第1回クラウドコンピューティングコンペティション結果

2009/6/16-2

6月11日にInterop Tokyo 2009で「クラウドコンピューティングコンペティション」が開催されました(以下、クラウドコン)。 クラウドコンは、「これからの技術を担う若者のやる気を刺激する」という目的意識で開催が決定され、普段なら扱えないような実験環境を提供するというものでした(参考:「これからの技術を担う若者のやる気を刺激する」クラウドコンピューティングコンペティション)。

今回は第一回ということもあり、準備期間も短かったのではないかと思うのですが、深い発表が多かった気がします。 主催者側によると「3年は続けたい」とのことなので、早くも来年が楽しみです。

結果

結果は以下のようになっていました。

グランプリ: えとらぼ
「kumofs」
2位: 七転び八起き隊
「Cloud+Crowds = orz-DHT!?」
3位: Team PIAX
「〜いくぜ100万ノード、1000億エントリ〜 範囲検索可能な大規模 key-valueストアへの挑戦」

出場者一覧

以下、発表順に出場10チーム一覧です。

えとらぼ

kumofs

えとらぼ株式会社の方々による応募でした。 際限なく増え続けるユーザデータを保存しつつ、消えずに保存出来て、運用が簡単なkey-valueストレージを目指したという、kumofsです。 第一回クラウドコンはkumofsがグランプリ獲得という結果でした。 資料その他が発表された古橋氏のブログで公開されているので、興味がある方は是非そちらをご覧下さい。

古橋貞之の日記 : Interopクラウドコン優勝は「えとらぼ」分散key-valueストレージ kumofs

NECサービスプラットフォーム研究所

分散したRDBを、まとめて検索・Pub/Subしたい!

範囲検索に弱いというDHTの欠点を補って、分散したRDBをまとめてPub/Subするための方法について発表が行われていました。 MySQLへのプラグインとして実装とデモが行われていました。 MySQLのデータベース部分がクラウドって何か面白いと思いました。

模倣インターネット

Miniature Internet (ミニチュアインターネット)

奈良先端科学技術大学院大学のチームです。 日本や世界のインターネットを大規模クラスタの上で仮想的に再現する取り組みです。 「680 AS on 物理サーバ680台、10000 AS on XEN+物理サーバ150台までの構築実績あり」だそうです。 クラウドコンでは50台のディスクレスサーバとXENで日本のミニチュアインターネットを作っていました。

このような「模倣インターネット」を作る事によって、リリース前の大規模テスト、実インターネット上では怖くて出来ないテスト、インターネット成長予測などができるようです。 DDoSの再現などに使えるんですね。。。 模倣インターネット上でのtracerouteやpingが印象的だと思われます。

IntelliSense

IntelliSense: An Intelligent Network Distance Sensing and Evaluation System

どこかで見たことがある思ったらうちの研究室の学生でした。 卒論のbrushupっぽいです。 身内なので「卒論内容を公の場で発表するのは偉いぞ!」と思ったのですが、よくよく考えたら他の方々も修論内容で発表しているかも知れないですね。。。

FQDNを考慮しながらトラフィック制御を行い、ネットワークへの負荷軽減を目指す仕組みです。 FQDNを使って位置情報を推測しようとするシステムは色々ありますが、これはP2Pへの応用版といった感じでしょうか。

渚にて

課金を考慮したリソースサイジングを行う仮想クラウド環境 構築ツール

NECの方と中央大学の方によるチームでした。 課金無しのプライベートクラウドと、課金ありのパブリッククラウドを使い分けるための取り組みでした。 利用金額と負荷によるクラウドノード数を調整するためのスケジューリングなどに関する仕組みが解説されていました。

http://lucie.is.titech.ac.jp/trac/lucie/

MMR

ErlangによるSkipGraphの実装

「北九州からきました」な高校生です。 高橋メソッドを使うなど、プレゼン方法も考え込まれていて素晴らしかったのではないでしょうか。 デモは大成功とまでは行かなかったようですが、将来が非常に楽しみなメンバーによって構成されているチームでした。

