[書評] ナノカーボンの科学

2008/1/4

「ナノカーボンの科学 - セレンディピティーから始まった大発見の物語 - 」を読みました。 本屋で本を物色しているときに目に留まったのですが、予想していた内容ではありませんでした。 ナノカーボンとは何か?を解説した本だと思って手に取ってみると、実はナノカーボン発見に至るまでの科学者達の物語でした。 非常に面白いと思えた本でした。

私はいわゆる理系ではないので、化学などの授業を受講していませんでした。 そのため、色々理解出来ない部分はありましたが、考え方として重要だと思える要素が色々と記述してある本であると思いました。

この本の大部分は「フラーレン (C_60)」という炭素原子が60個集まった物質の発見と、その後、科学者達がしのぎを削って研究を続けた様子が描かれています。 フラーレンに関する研究競争の中で偶然発見されたのがカーボンナノチューブだそうです。

カーボンナノチューブには様々な応用方法があり得るらしく、ナノサイズのトランジスタを作ったり、明るく薄型で消費電力が小さいテレビのディスプレイを作ったりできるそうです。 また、鋼鉄の数十倍にもなる引っ張り強度があるらしく、自重で切れない宇宙まで続くケーブルを作ることに利用できるのではないかと考えられているそうです。

ただ、個人的に感じたこの本の面白さは、カーボンナノチューブの話ではありませんでした。 科学者達が発見を行い、それを公表し、競争が発生し、発見者がノーベル賞を受賞するまでの話が面白かったです。

フラーレンの発見

当初、フラーレンの発見は全く異なる分野の科学者達による共同プロジェクトが実施されることで実現したそうです。 宇宙物理学者のクロトー氏は、直線状に並ぶ炭素分子が宇宙空間でどのように生成されるのかに興味を持ち、マイクロ波分光学でレーザー蒸発クラスター分子線質量分析装置を扱えるスモーリー氏と共同研究を申し込んだそうです。 そして、共同研究を続けるうちに不思議な物質が生成されていることに気が付き、フラーレンを発見したそうです。

このフラーレンという物質の構造は、五角形と六角形を組み合わせたサッカーボールと同じ構造をしているそうです。 このフラーレンの発見が公表されてかれ、科学者達の世界はフラーレンフィーバーだったそうです。

オープンとクローズの使い分け

フラーレンの研究は時間を争う競争であったようです。 Nature誌に受理された日が数日や数ヶ月の差で第一発見者の座が変わったという事もあったようです。 このように、誰かが大きな発見をすると関連する何かを誰かが発見するのは必然であり、問題は誰が一番乗りになるのかという世界があるという事を思い知らされます。

そして、特定の連想によって「誰でも」発見が出来る世界では、情報のオープン化とクローズでこっそり研究することが非常に大事になります。 このオープンとクローズの使い分けに関する概念は、インターネットの世界でも重要であると思われます。 特定の製品やサービスのアイディアを形になるまで作りこみ、発表するタイミングを調整する事で大きくその後の発展が変わります。

不思議に思う事

あまりに一つの事を見つめすぎていて、実は大発見がすぐそこにあったという話も面白かったです。 注目していた研究内容とは別に、数値データとして既に兆候が出ていた論文があったり、実験の過程で変な物質の存在に気がつきながらも気にしなかったがために大発見への一番乗りを逃したグループの話がありました。 目的を達成するために一点に集中するのも良いのでしょうが、何か気になる事が途中で出たら、それを良く考えてみると思いがけない成果が出せることもあるという事ですね。 何かに向かって一直線の時に、わき道にそれるのは難しいのかも知れませんが、「不思議に思う事」を大事にすると思わぬ大発見や大発明を達成できるのかも知れないですね。

最後に

科学者が何かを発見しようとしてしのぎを削るという話は、IT系の業界に通じるところがあると思いました。 ちょっとした引っかかりや問題点を追求する事で大発見ができるかもしれない話や、オープンとクローズの使い分け、他分野との協調による大発見など、色々と考えさせられる内容であったと思います。

また、自分の分野でフィーバーしている話題でも、他分野に行くと「何それ?」となるんだろうなぁという感想も持ちました。 フラーレンとカーボンナノチューブのネタは、その業界では当たり前の大きな話題だったのだと思いますが、私はこの本を読むまで「フラーレン」という単語を聞いたことがありませんでした。 Web2.0などのバズワードなども、他分野の人にとっては「何それ?」なんだろうなぁと思いました。

理解出来ない内容が色々あった本ではありましたが、全体的には楽しいと思える一冊でした。 ただ、フラーレンにどのような用途があり、何故皆が熱狂したのかに関する解説が全く無いのが多少残念な感じがしました。 (もしかすると、用途は思いつかないけど構造的に面白いから「何かがあるに違いない!」とみんなが思ったのでしょうか?)

最後に、本の最初で書かれている一文を紹介したいと思います。

自然科学においては、けた外れの発見がなされると、科学者たちは自分たちの自己満足に衝撃を受け、まだまだ自然を十分に理解しているわけではないことに気づく。

自然科学以外の分野でも言えることですね。。。

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