツは難しいです。)

広告のクリック率も数年前と比べると非常に低くなっており、「読者側が広告に慣れてしまった」という状況もありそうですし、ネットに慣れている人ほど広告を避けるスクリプトを駆使したり、そもそも広告を見ないという能力が磨かれているため、結果として広告が成り立たないという側面もありそうです。

実はボランティアによって支えられていた

では、今まで情報の発信を行っていたのは誰かを考えると、実はボランティアに近いものがある気もしています。 書いている本人にボランティア的な気持ちがあったかどうかは別として、情報を発信することを主たる業務としているわけではなく、趣味に近い形での情報発信が多かったかも知れません。 特に、IT分野での細かい情報に関しては、そういった側面を感じます。 しかし、最近はそのような状況が崩れつつあるように思えます。

たとえば、Wikipediaは、多くの人々が世界中から集まってコンテンツを造り上げる巨大プロジェクトで、世界中から非常に多くの人々が日々参考にしていますが、そのWikipediaも、ここ数年編集者の減少に苦しんでいます。

Wikipediaだけではなく、ブログなどでの情報発信も昔より減ったように思えます。 多くの読者を抱えているブロガーが登場し、多くの読者がいることからさらに読者が増え、そこに読者が集中して行った結果、書くのをやめてしまった人々がいるという側面もあるのかも知れません。

ソーシャルメディアが拍車をかける

ネット上での情報発信減少の一因として、今までネット上に情報を公開していた専門性を持つ無数の個人がSNSなどの閉じた世界へと移動したり、長文を書けるブログをやめて一瞬の感想を書くTwitterに移行したため、生産される情報が減ってしまったという側面もありそうだと感じています。 私の周辺でも、「Twitterを始めてからブログを書かなくなった」と発言している人が結構居ます。

ソーシャルメディアの流行そのものが「注目されやすい記事」を偏らせている側面もありそうです。 昔は、自分で各サイトの最新情報を見たり、RSSに登録して少なくとも記事一覧を見ていた人々が、最近はソーシャルメディア上で知人が紹介した記事だけを読むようになりつつあります。 そうなると、「全ての記事一覧」を見る機会が減り、「自分のまわりのコミュニティで注目されやすい記事」だけを見るようになります。 いわゆる「タコツボ化」です。

さらに、基本的に注目されるのは「面白い記事」や「刺激的な記事」であって、中身が正確であるかどうかは重要ではありません。 そもそも中身が正確ではないことが「これは嘘を書いていて酷い」と言われながら注目されることも多いです。 結果として、極端な記事ばかりが注目されるようになってしまいます。

ソーシャルメディアによる波及具合と、それに最適化したコンテンツ作りがさらに洗練されると、無料コンテンツは今後さらに刺激的な内容へと向かう可能性もありそうです。 人間は同じような刺激を受け続けると、それに慣れてしまい、より強い刺激を求めるようになりがちです。 そうなると、刺激が強くないコンテンツは読まれなってしまいそうです。 味の濃い物に慣れた人が、薄い味付けに戻れないような感じです。

このまま進めば、注目を集めるために徐々に無料ネットは過激化していき、最終的には様々な規制が登場してしまう可能性もありそうだと考えています。

検索エンジンが作り出す「Rich get Richer」なモデル

これらの要素に、さらに拍車をかけているのが検索エンジンです。 より多くのリンクがあり、より多くの人が閲覧している情報は「重要度の高い情報」と見なされます。

インターネットは、さまざまな側面で「Rich get Richer (金持ちは、より金持ちになる)」という傾向が強い場所ですが、ネットメディアに関してもそれが顕著だと思われます。

たとえば、GoogleとYahoo!(エンジンはGoogleですが)で「ハムスター」を検索すると一位として登場する結果が2ちゃんねるまとめサイトです(マイクロソフトのbingでは、「ハムスター」という検索の結果は、1位が同社名の会社でしたが、その他は、ほ乳類であるハムスターに関するページになっているようです)。

その他にも、様々な単語で2ちゃんねるまとめサイトが上位に来ます。 人々が自分の意志で検索を行っている場合であっても、2ちゃんねるまとめサイトは大きな影響力を持つに至ったと言えそうです。

一部は有料コンテンツへ

今後は、「無料で公開することで採算が取れなかったコンテンツ」が有料空間へと移動する事例が少しずつ登場しそうです。

津田大介さんが有料メルマガを開始したというのは、次のネット界隈での大きな流れの先駆けような気がしています。 今後、様々な人が徐々に有料メルマガへとシフトしそうです。

これは、無料で読む数万人に記事を配信して広告掲載するよりも、有料で読む数百人に対して配信した方が金銭的な収入が大きくなるという現状が作りだしている気がします。 今までは無料で情報発信をしていたけど、原資がないと色々と出来ないので、結局は収益になることをしなくてはならないという事情もありそうです。 津田さんは、以下のように「政治メディア作るための原資として」と発言されています。

それによって無料での情報発信がなくなるわけではないとは思いますが、無料での発信は「広めたい情報」で、有料での情報は「楽しませたい情報」という別れ方になる可能性はあると思います。

このような流れによって、文章を書く人の一部が有料メルマガへと移動することで、相対的にいわゆる「拡散希望」というようなコンテンツがネット上に占める濃度が上昇するかも知れません。

とはいえ、有料メルマガそのものが「煽りコンテンツ」と化す可能性もあります。 より多くの読者を引きつけ、有料メルマガ購読者数を増加させるために、徐々に内容が過激化すると同時に、無料ネットのように公開されていないので、誰も注意してくれずに過激な方向へと突っ走る有料メルマガ配信者が登場する可能性があるためです。 有料メルマガに登録している読者が内容に賛同する事が多い「ファン」であれば、その傾向が強まるということもありそうです。

「メルマガ」という方式が大事なわけではない

現時点では、有料メルマガがクローズアップされつつありますが、必ずしも電子メールという手法そのものが大事というわけではないと思います。

たとえば、OpenIDなどを駆使して各ブログサイト等を有料化できるような外部サービスを提供してくれるベンチャー企業等がうまく課金部分等をやってくれたりすれば、有料ネットと無料ネットという棲み分けができるのでしょうが、今のところは読者への課金というコンテキストで最も成功しているのが有料メルマガだから、多くの人々が有料メルマガを開始しているに過ぎない気もします。

最後に

これまで、インターネット上のコンテンツといえば、無料やフリーミアムな方式が主流でした。

しかし、これから徐々にそれが変わって行くと同時に、無料コンテンツとして生き残れるジャンルと、有料コンテンツばかりのジャンルに別れる可能性もありそうだと考えています。

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