賛成意見(反対意見)を持つためのバイアス

2008/4/7

「How Safe is Safe Enough ? A Psychometric Study of Attitudes Towards Technological Risks and Benefits, Policy Sciences, Volume 9, Number 2 / 1978.4」 という論文を読みました。 かなり古い論文ですが面白い内容でした。

新しい技術は社会に対して利益(ベネフィット)を与えますが、同時に新たな問題(リスク)を発生させます。 リスクを軽減する施策は、ベネフィットを削減してしまいがちです。 そのトレードオフで人々が「十分良い」と思えるところはどこなのかに関する考察を行うという論文でした。

基本的には1969年の論文である「Social benefit versus technological risk」という論文を検証したものでしたが、実験の中身としてリスクを判断してもらう前に利点を考えるグループと欠点を考えるグループに分けていたのが面白かったです。 以下、論文中の表から一部抜粋です。 数値は被験者が感じたリスク値です。 この値が1.0より大きな値であれば「もっと安全であるべき」と考えられており、逆に1.0より小さい場合は「もっとリスクを取っても良い」と考えられています。

営みや技術 リスクを考えたグループ 利益を考えたグループ
1. Alcoholic beverages 4.7 4.2
2. Bicycles 1.6 1.4
3. Commercial aviation 1.2 1.4
4. Contraceptives 2.1 1.9
5. Electric power 1.2 0.9
6. Fire fighting 1.2 1.0
7. Food coloring 2.7 3.4
8. Food preservatives 2.6 2.8
9. General (private) aviation 2.3 1.8
10. Handguns 17.1 17.5
11. High school and college football 1.8 1.6
12. Home appliances 1.1 1.0
13. Hunting 2.9 2.0
14. Large construction (dams, bridges, etc.) 2.0 1.4
15. Motorcycles 5.1 5.5
16. Motor vehicles 7.3 4.9
17. Mountain climbing 1.1 0.9
18. Nuclear power 32.2 25.9
19. Pesticides 10.5 8.5
20. Power mowers 1.7 1.3
21. Police work 2.3 1.3
22. Prescription antibiotics 1.4 1.2
23. Railroads 1.4 1.1
24. Skiing 1.1 1.0
25. Smoking 15.2 15.3
26. Spray cans 8.6 6.9
27. Surgery 2.2 1.6
28. Swimming 1.2 0.9
29. Vaccinations 1.0 0.7
30. X-rays 2.1 1.3

上記結果を見ると、リスクを考えたグループの方がベネフィットを考えたグループよりも「危険である」との結果を出しやすくなっていると思われます。 論文中では、この点について今後の研究が必要であると書いてあります。 (この論文が執筆されてから30年経過しているので、恐らくこの点を扱った論文が既に存在していると思いますが、調べていません。)

このように、意図的に利点を考えるとその事例に対して好意的になるような傾向は確かにある気がします。 意図的に利点を考えるだけではなく、最初に紹介されたときの印象で多くの人が抱く印象の方向性が決定してしまう気もします。 例えば、最初に否定的な報道が多くされた技術などは、最後まで必要以上に評判が悪いままであることが多いような気がします。

賛成意見と反対意見が真っ向から対立する問題というものも多いと思いますが、それらの「立場」というのが「欠点を中心に考えていった」か「利点を中心に考えたか」で決定的に違ってしまっている社会問題も多い気がします。 特定の技術に対する「信者」と「アンチ」は、「良い点探し」に没頭するグループと「粗探し」に没頭するグループという分け方もできるかも知れません。

商品などを販売するときに「良い点探し」を不特定多数の人間に意図的に行わせるのがアフィリエイトであるのかも知れません。 アフィリエイトリンクを張るときに「売れて欲しい」という経済的な意図が働くため、どちらかというと欠点よりも利点を強調しようという意識が働く人が多いと思われます。 そして、良い点を探そうとすることによって、無意識のうちに対象に好意を抱くということもありそうだと感じました。

また、ブログマーケティングなどでブロガーに記事を書いてもらうという発想も同様かも知れません。 意図的に「良い点を探そう」という意識を無自覚に発生させているのではないかと思います。

畑違いの論文を読んでみて、こんな感じの事を連想しました。 ある程度の「バイアス」は作り上げられていくものなのかも知れないと思った今日この頃でした。

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