フローを強く意識したルータ

2009/8/17-6

IEEE Spectrum : A Radical New Router」という記事がありました。 今までには無かった思想のルータが紹介されています。

この記事の最初の文章が激しく痺れます。 「インターネットは駄目だ。インターネットを設計した俺だからわかる」と言ってます。

The Internet is broken. I should know: I designed it. In 1967, I wrote the first plan for the ancestor of today’s Internet, the Advanced Research Projects Agency Network, or ARPANET, and then led the team that designed and built it.

意訳:インターネットは駄目だ。 設計した私だからわかる。 1967年にインターネットの先祖となるARPANETに関する最初の案を書いた。 その後、設計と構築を行ったチームを率いた。

インターネットは、パケット交換技術によって成り立っています。 インターネットにおける全ての通信は、パケットという細かいデータに分割されたうえで行われます。 パケット交換技術は、電話線などによる回線交換技術へのアンチテーゼとして登場しており、全てのフローを把握して通信を行うという事はインターネットの本質に逆行するという考えもあります。

フローを把握する難しさは、各パケットが独立して転送されるパケット交換技術そのものから来ています。 フローを正確に処理するには、ルータは、どのようなフローが存在しているかを全て覚えたうえで個別のパケットに対しての処理を行わなければなりません。 例えば、バックボーンネットワークのように無数にフローが存在する環境において、フローを全部把握して処理を行っていたら転送速度が遅くなってしまい、十分な通信性能を実現できません。

Anagran社のルータは、400万フローを把握しながら処理しつつ、80Gbpsの性能が出ると記事に書かれています。 ポイントとしては「フローというのは最初と最後さえ見ていれば良い」ということで、最初にハッシュ値を作成し、その値に一致するフローの挙動というものをフロー毎に作れるということらしいです。 (「フローの最初」という表現で書きましたが、途中からハッシュ値を作る事も可能と書いてありました。) さらに、フロー毎に優先度や経路を変える事もできるそうです。

コメント欄には「CEF(Cisco Express Forwarding)と何が違うの???」という批判的なコメントが色々書いてありましたが、個人的に感じたのはAnagran社のルータはデフォルトで設定されている経路とは別の経路をフロー毎に設定できて、L3レベルでフローの流れる場所を変えることによってQoSを実現したりできると言っているのではないかと感じました。

IEEE Spectrumの記事で述べていた主張の一つに、「DPI(Deep Packet Inspection)しなくてもP2Pの割合を減らせるよ」というのがありました。 確かに、全フローを把握できるのであれば、フローの発生源に応じて全体を"fair"にすれば、一部のユーザがP2Pトラフィックでネットワーク全体の帯域の大部分を占有しなくなりそうです。 何かFair Queue的発想な気もしますが。。。

最後に

まあ、色々な意見はあるとは思いますが、個人的にはIEEE Spectrumの記事は面白いと思いました。

要素技術だけを抜き出せば、このルータは「革新的な技術」があるというよりも、ユースケースやマーケティング手法が今までになかったのだろうというのが個人的な感想でした。

先月記事を書いたPalo Alto Networks社のルータも同じような感じだと思います (参考:斬新なファイアウォール - Palo Alto Networks)。

恐らく、処理速度やネットワーク速度やユーザ層の広がりなど、様々な要因が絡み合って通信インフラという意味でのインターネットに対して求められる物が徐々に変わって来ているのかも知れません。

技術的に非常に革新的というわけではない、しかし、今までになかった思想で作られているので革新的であるという革新的ネットワーク製品が今後はどんどん増えて行くのだろうと思った今日この頃です。

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