ISPでの大規模NATは当分流行らなそう。スマートフォンでは導入が進む

2011/9/13-1

「IPv4アドレス枯渇によってIPv4アドレスが足りなくなるので、ISPによるインターネット接続サービスは、グローバルIPv4アドレスでのサービスから、大規模NATを利用したプライベートIPv4アドレスでのサービスへと切り替わって行くだろう」という方向で日本のインターネットは徐々に進むだろうと予想していたのですが、最近は私の中でその考えが変わって来ました。

どのように変わったのかというと、「大手ISPは当分はCGN(Carrier Grade NAT)/LSN(Large Scale NAT)によるサービスを行わないだろう」と思い始めました。 というのも、現時点で非常に多くの顧客を抱えるISPは、APNICのIPv4アドレス枯渇以前にある程度IPv4アドレスを確保済みであるように見えるからです。 さらには、様々な人々の話を聞くとどうも「ISPに対してはCGN製品がそれほど売れてない」という印象を受けるというのもあります。

PCで利用することを前提としたISPによるインターネット接続サービスで、現在グローバルIPv4アドレスで提供しているサービスをプライベートIPv4アドレスに変えることはデグレードです。 しかも、そのデグレードを行うために多額の設備投資が必要になるので、ISPとしてはできるだけ避けたいのだろうと推測しています。

大手ISPと中小ISP

ただ、だからといってCGNが全く導入されないかというと、そうでもない気がしています。

まず最初にCGNが必要になるのは、実は大手ISPではなく中小ISPになりそうだというのが私の予想です。 規模が大きければ大きいほど過去のサービスの巻き取りなどでIPv4アドレスを再利用可能な余地を多く持っていますがそれを持たないのが中小ISPだと推測しています。

また、既存のユーザ数を前提として最後の最後でIPv4アドレスを確保できたように見えるの大手と比べると、実際に「IPv4アドレスの残りが苦しい」という声をチラホラ聞きます。

総務省による「要請」に応じた一斉対応?

大手ISPを含めて日本国内で一斉にCGNが導入されるというシナリオもあり得ないわけではないと推測しています。

たとえば、総務省主導で多くのISPが同時にCGNを利用した大規模NATを開始するような「要請」が出されれば、日本国内で一気にCGN導入が進む可能性もありそうです。

とはいえ、そのような「要請」が発せられる前に、「○○のありかたに関する検討」というような有識者会議が発足するような気もするので、水面下で全てが動いた上で、ある日いきなり横並び的に大規模NATを導入というようなシナリオは、現時点では無さそうな気がしています。

「IPv4アドレスを売る」ためのCGN

ISPがCGNを導入する動機の一つとして、CGNを利用してIPv4アドレス利用数を圧縮しつつ、余った余分なIPv4アドレスを「売ってしまおう」というものが登場する可能性もあると予想しています。 IPアドレスには維持料がかかりますが(参考)、IPv4アドレス利用数を圧縮したうえで、それを移転してしまえば、この維持料も軽減されます。

さらに、中小ISPがCGNを導入する前に買収されてしまうという状況もありそうだと私は予想しています。

データセンター、ホスティング、コンテンツなどの事業者が、「サーバを運用しなければならない」という理由で、今までよりも強くIPv4アドレスを求めるようになりましたが、日本国内でもIPv4アドレス移転制度を利用して「IPv4アドレスが余っている組織」から「IPv4アドレスが必要な組織」への移転が行われはじめました(参考)。 しかし、時間とともにIPv4アドレスを供給できる組織は減り、需要と供給のアンバランスさが増大していくものと思われます。

そうなって来ると、サーバのためのIPv4アドレスが必要なデータセンター事業者等の組織は、IPv4アドレスを得るために中小ISPごと買収するという方向へと向かう可能性もあります。

CGNの主戦場はスマートフォン

ISPでの大規模NAT導入が当分進まないだろうと個人的に思い始めた反面、スマートフォンにおける大規模NATは着々と進んでいます。 DoCoMoのSPモードでは既に大規模NATが行われていますし、KDDIのauでも8月下旬から9月で順次プライベートIPv4アドレスでのサービス提供を開始と発表されています。

この他、公式なプレスリリースは出ていませんが、ソフトバンクモバイルもプライベートIPv4アドレスでの運用を開始したようです。

その他、LTEで最初からIPv6へと移行してしまって、IPv4サービスをオプショナルにしてしまうという方針もあるようです。 そこでは、全てがIPv4で行われるCGNを利用せず、NAT64やDNS64によって端末がIPv6のみでありつつもIPv4インターネットとの通信ができるIPv6共存技術(IPv6移行技術)が使われます。

個人的にCGNを含めて、このようなジャンルでの製品を扱っているイメージがあるのが、A10 Networks、アラクサラネットワークス、Juniper Networks、Cisco Systemsです。 それぞれ細かい所で大規模NAT機能が異なるようなので、今後、スマートフォン用の新規ネットワーク構築に関してCGN製品やIPv6共存技術製品を多く販売できる会社がどこになるかで、スマートフォン上での通信環境の「クセ」が出て来るような気がする今日この頃です。

そもそも、ISPがユーザへのIPv4アドレスの新規割り当てが不要になる可能性も

現在、スマートフォンが凄い勢いで伸びていますが、スマートフォンをモバイル回線で契約するユーザが中心になり、固定回線上でのISP契約をするユーザ数が減って行く可能性もあります。 (モバイル回線での定額制が維持されるのか、従量課金へと移行するのかによっても動向は変わるとは思いますが)

ISP契約が頭打ちになりつつ、スマートフォンがNAT環境がデフォルトになった場合、ISPとしてはCGNを導入せずにグローバルIPv4アドレス割り当てが行える事が「ウリ」が増える一方で、CGNを使わなければならない差し迫った理由も減ります。

おまけ:IPv6は、また別の話

このような記事を書くと、「IPv4アドレス新規在庫枯渇と言えばIPv6だろう」という突っ込みが入る可能性がある気がしますが、私はIPv4はIPv4でIPv6はIPv6であり、それぞれ別物だと考えています。 そこら辺の思想に関しては、私のIPv4アドレス新規在庫枯渇やIPv6に関する過去記事をご覧下さい。

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