早大山名研'09

デスクトップグリッドでもMapReduce

早稲田大学の山名研究室の方々です。 ポスドク一人、博士課程一人、修士4人、学部4年一人の7名によるチームです。 クライアントサイドPCを大量に利用した分散処理フレームワークと、その応用方法色々が解説されていました。 例えば、AmazonやNetFlixが提供しているユーザ評価情報などを利用して映画推薦システムを構築する方法が解説されていました。

一割開発同好会

Cloud War 〜ゲームに使ってみるクラウド環境 〜

クラウドをゲームにしてしまうという面白い発想の発表でした。 プレゼン資料中に「相手を妨害しながら、自クラウドで計算処理」「ずっと俺のターン!」「うわ、おそいなあ」という表現が記述されていて面白かったです。

ただ、最終的なオチが「ゲームとしては致命的な欠陥があります。面白くないんです」というのが印象深かったです。 そもそも今回のクラウドコンは開催告知が今年の3月25日ということもあり時間が非常に限られていました。 あえて「ゲーム」という難しいテーマに切り込んだというのは凄いことだと思います。 また、この「ゲーム」という大きな発想の転換を種にして、何か全然違う何かが産み出される将来性を感じる発表でもありました。

Team PIAX

〜いくぜ100万ノード、1000億エントリ〜 範囲検索可能な大規模 key-valueストアへの挑戦

PIAX という、オープンソースP2P基盤ソフトを開発されている方々です。 PIAXはJavaで書かれているようです。 発表内容としては、クラウドで利用するための分散高機能ストレージでした。 PIAXそのものの仕組みはPIAX Webサイトに記述されているものを読むのが良いと思います。

七転び八起き隊

Cloud+Crowds = orz-DHT!?

たった1つのPHPスクリプトをWebサーバ上に置くだけでChordノードになるという素晴らしいものです。 このチームは2位でしたが、1位とは僅差だったようです。

orz-DHTというネーミングセンスも最高です。 NEC研究所の方々による発表でしたが、公の場で発表する成果物がorzというのが侮れません。 こういう茶目っ気って重要ですよね。

感想

今回、幕張メッセで開催されたクラウドコンは、個人的には成功したイベントなのではないかと感じました。 今回は、「これからの技術を担う若者のやる気を刺激する」ということで、「若者の応募」に主眼を置いていましたが、ここで発表している姿を見て「若者が頑張っている」という事を可視化出来るキッカケに成り得るという面での将来性を感じました。

例えば、高校生参加者のid:daiki41tiさんは「ErlangによるSkip Graphの実装」という発表を行っていました(参考:daiki CHIJIWAの怠惰 : クラウドコンピューティングコンペティションに行ってきた)。 今回唯一の高校生でしたが、社会人も含めたにコンペティションに高校生が堂々と乗り込んで、審査を通過して最終発表までたどり着いた事がまず凄いです。 次に、その内容がErlangを使ってわずか200行程度でSkip Graphを作ってしまったというものであったことも驚きです。

このように、非常に将来性を感じる高校生の存在を知れる場がクラウドコンという形で構築されたのは意味がある事なんだと思います。 このような形で「日本の若者も頑張ってるんだぞ!」と広く伝われば、それを見てさらなる「若者」が「じゃあ私も」となるかも知れません。 ネットで良く見る「日本って駄目かも理論」は、日本が駄目なんじゃなくて凄い面が可視化されてないだけなんじゃないかとも思える、そんな発表だったのではないでしょうか。

最後に

まあ、私は「クラウド」という単語は単なるバズワードじゃないかと思うことがあります。 好きか嫌いかと言えば、「クラウド」という盛り上がりは好みではないのかも知れません。

しかし、今回は自分がそのバズワードを好きか嫌いかではなく、そのような単語が流行っている時にこそ、それと関連するような何かをやることで、新しい何かを産み出せるということを学んだ気がします。

来年のクラウドコンペティションが非常に楽しみです。 でも、来年は開催概要等をもうちょっと早く掲載した方が良いのではないかとも思ったのは内緒です。

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