Google TVによるインターネットインフラただ乗り論の再燃?

2010/5/21-1

GoogleがGoogle TVを発表したというニュースが色々と報道されています。 2010年秋にアメリカで発売される予定だそうです。 YouTubeが見られたり、Adobeフラッシュが動作したり、Webを見られたりというTVで、しかも今までのとは違ってネットインフラもハードウェアとしての製品の完成度の高そうな雰囲気を出している凄い発表に思えました。

Google TVを解説しているYouTubeビデオを見るとコンセプトが良くわかります。

Google TVがどのように素晴らしいかや、将来のユーザ体験をどう変えるかなどに関しては、恐らく他の方々が色々書かれていると思うので、ここではあえて割愛させて頂きます。

ISPは絡んでなさそう

この発表を知ったとき、「これは面白い製品だ」と思った反面、「新たな火種になりそうなぁ」という感想も持ちました。 この発表はGoogle、Sony、Adobe Systems、Intel、Best Buy、DirectTV、Logitechと共同で行われましたが、ISPなどの通信事業者がゼロというのが印象的でした。

ISPが絡んでなさそうという点を見て、個人的な感想としては、「ああ、きっとマルチキャストとかは使わずにTCP(HTTP)ストリーミングなんだろうなぁ」という感じです。 もし、マルチキャストのようにパケット一つを同時に数万人へ届けられるような効率の良い方法で通信をするのであれば、ISPが相応の設定を行う必要となるため、ISPなどと協調してサービスを提供する必要が発生します。

しかし、発表の場が完全にWebコンテンツ事業者(Google)とメーカーとサプライヤという形なので、恐らく通常のWebと同様の位置づけなのだろうと思います。

ビデオトラフィックが激増するだろうなぁ

この発表記事を見て「面白そうなことしてるなぁ」と思った反面、「ビデオトラフィックが今よりもさらに激烈に増えそうだ」と思いました。 ここ数年は、インターネットインフラに利用されるバックボーン技術の高速化が停滞する一方で、Webを活用したビデオサービスが花盛りです。 P2Pトラフィックが未だに大きなウェイトを占めつつも、Webビデオトラフィックが急激に増えています。

現時点ではアメリカ限定の発売のようですし、今のところどれだけ売れるのかはわかりませんが、もしこれが爆発的にヒットすると、インターネット上を流れるWebトラフィックは恐ろしい勢いで上昇するのだろうと予想しています。

インターネットただ乗り論ふたたび

そうなったときに、インターネットインフラただ乗り論と、ネットワーク中立性議論への燃料投下になりそうな雰囲気を感じました。

ISPにとっては、トラフィックが増えれば増えるほど電気代が上昇しますし、環境によっては上位ISPへ支払うピアリング料金が上昇します。 また、新しい高性能通信機器への増強が求められるのだろうと思います。 丁度来月あたりにIEEE802.3ba(100ギガイーサネット)の標準化が終了すると言われていますが、それに伴って100GbE製品が色々と登場し始めます。 最初は非常に高価だろうと推測されるので、導入ペースは緩やかになるだろうと言われていますが、ビデオトラフィックが爆発的に増えると、価格が落ち着くまで待てない可能性もありそうです。

そのようなISP的な視点で見ると、GoogleとSonyの提携によるGoogle TVは、利益を圧迫する要因になり兼ねないと映るのかも知れません。 ISPにとっては、ユーザ数が増えるわけでも、ユーザから得られる収入が増えるわけでもなく、全く関係無いGoogle TV開始によって設備増強を求められ、運営経費が増大するという状況です。

現時点で主流である固定料金のインターネット接続は、「ユーザが出来るだけ使わないこと」が利益に繋がるという、ある側面から見ると、いびつな構造となっています。 この矛盾は「インターネットただ乗り論」として結構前から議論されています。

Webコンテンツ事業者も設備投資してる

ここまではISP的な視点で書いてみましたが、Webコンテンツ事業者も設備投資はしています。 巨大なデータセンターを構築したり、自前の巨大トラフィックを捌くために世界規模の社内ネットワークを構築している企業もあります。

