イノベーションに関する勘違い

   このエントリをはてなブックマークに登録    2008/4/6-1

Google Tech Talksで「The Myths of Innovation」が公開されていました。 「The Myths of Innovation (和訳:イノベーションの神話)」という本の著者による講演です。

イノベーションに関する勘違いや、イノベーションとは何かを説明しています。 非常に面白い内容でした。

以下、要約です。 誤訳などが含まれている可能性があるので、是非ビデオもご覧下さい。

1. 歴史

イノベーションと言う単語は好きではない

イノベーションの意味は「初めて何かを行ったり紹介したりすること」

イノベーションは相対的なものだ

例えば、私が全く新しいアルゴリズムなどをここで紹介すれば、会場にいるみなさんからは私はイノベーターに見える。 今度、この会場にいた人が、それに関して別の場所で話せば、それを話した人がイノベーターに見える。 そして、同様のことが繰り返される。

知っているような内容であればイノベーティブだと思わない。 ただ、その内容を知らない人が同じ話を聞くとイノベーティブだと思う。

例えば、24時間電気が通電していない地域は世界で非常に多くある。 そのような地域で24時間通電を実現することはイノベーションになる。

エンジニアの多くは、イノベーションの良し悪しは定義可能で、優劣はつけられると信じている。 しかし、それは本当ではない。

今まで調べてわかった結果だが、イノベーションはいつでもソーシャルなものである。 対象としている相手に対するものであり、適応しようとしている相手に左右される。

イノベーションとは
最初にやること?
より良いことか?
勝者になったことか?

この単語を使っている相手によって、どのニュアンスで使っているかが異なる。 結構ファジーな言葉。

色々なミーティングでイノベーションという単語を聞くが、意味を確認した方が良い

11世紀の教会の画像。建築当時はイノベーティブだった。今は、古い。

Chronocentrism
(参照:http://en.wikipedia.org/wiki/Chronocentrism)
今の技術はいつになっても最も優れていると勘違いしてしまうこと。

マヤの人もインカの人もギリシャの人も、人類の歴史上自分達が最も優れており、後世においても自分達は最高の技術を持っていると信じていたかもしれない。

アーチ上の天井と水路の写真
    アーチ状の構造物はかつてイノベーションだった
    水路もイノベーションだった
    これらは文明におおきな影響を与えた

非常に成功したイノベーションは「当たり前」になる
    常にあったものだと思われる
    普及する事はイノベーターにとっては夢だが、普及すると当たり前になる

プロメテウス

ロックフェラーセンターのスケートリンクでプロメテウスが誇らしげに火を掲げている。 ギリシャ神話では、プロメテウスはゼウスから盗んだ火を人類に伝えたとされている。 ロックフェラーセンターに置く像をとして誇らしげに火を掲げているプロメテウスが選ばれたのは非常に興味深い。

参考:
wikipedia : ロックフェラーセンター
wikipedia : プロメーテウス
wikipedia : Prometheus

ニュートンと林檎の話

起源を知っている人は?
観衆:「リンゴがニュートンの頭に落ちた」
ニュートンの自伝を書いた伝記作家がニュートンに聞いた
その時は、家の窓からリンゴの木を眺めていたという話になっている
その後、ヴォルテールが目の前でリンゴが落ちたような話を書いた
その後、100年後に別の作家が「頭にリンゴが落ちてたら面白いよね」と書いた
その作家はもちろん、ニュートンにもヴォルテールにも会ったことは無い
伝言ゲーム
結局知れ渡っているアイディアは別人が作っている

参考:
wikipedia : アイザック・ニュートン
wikipedia : ヴォルテール

ニュートンのやったことは、皆が知っていた概念を他でも使えるように数学的にまとめたことだ。 ニュートンは数学的にまとめるのに15年だか20年ぐらいかかっていたと思う。

1章はこのような感じの歴史や突然のひらめきに関する俗説とその理由を書いている

2. 企業

3M

3Mの企業名は「Minnesota(ミネソタ) Mining(採鉱) and Manufacturing(製造)」。

3Mのプロダクトで知っているものは? 観衆:ポストイット。

なんでMinnesota Mining and Manufacturingがオフィスサプライなんてやってるんだろう? 観衆:Manufacturing(製造)してるんじゃない?(笑)

19世紀末、20世紀前半に創設された。電気が一般化する前。 3Mは鉱物資源に目をつけて採鉱をはじめた。

ただ、購入した鉱山から取れる鉱物は使い物にならなかった。 あきらめずに、違う分野に進出してサンドペーパー製造用の鉱物を掘った。

企業が安定するまで10年かかった。一夜で成功したわけではない。

とあるサンドペーパーエンジニアがいた。当時はそれが最先端だった。 パーティに行ってサンドペーパーエンジニアだと言えば女の子が話しかけてきた時代だった(笑)。

サンドペーパーエンジニアがクライアントと話をしていて、サンドペーパーでは解決できない問題が出てきた。 車の塗装で、別々の色を混ぜずに並べて、それを量産する方法。 サンドペーパーは2つの別々のものをつなぎ合わせている、何か発見できるかも知れない。 そのエンジニアは自分でプロトタイプを作っていった。

上司に相談したけど却下された。 3回相談したけど、全て却下された。 しょうがないので、秘密で勝手にやった。

それで開発されたのがマスキングテープだ。 それ以前にはマスキングテープはなかった。 プロトタイプが出来上がってから上司に相談に行った。 4回目の相談でやっと許可が出た。 結局、その後マスキングテープはサンドペーパー以上の規模になった。

