クリエイティブによる個性主張の時代が来るのか?

2008/10/14-1

次世代マーケティングプラットフォーム - 広告とマスメディアの地位を奪うもの - 」を湯川鶴章さんから献本して頂きました。 ありがとうございました。

この本とは直接関係ないのですが、最近考えていることと微妙に関連する話であり、連想するものがあったので書いてみる事にしました。

クリエイティブの重要度は減るのか?

湯川さんは著書にて「クリエイティブな広告はなくならない。しかしその重要性は低下せざるを得ないのだ。(p.189)」と主張しています。 本全体としては、「広く告知する」という意味の広告は、周辺技術として台頭してきている広告マーケットプレイス、デジタルサイネージ、ウェブ解析+CRMなどの肥大化していく「広告周縁技術」の登場によって徐々に衰退を余儀なくされ、最終的には「終焉」に近づくとしています。 そして、「周縁技術」として台頭しそうな(している)技術の解説と、テクノロジ企業の取材が掲載されています。

私は著書を拝見して「いや、むしろクリエイティブの重要性は上昇する」と思いました。 ただし、確かにおなじクリエイティブのeffortの結果として得られる効果は減少しそうな気がします。

クリエイティブの重要性はむしろ増加すると思う

テレビ/新聞/雑誌/ラジオに出すために「良い内容を考え企画する」という意味でのクリエイティブではなく、インターネットを使うか使わないかを含めた配信方法全体とコンテンツをトータルに考えるようなクリエイティブの重要性はむしろ上昇するのではないかと私は考えています。

インターネットのおかげで広告の表現方法や発表方法は無限に広がりました。 まさにブルーオーシャンです。 しかし、無限に広がる真っ青な海は、ある意味残酷です。 「何をやっても良い」とは、別の言い方をすると「模範がいない」に近いからです。

世の中には、非常に多くのテクノロジが溢れており、以下のような事を考えようと思うと並大抵の努力では足りません。

  • 広告のテーマをどのように設定するか?
  • テクノロジをどのように組み合わせて新規性のある広告を作り出すか?
  • そのテクノロジを使うことと広告テーマは一致するのか?
  • テクノロジの使い方に明確なメッセージ性はあるのか?
  • その企画は技術的に実現可能か?
  • 広告配信方法/配信メディアはどれを利用するのか?
  • 規模性(スケーラビリティ)はあるのか?
  • 誰がどのように話題にしてくれるのか?
  • クチコミを目指した情報伝播手法等を使うか使わないか?
  • その他、もろもろ

例えば、上記事柄を考えながらコンシェルジェ的/コンサルタント的にトータルソリューションとしてクリエイティブを作れるような「クリエイティブ」は重要度が増す気がしています。 全てを一人でこなせる人は少ないかも知れないので、個の強みを活かしたチームが形成されていくのかもしれませんが、いずれにしても「クリエイティブの重要性が下がる」ではなく、「クリエイティブ陣営の質が全てを左右する」という状況が発生しそうな気がします。

「検索エンジン広告は凄いので検索エンジン広告に出せば良い」「出す場所と費用を多くかければ良い」という話ではおそらくありません。 クリエイティブの価値を表現する名言に近いのが「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる!!!」かも知れません。 企画する人の手腕で3倍以上の差が出そうです。

クリエイティブによる自己主張の時代?

クリエイティブを発案/企画/監修して中心となって作り上げる人がいます。 中には、ほとんどアーティストとも言えるような発想と努力をしている人もいます。

しかし、そのような方々は、例えば大きな広告代理店という組織の一員として表に出る事が無い場合があります。 その業界内ではある程度知名度があるかも知れませんが、それ以外の場所では誰も知らないという状況があります。 広告は見覚えがあっても、作った人が誰かは知らないというパターンが多そうです。

これは、恐らく大手広告代理店が「作った人」に着目して欲しくないためであると思われます。 例えば、外で「この広告を企画した。この企画のポイントはここだ。」というような事を出してしまって社内で叱責された事例や、広告を企画して制作した話をブログ上で書いたら某広告代理店からその記事を削除するように言われた某ベンチャー企業社員という事例があります。

テレビなど限られた枠で、その枠にアクセスすることが困難であれば、広告代理店が多くの部分を半独占することも可能だと思われます。 しかし、インターネットは独占が不可能なぐらいカオスです。 様々なプレイヤが独自に色々なことを自律分散的に行っています。 もはや、大手代理店の中にいなくてもクリエイティブな何かを作って配信することは可能です。

そして今後は、自力で広告案を企画し、広告主を説得し、作成ディレクションを行い、成果を出すような人が出現するような気がします。 名前をうっていくような人は、どちらかというと、大手広告代理店よりもクリエイティブを専門でやるベンチャー企業などから現れるのかも知れません。 そのような方々が徐々に出てくると、「中の人」が誰かが可視化された広告が増えていき、広告とクリエイターがセットになるのが当たり前の世界が到来するかも知れないと思います。 ポートフォリオとしての広告成果をリアルタイムに個人と結びつけられる世界が来ると、テレビ広告でも広告主が「クリエイティブはこの人の監修で」と当たり前のように指定されたりするんですかね?

エンジニアにも言えること

広告クリエイティブというフィールドでの自己主張という内容で書いてきましたが、これはエンジニアにも言えることかも知れません。

大企業などには、「名も無い」凄いハッカー(not cracker)が大量にいます。 彼ら(彼女ら)は、恐ろしく凄いのですが製品の影に隠れてしまっています。 企業としては、「その人が作った」というよりも「企業が作った」にしたいですし、製品は「その人」が一人で作り上げるようなものではない場合が多く、多数の人が製品に関わることが一般的です。 結果的に、超凄い技術を持ったエンジニアであっても、企業内の一労働者であり続けます。

中小企業にも凄い人はいます。 しかし、企業が小さければ小さいほど、そのような「凄い人」は表に出ざるを得ない環境が出来上がって行きます。 そして「有名ハッカー」の多くは、大企業ではなく中小企業所属者が多いようなイメージが形成されていくのかも知れません。

製品とハッカーをクローズアップさせると「プロジェクトX」のような番組になるんですかね? まあ、最近は民放のバラエティが不評でNHKにゴールデンタイム視聴率1位を奪われて「これからはドキュメンタリーだ!!!」という掛け声が増えているらしいので、もしかしたら、プロジェクトXに類似した番組も登場するかも知れないですね。 プロジェクトX的な内容であれば、番組そのものが宣伝になりやすいですし。

まあ、目立ちたい人がいる一方で、目立つのが鬱陶しいという人も多いため、かなりケースバイケースではあるとは思いますが。。。

まとめ

湯川さんの書かれている「クリエイティブな広告はなくならない。しかしその重要性は低下せざるを得ないのだ。(p.189)」というのは、実は私がここで書いている事と同じような気もします。

「同じ事を考えているかもしれない」と私が思った根拠の一つとして示せるのが以下の文章です。

いろいろなテクノロジー企業が、それぞれの強みであるツールを提供してくる中で、どのようなツールを組み合わせることで三河屋さん的顧客対応を実践できるのかという設計をすることは、テクノロジーではなく人間の役割であり続けるだろう。 (p.171より)

ということで、結局は同じような視点で話をしており、この記事は私の言葉遊びでしかないのかも知れません。

エンジニア希望者が激減しているという内容の文章を読むと、「やっぱりロールモデルだよなぁ」と個人的に思うことがあります。 「中の人」がもっと注目されるような世界がそのうち「来るだろう」「来て欲しい」と強く思う今日この頃でした。


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