また、各Webコンテンツ事業者は、ネットワーク接続代金や通信量に応じた料金を、直接接続している組織に払っている場合も多いです。 Webコンテンツ事業者もお金を払っていないわけではないのです。

ただし、インターネットは、ネットワークのネットワークであり、他者の通信を「トランジット」するという構造になっています。 そのトランジットの過程でお金は生まれるのですが、最終的なユーザへと届くラストワンマイル部分では「トラフィック量に応じた課金」ではない、という構造的な問題なのだろうと思います。

「インターネットただ乗り論」と「ネット中立性」

「インターネットただ乗り論」は、2005年頃から議論されるようになった話題です。 つい最近もVodafoneのCEOが「Googleは我々が負担しているネットワーク代金を払え」というような趣旨の発言をしているようです。

Vodafone to petition EU for 'Google tax'

この話題は「ネット中立性」という話題とも密接に関連しています。 アメリカにおけるネット中立性の議論は、いままさに進行中です。

ただ、個人的な感想としては、この「ネット中立性」の議論と、「インターネットただ乗り論」の議論は決着が非常に難しい問題だと感じています。 双方、自分の立場から見ると正しいことを言っているわけですから、pros/consを考慮しつつ、どこかで落としどころを探らなければならないという形です。

たとえば、全部の通信を妨害してはいけないという話になると、単純なところではSPAMをブロックするためのOut Bound 25 Blockingも駄目になってしまうでしょうし。

今の状況はある意味「何とか回っている状態」とも言えるわけで、変にバランスを崩すと、一気に色々な物へと影響を与えて行ってしまう可能性もありそうです。 国や政府によっても考え方が対応も違いそうだとは思うので、この議論がされればされるほど「インターネット上の国境」が明確になっていくという側面もあるのかも知れません。

日本の場合

今回のGoogle TVはアメリカ限定なので、日本に関しての話題を色々書くと発散し過ぎてしまうので、ここでは詳細は割愛します。 ただ、一応、念のためいくつか日本の話も微妙に書いてみます。

日本国内で行われている、ひかりテレビなどのIP経由のテレビサービスは、オープンなインターネットを使った物ではなく、自社網内でサービスを行うトリプルプレイ型のものです。 そのため、Google TVとは本質的な思想も、ネットワーク的な影響範囲も異なります。

日本でも2006年にNTTコミュニケーションズにGyaoが文句を言っていた事例などがあります。

日本における帯域制限等の現状は以下を見るのが良いと思います。

最後に

Google Public DNSの開始などもありましたし、最近は、インターネットインフラがGoogle中心になりつつあるような雰囲気を感じることが多いです。 Googleの活動がニュースになりやすく、注目されているので良く目にするという側面もあるのかも知れませんが。

いくつかのTier1よりも巨大と言われるGoogleのバックボーンネットワークを活用して、GoogleがTier1になろうとすれば、そのうちインターネットはGoogle社内網になるのではないかと妄想することさえあります。 まあ、今のところGoogleがYouTubeなどの自社サービス以外のためにトランジットを提供する気配はありませんが。

ユーザとしてはTVがネットとシームレスになる方向性は歓迎すべき発展だとは思っています。 フラッシュが使えるのであれば、YouTubeだけではなくUstreamも普通にTVで見られるようになるでしょうし、そうすれば、たとえば、テレビ局が扱ってくれないマイナースポーツなどの愛好家も利益を多くうけられそうです。 ネットに繋がるTVというコンセプトは、ピピンアットマークを含めて昔から色々と模索されていますが、Google TVはそれらと比べても、非常に夢があります。

しかし、某業界ネタウォッチャーとしては今回のGoogle TVは、もしかしたら新たな火種になるのではないかと思った今日この頃です。 (単に前から燻っている火種への燃料投下なのかも知れませんが。。。)

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