その上司は、William McKnightという。 William McKnightは3Mのチェアマンになった。 「自分が間違っていた。3度も却下してしまった。今後はこのような事が起きないようにする」と言った。 その精神が採鉱会社がポストイットを作る原動力になっている。

Googleでも20%ルールがあるが、3Mにも同様のものがあり、各従業員はやりたいことに時間を費やしても良い。

As our business grows, it becomes increasingly necessary to delegate responsibility and to encourage men and women to exercise their initiative. This requires considerable tolerance. Those men and women to whom we delegate authority and responsibility, if they are good people, are going to want to do their jobs in their own way.
Mistakes will be made. But if a person is essentially right, the mistakes he or she makes are not as serious in the long run as the mistakes management will make if it undertakes to tell those in authority exactly how they must do their jobs.
Management that is destructively critical when mistakes are made kills initiative. And it's essential that we have many people with initiative if we are to continue to grow.
William McKnight 3M Chairman, 1948

失敗を前提に考えていたり、マネージメントがイノベーションの芽をつまないようにすると考えられているのが凄い。 60年前に言われていた事。

宇宙開発競争

アメリカの宇宙開発に関わっていた人の数。 500000人。 NASAはコーディネータだった。 Space Ageは50年前だった。 エンジン、空調、その他は別々の企業が作っていた。 JFKがやるぞと言った。

非常に大きなスケールの組織でなければできなかったことは多い。 ソフトウェアでもそのようなものがある。

失敗というものがある。 アポロ13というすばらしい映画がある。 映画で語られている事の多くは実際に発生しているが、描かれていないこともある。

実際に月面着陸に成功するまでには莫大な数の失敗がある。 アポロ13では誰も犠牲にならなかったので良かった。 ただ、アポロ1では3人が犠 牲になっている。

どのイノベーションを見ても、それが成功する前には膨大な失敗がある。

3. Lessons

マウスのプロトタイプ

1967、1968ぐらい?

世界にはPCがなかった。コンピュータも一般的ではなかった。 「これが未来だ!」と誰かが言っても誰も信じない。 凄くばかばかしく見える。

凄い発明家 : エジソン

電球を作った人はたくさんいた。 それをビジネスとして成功させた最初の人と見る人もいる。

エジソンの最大の発明は、電球などではなく、研究開発機関かも知れない。

彼の特許を見ると、彼だけの特許はあまりない。 大量の人物の名前が書いてある特許が多い。 西側諸国では、イノベーションを作り続ける事ができる研究機関を作った最初の人だ。

エジソンは自分をプロモーションした。 自分で孤独に開発をするイメージを広めた。 その方がビジネス上有利だった。 彼自信に注目が集まる。

凄い発明家の話を追っていくと、実際は結構違っているということに気がつく。

Key points

  • Innovation and design are ancient
  • We can learn from their history & mythology
  • Organizations of any size can innovate
  • Innovation is simple, but hard: delegate, expect mistakes, reward initiative

誰も最初のマウスに対して人々がどう反応したかを語らない。 今でこそ当たり前。 記事で「馬鹿だ、駄目だ」と書かれたかも知れないが、誰もそんなことは語らない。

本当にイノベーターになりたかったら、そのような反応を打ち砕かなければならない

Q&A

Q: Googleは?

ユニークネスに関する諸刃の剣がある。 他の人がやったことから学びにくくなっているかもしれない。 外を見渡せば同じ事をやっていた人もいる。

Q: 意味のある発明と意味のない発明をどうやって見分ければいいのか? マスキングテープなどが生まれれば良いが無駄にお金だけを浪費する場合もある

答えはない。 あまりに多くの要素があり過ぎる。 そこがイノベーションの難しいところ。 色々本がある。 「この5つさえやれば成功する」ということが書いてあるが、そのような表現が最大の嘘。 全てが正しくても失敗する事もある。 原因はごまんとある、戦争が発生して失敗するという可能性もある。 9月11日にローンチしようとしていたプロダクトは世の中にどれだけあるんだろうか? そのせいで、折角の努力をお金に換えられなかった組織はどれだけあるだろうか? イノベーションを起こそうとするとき、全く新しいことをしようとしているので、コントロール不能な要素というものがある。 賭けをしなければならないことがある。

賢い企業は同時に様々な事をさせる。 2ヵ月後に、うまくいっているものを取り上げて、継続させ、また数ヵ月後に様子を見ようとする。 これは結構賢いやりかた。

でも、それをするにはお金がかかる。

Q: エジソンは人に作らせていた。実際に考えた人は不明かもしれない。マスキングテープを実際に作った人は知られていない。イノベーターって誰?

本にはそれに関して語っている章がある。

特許システムが鬱陶しい理由の一つだ。 「誰が発明したか」を明示しなければならない。 Fred?Joe? 発明に至るまでの「燃料」は色々あったはず。 それら全員に対してクレジット(名声、功績)があっても良い。 マスキングテープの人、名前を知らないのが恥ずかしいが、マスキングテープの人のボスはWilliam McKnightだった。 William McKnightにも許可を出した上司がいたはずだ。

ただ、アイディアに対して一番リスクを負った人がいれば、クレジットはその人にってしかるべきだと思う。

イノベーションの神話

Scott Berkun (著), 村上 雅章 (翻訳)
¥ 1,890(税込)

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